羞恥

  • みすず書房 (2018年8月2日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (232ページ) / ISBN・EAN: 9784622087168

作品紹介・あらすじ

「脱北者」の三人には、亡命の過程で家族を失うという共通点があった。
ウォンギルはモンゴル砂漠で力尽きた妻を見捨てて娘を背負って逃げてきた。
トンベクは国境を越える直前に家族全員が目の前で公安警察に捕まるが、自分だけ助かった。
ヨンナムは別ルートで脱出した家族が中国で行方不明、人身売買グループの手に渡ったらしい。
やがてオリンピックの選手村建設予定地で、朝鮮戦争にさかのぼる大量の人骨が出土した……。
経済至上主義のなかで、脱北者たちのささやかな倫理感が崩れ落ちていく。北朝鮮出身の両親をもつ作家が韓国社会を凝視し、衝撃を放った小説。

感想・レビュー・書評

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  • 脱北者の物語を読もうと思っていたところ、偶然、ジュンク堂でみつけ、今、買わないときっとまた読まずに過ぎると思い、価格はなかなかだが購入。

    なかなか物語の波に乗れないのは脱北やそれにまつわることをこれっぽっちも知らないからのだと気付いた。

    舞台となっている場所が特定できず、イメージが戦前なセピア色で主人公たちが携帯電話を使い、コーヒーを飲むことに「えっ?」となる。あまりにも失礼な見下げたカンジ。舞台はおそらく韓国なのだ。
    脱北の様子はほぼ表現されておらず、幻想的に物語が進んでしまうから余計、散漫になる。
    でも、期待通り、終盤には力がこめられ物語は収束していく。

    生きる価値があるのか?と自らに問うとき、死んだほうがましに思え、自分は生きると決めたなら自然死に対して恐怖を覚える。これは脱北のために誰かを見捨てた者のみならず、どの時代でどこの国に生まれた人でもどんな環境に生きても感じ得る。

    そう思いながら読めば最後には涙がこぼれてしまった。わたしは思っている、生きる価値があるかないかは自らが決めることではないと。これを読んでも改めて思い出した。

  • 長くはないが、ねっとりと重い小説である。
    主人公は脱北者のウォンギル。亡命の過程で妻を亡くし、思春期の娘と韓国で暮らしている。
    友人であるトンペクとヨンナムもやはり脱北者で、トンペクは家族が公安警察に捕まり、ヨンナムの家族は中国で人身売買グループの手に落ちたらしいが詳細は不明である。

    自身のみが助かったトンペクは自分を責め続け、ついに自死を遂げてしまう。
    ヨンナムは田舎へ引っ込み、自給自足の生活を始める。

    近く、冬季五輪が開催されることになっており、街はその期待に浮かれている。
    あるとき、競技場建設予定地から朝鮮戦争の頃のものと思われる大量の人骨が出土する。米軍によるものか、あるいは人民軍か。
    ある劇作家が、この事件を元に、演劇を作ろうとする。ヨンナムはそれに出演するつもりだという。彼はなぜそんなものに出たいのか。失業して時間もできたウォンギルは、娘とその友達を連れ、彼の元を訪れる。
    人骨事件は、真相を解明せよというもの、オリンピック前にそんな話で水を差すなというもの、騒ぎを収めようとする政府が入り乱れ、どんどん騒ぎが大きくなっていく。
    ヨンナムの真意は何か、そこに秘められた思いは。

    過去を背負う脱北者の彼らは、好景気に沸く周囲についていけない。
    深い苦悩を秘め、せめてもの贖罪を願うが、周囲ははなから色眼鏡でしか見ないのだ。スパイだ、アカだと言われ、よその国に逃れてきたのだから、おとなしく目立たぬように暮らせと言う。
    しかし、経済至上主義の空気の中、より深くを見ているのは彼らではないのか。
    取り残されたような困窮の中、世の中を見つめる彼らの視線は暗いが鋭い。

    著者の両親もまた、「北韓」と呼ばれる北朝鮮から「南韓」といわれる韓国に逃れ、故郷を失った「失郷民」と呼ばれる人たちである。
    ただ、著者はこれを脱北者の厳しい現実を告発する物語としては描いていない。もっと普遍的に、現代韓国の諸問題と絡めて、「一つの悲劇」を描こうとしたと言っている。
    とはいえ、脱北者についてさほど知識のない日本人読者のため、訳者が巻末にそのあたりの事情も付記しており、優れた解説となっている。

    韓国内に住む脱北者は3万人を超えるという。
    数多くの彼らが、艱難辛苦の果てに国境を越え、あるいは命を落とし、あるいは心身ともに傷を負い、たどり着いた先でなお、真に受け入れられることがない。
    その孤独の重さを思い、また「羞恥」というタイトルに込められた意味を考える。
    なかなか答えが出ないのだが、あるいはまた、これは読み終わったところから始まる物語であるのかもしれないと思う。
    世界の流動と断絶について。その軋轢と苦悩について。
    自らの問題として考え続けていくということが、この物語の提起することなのか。
    そうであるならば、なるほどこれは普遍的な物語であるのだろう。

  • 辛いタイトルだ。

    「脱北者」の三人には、亡命の過程で家族を失うという共通点があった。
    ウォンギルはモンゴル砂漠で力尽きた妻を見捨てて娘を背負って逃げてきた。
    トンベクは国境を越える直前に家族全員が目の前で公安警察に捕まるが、自分だけ助かった。
    ヨンナムは別ルートで脱出した家族が中国で行方不明、人身売買グループの手に渡ったらしい。
    やがてオリンピックの選手村建設予定地で、朝鮮戦争にさかのぼる大量の人骨が出土した……。
    経済至上主義のなかで、脱北者たちのささやかな倫理感が崩れ落ちていく。北朝鮮出身の両親をもつ作家が韓国社会を凝視し、衝撃を放った小説。
    https://www.msz.co.jp/book/detail/08716.html

  • 過酷な体験をした者の拘らずにはいられない思いが、受け止められないままに経済や政治に巻き込まれ翻弄されていく。そうした構図で物語を進めることで、拘らずにはいられない思いを際立たせている。とても読みやすく描写もシンプルで的確。そのまま映画にしても良いものが出来そう。

  • オリンピックの招致とも絡んで二重に現代的な示唆に富む。

  • 期待していたのと違った。物語の内容は重いけどすらすら読めるので息苦しさや重厚感はない。あと主人公がチスにそこまで思い入れがあるのがあんまりわからない。しかし北韓に生まれたというだけで自由をもとめることが羞恥につながる不条理は生なましくもあった。

  • 文学

  • 読む前に、勝手に想像していた犯罪(麻薬とか人身売買とか)は作中でてこなかった。のに、苦しい。読書からもらう感情の種類としては珍しいタイプの苦しさ。
    重い。重いな。(個人の感想)。近隣の国、オリンピック開催間近、などの遠くなさがハードに効いてくるのかな。

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著者プロフィール

1968年大邱(テグ)生まれ。延世大学電気工学科卒業。両親が南北分断により北朝鮮から韓国へ避難してきた「失郷民」二世である。2004年、『いつの間にか一週間』で第9回文学トンネ作家賞を受賞して作家デビューした。2014年、『羞恥』(斎藤真理子訳、みすず書房)。他の長編小説に『古い光』がある。

「2018年 『羞恥』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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