科学者は、なぜ軍事研究に手を染めてはいけないか

  • みすず書房
3.45
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感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622088141

作品紹介・あらすじ

「科学倫理の書だけでは決定的に欠けているテーマがあった。科学者および技術者が軍事研究に手を染め、戦争で人間を効率的に殺戮するための手段の開発研究に深入りしている問題で、これこそ問われるべき科学者・技術者の倫理問題と言えるはずである。…本書はおそらく〈科学者は軍事研究に手を染めるべきではない〉と主張する最初の本になると思っている」

グローバル化が喧伝され、生き残るために倫理を置き去りにすることを当然としかねない現代、企業は儲けのために手抜きや不作為が常態化して安全性が二の次になり、政治は軍拡路線を拡大して貧富の格差の拡大を放置し、科学者の多くは研究費欲しさに軍事研究に励み、人々はお任せ民主主義になれてしまい、長期的な視点を失っている。このような時代にあって、著者は科学者の責任として、本書を書き下ろした。
第一次世界大戦、ナチス期の科学者や日本の戦時動員体制から、安倍内閣による「防衛装備庁の安全保障技術研究推進制度」の詳細、大学や科学者コミュニティの実際、AI兵器・ゲノム編集、デュアルユース(軍民両用技術)のあり方まで。若き科学者に向けて普遍的かつ喫緊なテーマの全体像をはじめて記す。

感想・レビュー・書評

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  • 理工系の学生・研究員・大学教員はぜひとも読んだ方がいい。
    研究倫理というと、研究不正に関するものが多いが、本書はタイトルの通り軍事研究に注目したもの。大学院の授業でもこういった話をされることはなかったが、知っておいた方がいい内容が多かった。
    偉大な成果を残したハーバーが、率先して毒ガス研究を行っていた話が特に衝撃的だった。

    科学者が戦争に協力してきた歴史、軍事研究に携わった科学者が言い逃れする常套句からはじまり、世界的な軍縮の流れ、軍拡路線に走る日本、そして「科学者は軍事研究研究に手を染めるべきではない」という結論に繋がっていく。

    終章を読み終え、暗澹たる気持ちになった。
    「武力による他国への侵略は起こらず、対話を通した平和維持が可能である、そのため軍備を増強して威嚇する必要も軍事研究を行う必要もない」というのが筆者の主張だ。
    だが、2022年現在戦争は存在している。軍事研究を進めて威嚇し続ける国もある。「各国と連携して〜」とはよく見る文言だが、果たしてそれにどれほどの効果があるのだろうか。
    かと言って科学者が率先して軍事研究を進めるようになれば、他国も負けじとより性能の高い武器を手にするようになるだろう。

    今後科学者はどうするべきか。無力感を覚えた。

  • 407-I
    進路・小論文コーナー

  • ふむ

  •  現代日本における「軍学協同」を徹底批判する立場で論陣を張ってきた著者による警世の書。
     「デュアルユース」「ミックスユース」を隠れ蓑としながら、防衛予算を使った研究を是認しようとする風潮に対して厳しい問題提起を行っている。とくに第一次・第二次世界大戦における科学者の戦争協力の経緯と、国際社会における戦争違法化に向けた動向とが背馳してきたという指摘は決定的に重要。著者の見立てに従えば、科学者たちは一貫して、国際紛争の解決手段として「戦争」を認めない、という理念を裏切る方向で行為してきたことになる。

     また、2015年に導入された防衛装備庁による「安全保障技術推進制度」にもとづく研究の問題点が詳しく記されたことも勉強になった。防衛装備庁はじつに巧妙に、ホンネとタテマエとを並記しながら、研究者の「良心」が痛まないような甘言を散りばめながら、研究者・研究機関を取り込もうとしている。「学」が「軍」の召使いにならないように、というのは、もちろん人文系の研究者にも当てはまる。
     なぜ、何のために学ぶのかという根本に立ち返って、自らを省みるところから始めなければならない。

  • 科学者と銘打っているものの、それは自然科学だけではなく人文科学の学徒にも薦めれられる一冊である。

    私たち科学者は、専らその活動のためを考えてややもすれば、その資金提供をする団体の理念や活動というものにあまり多くを払わず、自らの活動のために目先のものを求めてしまっているのではと感じたものだった。

    科学者は、我が国のひいては世界の科学というものを一歩でも前に進めることを、期待されている人間であるということを今一度胸に刻み込むべきと痛切に感じた。

    それは直接の技術に関わるような研究をする自然科学だけではなく、人文科学の従事する私のような科学者(あえて科学者と称させていただきます)も心得ておくべきものであると。

    学問のあり方、大学はそもそも世間からどのような期待をされているのか、我々はなぜ学ぶのか、何を世界へ残すのか、ということを考えている人に手にとってもらいたい一冊だ。

    (読了に4日)

  • 【配架場所】 図・3F開架 
    【請求記号】 407||IK
    【OPACへのリンク】
     https://opac.lib.tut.ac.jp/opac/book/190833

  • 科学者の人たちには常識なんだろうけど知らなかった!という話も多くいろいろ勉強になった。そこは敢えて反論しなくても良いのではと思うところもあったけど、熱い思いが分かる。
    澄んだ目で、というのが心に残る。

  • 岩波新書でいろいろと書いているが最新版である。ヨーロッパやアメリカの歴史的なことも豊富に書いてある。それだけではなく、日本のことについても軍事研究に手を染めた科学者のことも書いてある。
     大学のFD研究でぜひやるべき内容である。

  • 著名な天文学者による科学者・技術者向け反戦論。突き詰めるとそれはそうなんだけど,やはり一面的な見方だよなあ,という感想。

    それと感じたのは,この本は全く当事者への取材というのをしていないためにこういうことになったのかなってこと。
    机上で長年の持論を更に煮詰めて世に出しただけ,という感じが否めないのは,やはり弱点なんだろう。

    このくだりなど,たとえ実績ある立派な科学者でも,持論に有利なように事実をねじ曲げてしまう良い例かも。
    「劣位になった兵器は一度も使われないまま廃棄される…自衛隊が爆撃機を何年かおきに更新しているのが典型」p.79
    何の話だろう?自衛隊が爆撃機を運用したことなんて皆無なのに「更新」とは謎すぎる。

    日本の支援戦闘機が(F-86F→)F-1→F-2と更新されたことだとしても「何年かおき」には到底ならない(就役F-86F:56年,F-1:78年,F-2:01年)。こういう杜撰な記述が散見されるようでは説得力も薄い。
    聡明な人間でも確証バイアスから逃れるのは難しいのだな。

    ドローンの「人道性」について,“自国の陣営の被害の可能性をなくし、もっぱら敵のみに被害を与える”p.66と批判しつつ,“敵をせん滅する能力が上回るのなら、そこに多少危険性が残っていてもかまわない。武器の扱いで死傷者が出るのは当然としている”p.231というのは矛盾のような気もしたけど,そうでもないか。
    在沖米軍の事故や4月のF-35A墜落なんかが後者なんだろう。もちろん当局は死傷者出るのを当然と考えてはいないけど,そのように見えるというわけか。池内先生はそもそも防衛目的の武装をも認めない立場なんだから,見解の相違は避けられるわけがない。

    「自衛隊は国土防衛隊に改組して丸腰になり、あらゆる国際紛争や国家間の対立は交渉と話し合いによって解決すべきだと考えている」p.213
    丸腰の「防衛隊」って何だろう?

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著者プロフィール

1944年姫路市生まれ。名古屋大学・総合研究大学院大学名誉教授。1967年京都大学理学部卒業、1972年京都大学大学院理学研究科博士課程修了、1975年京都大学理学博士。京都大学理学部助手を皮切りに、北海道大学理学部・東京大学東京天文台・大阪大学理学部・名古屋大学理学研究科を経て、総合研究大学院大学教授・理事の後、2014年3月に定年退職。九条の会世話人、世界平和アピール七人委員会委員。著書に、『科学の考え方・学び方』(岩波ジュニア新書、1996年)、『寺田寅彦と現代』(みすず書房、2005年、新装版2020年)、『科学者と戦争』(岩波新書、2016年)、『物理学と神』(講談社学術文庫、2019年)、『江戸の宇宙論』『江戸の好奇心』(いずれも集英社新書、2022年、2023年)、『姫路回想譚』(青土社、2022年)他多数。

「2024年 『新潟から問いかける原発問題』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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