公共図書館の冒険

制作 : 柳 与志夫  田村 俊作 
  • みすず書房
3.69
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本棚登録 : 174
感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622086826

作品紹介・あらすじ

今とは違う、別の公共図書館がありえたのではないか、それが本書を生み出す母体となった研究会メンバーの共通の思いだった。近代公共図書館が欧米で成立してからまだ200年もたっていない。我が国においてある程度普及してきたのは100年程度の話だ。一般の人々や図書館関係者の間で公共図書館像の揺らぎがあっても何の不思議もない。近年の指定管理者問題や無料貸本屋論争を見ていると、そもそも公共図書館という制度は日本に根づいているのだろうか、という疑問もわいてくる。その一方で、書店や出版をテーマとする本と並んで、図書館に関する本が次々と出版されている。そこにはさまざまな背景を持つ人々の図書館に対する期待や不満、理想が込められているのだろう。残念ながらそれに対して、図書館界から、これからの新しい公共図書館像が提示されているようには思えないのである。そして、私たちが、その解決のヒントを得ようとしたのが、我が国の公共図書館史をもう一度見直してみることだった。そこに別の可能性、別の見方があったのではないだろうか。
(「まえがき」より)

〈歴史から見直す〉〈図書館ではどんな本が読めて、そして読めなかったのか〉〈本が書架に並ぶまで〉〈図書館界と出版業界のあいだ〉〈図書館で働く人々――イメージ・現実・未来〉〈貸出カウンターの内と外――オルタナティブな時空間〉〈何をしたかったのか、何ができるのか〉の全7章。

感想・レビュー・書評

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  • 公共図書館。
    さまざまな資料を、無料で、どんな人でも読めるのは図書館の大きな特徴であり、利点である。
    一方で、ベストセラーを数多く所蔵し、本にお金を使いたくない人のための「無料貸本屋」になっているという批判もある。

    公共図書館はどうして今のような形になったのだろう?
    もしもっとよい「ほかの形」があるとしたらどんなものだろう?

    図書館の歴史を語る本は多くあるが、本書の特色は、時系列をただ追うだけでなく、「どんな本が読めたのか」「図書館で働く人々」「本が書架に並ぶまで」といったトピックごとに整理・考察することにより、図書館の成り立ちの背景をより深く知れることにある。
    図書館で働く人々にはもちろんだろうが、利用者の立場から読んでも目から鱗でおもしろい。
    特に、いわゆるベストセラーが置かれるようになったのはごく最近のことであるとか、一昔前に学生の「自習室」替わりとなっていた閲覧室使用の変遷などといった話はとても興味深い。

    公共図書館の役割は、「貸出」と「レファレンス(参考調査)」に大別されるという。
    こうした役割がよりよい形で提供されるために、困難を乗り越えつつ、図書館はさらに進んでいくのだろう。
    そんな来し方・行く末を考える興味深い1冊である。

  • 司書資格の科目の「図書館史」では現代史が駆け足になるが(せいぜいが「中小レポート」と「市民の図書館」くらい)、主要なトピックを拾って丁寧な解説がついていて勉強になった。図書館関係の本は、とかく当事者が自画自賛したり、自虐的だったり、理想論的だったりするが、この本は公平な記述に徹しようとする努力を感じた。

  • 図書館学の復習をした気分

  • 公共図書館に関する独自のトピックを設定し、歴史的に概観した図書。各章は分担執筆の形をとり、それぞれの章で独自の「問い」を立て、検証している。
    面白いと思ったのが、学生の席貸し排除や専門性確保の目的で、貸出を伸ばし、館外奉仕を行う「市民の図書館」が広まり、公共図書館が発展していく。ただ開館時間問題の不在や滞在型のニーズにより、現場の図書館員は悩む姿があった。新たなモデルを構築して、認めていく必要があるという指摘は今後の公共図書館の未来につながっていくと思う。
    あと都道府県立図書館の役割が変革して、いまだに見いだせていないというのは、なんとかせねばなぁ…

  • ふむ

  • 現代の日本の公共図書館の抱える諸課題について、その歴史を振り返って考える本。
    第1章:日本の図書館史のコンパクトな概論。
    第2章:貸本屋、新聞縦覧所、雑誌回読会。図書館周辺の読書装置に注目し変遷を追う。戦前も娯楽本や雑誌、マンガの需要は高かったが図書館に置くべき書ではないと考えられていたこと。
    第3章:図書の装備が戦前はどのように行われていたか。業者への外注。学校図書館と取次との近い関係。日本図書館協会事業部による装備事業から、TRCの成立へ。
    第4章:1970年代を中心に、出版業界と図書館との関係。互いにとってさほど特別な商売相手ではなく、図書館側の要請は図書館固有というより一般的な出版流通の問題。1952年、栗田書店の創業者栗田確也が栗田ブックセンターを創設。現物の一大目録を目指した。現在、北海道立図書館には栗田文庫がある。1952年刊行の『図書館年鑑』(現在継続刊行中のとは違う)。
    第5章:フィクションに登場する図書館員像の検討から、専門性は意識されていないとの指摘。一方で日本の図書館員養成制度を振り返る。図書館令、出納手の存在、司書職制度。同じ議論が昔から繰り返されている、という印象。
    第6章:開館時間延長と滞在型空間という時空間の検討から、「貸出しカウンターモデル」を指摘。カウンターでの貸出し業務が選書やレファレンスの基盤ともなるもので、それなしに時空間のアクセスだけを拡大しても意味がないとする議論。上記モデルにおける専門性が、統合性の重視ゆえに言語化を拒み、「カウンターに立ってみないと分からない」ものになりうるという指摘(p280)。
    通史を読むのが若干苦手なのだが、こうしてトピックごとに掘り下げていく形だと分かりやすくて面白い。

  • 読了日

    読み終わらないので記録だけとる
    また借りる。

    もくじ

    まえがき 公共図書館の「もうひとつ」の可能性(柳 与志夫)

    第1章 歴史から見直す
     1 新しい図書館・話題の図書館
     2 無料貸本屋と武雄市図書館
     3 図書館のはじまり
     4 「格子なき図書館」
     5 市民の読書施設へ
     6 多様な担い手・多様な資源・多様な空間・多様な活動

    第2章 図書館ではどんな本が読めて、そして読めなかったか
     1 近代「読書装置」の輸入 ーー新聞縦覧所と書籍館の挫折
     2 読書公衆の出現と図書館の増加(明治末ー大正)
     3 先進館の発展と多様性(昭和前期)
     4 新聞・雑誌の扱い
     5 ラインナップの標準化から画一化へ
     6 戦後の画一化と、それにはまらないものたち
     7 まとめ

    第3章 本が書架に並ぶまで
     1 本はそのままでは棚に並ばない
     2 戦前の様子ーー大正末から昭和初期
     3 戦後ーー物資が貧しい時代
     4 図書館サービスの拡大ーー貸出と業務の外注
     5 コンピュータ登場後ーー出版流通と情報と機械化

    第4章 図書館界と出版業界のあいだ
     1 図書館と出版業界はいつもVS?
     2 1970年代の流通問題とジレンマ
     3 本の流通、本の存在ーー1950年代のポテンシャル
     4 越境する視点ーー1990年代の地域とコンピュータ、そしてデジタルシフト

    第5章 図書館で働く人々ーーイメージ・現実・未来
     1「図書館員のイメージ」の歴史
     2「図書館員」の歴史
     3「図書館で働くべき人」の歴史

    第6章 貸出カウンターの内と外ーーオルタナティブな時空間
     1 公共図書館に対するイメージと実態
     2 戦前の図書館はどう使われていたか
     3 閉架・館内閲覧から開架・館外貸出へ
     4 「貸出」図書館の展開
     5 「貸出カウンターモデル」を揺るがすもの
     6 問題はどこにあったのか
     7 オルタナティブな時空間を考えるために

    終章 何をしたかったのか、何ができるのか

    索引
    編者・執筆者紹介

  • 本の本

  • 公共図書館の歴史を学びなおすのは大切かもしれない。が、現状の問題には全く広がっていかないので物足りなさすぎ。図書館員イメージの変遷は面白く読めた。

  • 書名にやられて読んでいます。役割、ではなく、冒険!

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