測りすぎ――なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?

  • みすず書房
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本棚登録 : 498
レビュー : 40
  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622087939

作品紹介・あらすじ

「成功へのカギは成果評価にある」――今日あらゆる組織に蔓延している信念だ。しかしわれわれは業績を数字化することに固執するあまり、測定そのものを目的化してしまっていないだろうか。その結果、「測りすぎ」が組織のみならず個人の生活を破壊しつつある。教育、医療、ビジネス、政府活動など様々な事例をあげながら、経済学者がその原因と解決策を示した、コンパクトな本。「大問題をあつかった良書だ」(ジョージ・アカロフ)

感想・レビュー・書評

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  • 証拠ベースの政策決定。アカウンタビリティ(説明責任)。PDCAサイクル。それらのためにはまずは測定することが第一歩。ということで何でもかんでもまずは数値化という昨今。本書は、測る仕事ばかりが無意味に増えて頭にきた大学教授が専門外の文献を読んでまとめた論文の形になっている。測ること自体が問題だと批判しているわけではない。測ることが万能だと思うのが間違いである。数値化して可視化すれば何でも上手く行くわけではないのだ。測ろうとしている対象、例えば、学校の教師の能力だとか、会社組織のパフォーマンスなどのうち、実際に数値化できることはそのほんの一部分限られているし、測るのは数値化しやすい部分に限られるということ。測りやすいものだけ測って全てのように評価すると、測れない重要な事項が無視されることになる。欠点を認識せずに導入することは問題だし、測定に執着するのが間違いの元凶。測りすぎることのコスパも考えるべきだ。それらのことがもうずいぶん前から研究者によって明らかにされていることを、本書は教えてくれる。
    本書は言うなれば、”測りすぎ”の失敗学とも言えるだろう。こうすれば失敗するという分かり易い実例がたくさん紹介されているので、「さぁ測ろう!」という組織のトップには、本書を読んで過去の失敗例を学んでから測りはじめて欲しい。しかし、本書で紹介される失敗例をなぞるような「改革」が自分の所属する組織で進行していくのを知ると残念な限りかもしれない。
    本当に有意義で機能する「測定」システムは現場を担当する内部から改善運動のための起こる測定であって、測定される対象の人々が測定の価値を信じている場合のみだということを忘れてはいけない。最も失敗するのは、上からの「測定」を「報酬」と連動させる場合のようだ。特に、公的な仕事。公務員、警察、教師、医師、大学教授など、人々への貢献による精神的な内的報酬を重要視する分野では、数値化しやすい項目による実績評価を使った成果と給与とを結びつけることは、逆効果になることと結論付けられているらしい。うーん。

  • ■測定執着というパワーワード
    この本は、世の中のあらゆる組織にはびこる実績評価のための「数値測定」がもたらす弊害について、実例を用いて詳細に分析、解説された本です。
    組織を管理する有能マネージャー(自称)は、部下の売り上げ数、部下が出した不具合の数、部下の残業時間、部下の技能熟練度を数値化したスキルマップ、何でもかんでも測定して美しいグラフを作成して仕事をした気になってしまう、これを本書では「測定執着」と呼んでいます。
    なぜ、組織に、この「測定執着」から逃れられない有能マネージャー(自称)がこうも多く存在してしまうのか、その理由が実例を交えて解説されています。

    ■製品の不具合の数をカウントします
    「あなたの部署が開発した製品の不具合の数をカウントします、不具合が少ない部署には報酬を、多い部署には罰則を設けます、みんなで不具合を撲滅しましょう」
    例えばあなたの職場で、このような崇高な数値目標を掲げられた経験はないでしょうか?
    この時、不具合の数を測定する目的は、製品の品質を担保してエンドユーザーを満足させよう、というものであったりします。
    では実際のところ、この目標の元に働くあなたの職場では一体何が起こるでしょうか?
    不具合の数が増えないよう、不具合は隠され改ざんされ、あるいは不具合が露見しにくいような当たり障りのないテストだけが実施されるでしょう。
    そればかりか、不具合が出る可能性が高いチャレンジ志向の開発は避けられ、イノベーションあふれるクリエイティブな製品づくりへのモチベーションをあなたから見事に奪い去ってくれることでしょう。
    いつの間にか、品質の担保やエンドユーザーの満足度の向上といった当初の目標はどこかに追いやられ、半期ごとの不具合数が右肩下がりに見えるようなきれいな棒グラフをパワーポイントにおこすことが目標になってしまうことでしょう。よく言う目的と手段の入れ替わりというやつが発生してしまうわけです。

    ■有能マネージャー(自称)が「数値測定」が好きな理由
    筆者は、なぜ現代では、不具合数やセールス数や犯罪検挙数などの測定、いわゆる「数値測定」がここまで人気になったのか、という問いに対し、社会的信頼感の欠如がそうさせている、と答えています。
    これはつまり、エリートと呼ばれる管理者の立場の入れ替わりが激しい能力主義の現代において、自分の立場の維持に安心できない有能マネージャー(自称)が、「数字」という万人に公平に見える測定基準を利用して自分の立場の客観性を主張して信頼を勝ち取ろうとする動きであるというものです。
    そして筆者は、このような体制になってしまうと管理者は自身の裁量(これは目に見えない)で物事を判断することができなくなってしまう、と書いています。
    またこの時、測定に費やされる膨大なリソースは無視されるばかりか、簡単には測定できないけれど組織にとって本当に必要なアウトプットまでもが無視されてしまう、と述べられていました。

    ■測定値を能力評価に使うことの弊害
    本書では、測定値を能力評価に使うことの弊害について、数々の実例とともに紹介されています。
    例えば、アメリカで子どもの教育格差をなくす目的で政府主導で行われた教育改革の話。
    その改革の一部に「教師の能力評価による適切な報酬配分」というものがあり、それは「教師の能力を正しく数値評価し、いい教師にはいい報酬を出そう」といったものだったそうです。
    では、教師の能力をどうやって評価しよう?となったときに、当然校長の裁量で評価するわけにもいかず、客観性を可視化してくれる「数値測定」が必要、となり、結果、その教師が受け持つ生徒の定期テストの点数で評価する、となったそうです。
    すると何が起きたか?成績の悪い生徒を「障碍者」クラスに分類するような細工がされ、彼らの回答用紙は集計に加えられなかったそうです。教育格差をなくすという当初の目的は完全に忘れ去られています。

    ■医療業界での実績測定の成功例
    実績測定の欠点だけでなく、本書ではその成功例についても書かれています。
    それは、米国のガイシンガー・ヘルス・システムという電子医療記録システムで、患者の既往歴、治療計画、実績などすべてを電子記録し、その記録を患者当人だけでなく医者や看護師や薬剤師が共有することで統合チームによる治療を提供しようとするシステムです。
    このシステムにおける実績測定が成功した理由について本書には2つ書かれており、1つは、このシステムの目標を、患者が払う医療費の削減およびシステムが有効活用され場合の診療報酬が医療従事者へ支払われるという、患者と現場の医療従事者双方の実利に設定した点。もう1つは、このシステムにおいて何を測定するべきかという測定基準と、それをどのように測定すべきかという測定方法を、現場を知らない管理者ではなく、現場の医療従事者が直接主導して決定したという点です。
    この2つ目は実績測定を成功させるために特に重要で、現場にとって何が有効な測定データであるかを現場の人間が決めることで、実績測定についての現場の同意が得られるし、測定データが現場従事者の提供するサービスの向上に直接貢献できることになります。
    要するに、現場従事者が、自身が提供するサービスをより良くしようという自発的な動機で、実績測定を有効活用したから成功した、という訳です。

    ■自分たちの経験と見事にシンクロする
    本書では、先の教育現場で起きた「測定執着」の顛末のほかにも、警察、医療、軍隊、ビジネス、慈善事業など、さまざまなシーンで起こった実例をありありと紹介しており、読んでいくうちにそれらの事例は僕たち読者自身の職場や組織の中で起きていることと見事にシンクロしてみじめな気持ちにさせられます。
    しかしそれと同時に、自分たちが日ごろ心に抱えていた「数値測定」に対する違和感を見事に言い当ててくれていてすっきりした気持にもなれますので、ぜひ読んでみてください。
    逆に、数値評価を愛してやまない有能マネージャー(自称)にとっては目を背けたくなる本だと思いますので、そういった方は読まないことを推奨します。

    ■能力給は理にかなっているのか?
    最後に、「とは言え利益を得ることが目的であるビジネスの世界では、数値測定による能力給は理にかなっているのではないか?」という問いに対する筆者の考えについて紹介します。

    『たしかに、能力給がその約束を果たしてくれる場合はある。こなすべき仕事が反復的で非創造的であり、標準化された商品やサービスの生産または販売に関するものである場合、仕事内容に関して判断を求められる可能性が少ない場合、仕事に内在的満足があまりない場合、実績がチーム全体ではなくほぼ完全に個人の努力に基づいて測定できる場合、他者を手伝ったり励ましたり助言を与えたり指導を行ったりする行為が仕事の中で重要な位置を占めていない場合がそうだ。』

  •  のべ5時間で読了。
    管理する側の「測定執着」は必ず改竄・不正を生む、という状況は誰しも感じた事のある状況だろう。
     本書は、教育・医療・警察そして軍などのケーススタディを絡めて、測定基準を能力評価として用いることの「予期せぬ弊害」を明らかにする。学者の訳本だが大変読みやすくオススメ。

  • KPIの設定について議論すると、経営者の経営センスや部門運営者の運営センスが如実に表れるが、本書はその言語化が難しい「センスの善し悪し」を具体的事例を多数研究して「数値目標」という切り口から見事にあぶり出している。
    みんな一様に可視化、見える化、KPIと叫ぶが、現場感覚なくダッシュボードを眺めたり、偉そうに論評して、仕事をした気になっている人はいくらでもいる。それだけならまだしも、なんちゃって経営のために膨大な労力と時間を使って可視化に携わる人達がいるのが残念でならない。
    そもそも何を可視化するのか、何故可視化するのか、あなたやあなたの組織の目的はなんなのか?
    そんな当たり前の話が理解できない人に是非読ませたい一冊。
    ただ、原書からそうなのか、文章が回りくどい感じで、読む気が萎える所もあるのは残念としか言いようが無い。

  • 「測りすぎ」というタイトルの翻訳が秀逸すぎる。
    言わんとする事がある意味読まずともよく分かる(汗)

  • 『測りすぎ――なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?』
    原題:The Tyranny of Metrics
    著者:Jerry Z. Muller(1954-)
    訳者:松本 裕

    測定そのものの目的化が、教育、医療、ビジネス、政府活動など様々な組織を破壊する事例をあげながら、経済学者がその原因と解決策を示す。

    四六判 タテ188mm×ヨコ128mm/224頁
    定価 (本体3,000円+税)
    ISBN 978-4-622-08793-9 C0033
    2019年4月26日発行

    “多くの人が漠然と感じているのは、業績評価が問題の本質を外れ、文脈を奪い、人間による判断の微妙さを軽視して、システムのメカニズムを知っている者だけの利益になっている、ということだ。本書は、この傾向がどこから来るのか、なぜこの傾向が非生産的なのか、なぜわれわれがそれを学ばないのか、をはっきりと説明している。…あらゆる管理職が読むべき本。”
    ティム・ハーフォード(エコノミスト。『まっとうな経済学』)

    「測定基準の改竄はあらゆる分野で起きている。警察で、小中学校や高等教育機関で、医療業界で、非営利組織で、もちろんビジネスでも。〔……〕世の中には、測定できるものがある。測定するに値するものもある。だが測定できるものが必ずしも測定に値するものだとは限らない。測定のコストは、そのメリットよりも大きくなるかもしれない。測定されるものは、実際に知りたいこととはなんの関係もないかもしれない。本当に注力するべきことから労力を奪ってしまうかもしれない。そして測定は、ゆがんだ知識を提供するかもしれない――確実に見えるが、実際には不正な知識を」 (はじめに)

    パフォーマンス測定への固執が機能不全に陥る原因と、数値測定の健全な使用方法を明示。巻末にはチェックリストを付す。
    https://www.msz.co.jp/book/detail/08793.html

    【目次】
    はじめに

    Part I 議論
    1 簡単な要旨
    2 繰り返す欠陥
    一番簡単に測定できるものしか測定しない/成果ではなくインプットを測定する/標準化によって情報の質を落とす/上澄みすくいによる改竄/基準を下げることで数字を改善する/データを抜いたり、ゆがめたりして数字を改善する/不正行為

    Part II 背景
    3 測定および能力給の成り立ち
    能力給の起源の一部/実績を測定する──テイラー主義/管理主義と測定
    4 なぜ測定基準がこれほど人気になったのか
    判断への不信感/専門職批判と選択の神聖化/コスト病/組織の複雑さの中でのリーダーシップ/その抗いがたい魅力
    5 プリンシパル、エージェント、動機づけ
    ニュー・パブリック・マネジメント/外的報酬と内的報酬
    6 哲学的批判
    合理主義者の幻想/科学主義/ケドゥリーによるサッチャー批判/説明責任の急速な前進

    Part III あらゆるものの誤測定?――ケーススタディ
    7 大学
    測定基準を引き上げる──誰もが大学へ行くべきだ/勝者の数を増やせば、勝利の価値が低くなる/低い基準と増える測定/大学の実績を測定しろというプレッシャー/ランキングの激しい競争/学術的生産性を測定する/ランキングの価値と限界/大学を格付けする──スコアカード/測定基準からのメッセージ──大学は金を稼げるようになるところだ
    8 学校
    問題と、解決策と言われるもの/意図せぬ影響/データを倍増させる/能力給/決してなくならない「学力格差」/格差解消への取り組みの代償
    9 医療
    コスト抑制への経済的後押し/アメリカの医療制度を格付けする/解決策としての測定基準/成功の三つの物語/これらの成功から導き出される結論は?/より大局的な視点──測定基準、能力給、ランキング、成績表/テストケース──再入院を減らす/バランスシート
    10 警察
    11 軍
    12 ビジネスと金融
    能力給がうまくいくときと、いかないとき/金融危機/短期主義/その他の機能不全
    13 慈善事業と対外援助
    変革的vs測定可能
    補説
    14 透明性が実績の敵になるとき――政治、外交、防諜、結婚
    親密さ/政治と政府/外交と諜報活動

    Part IV 結論
    15 意図せぬ、だが予測可能な悪影響
    測定されるものに労力を割くことで、目標がずれる/短期主義の促進/従業員の時間にかかるコスト/効用の逓減/規則の滝/運に報酬を与える/リスクを取る勇気の阻害/イノベーションの阻害/協力と共通の目標の阻害/仕事の劣化/生産性のコスト
    16 いつどうやって測定基準を用いるべきか――チェックリスト

    謝辞

    索引
    原注

  • 最初の10ページと最後の10ページを読めばいいタイプの本。
    後は全部事例。

  • 測るほどわからなくなる。測るからこそ、そこに手を入れるスキができる。

  • わかるー。計りすぎはイノベーションを阻害する。
    テーマは良い。結果もすごい理解できるが途中がちょっとくどい。

  • 【配架場所、貸出状況はこちらから確認できます】
    https://libipu.iwate-pu.ac.jp/opac/volume/513532

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