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Amazon.co.jp ・本 (536ページ) / ISBN・EAN: 9784622088196
作品紹介・あらすじ
人気ブロガー経済学者が、経済学の概念「シグナリング」をキーワードに、現在の教育システムが抱える問題点を実証データで分析する。
なぜ学生は楽勝授業を探し、試験が終われば学んだことを平気で忘れてしまうのか? なぜ過去数十年で教育が普及したのに、平均的な労働者が良い仕事に就けず、学歴インフレが起きているのか? なぜ企業は、ほとんど使うあてのない学校教育を受けた労働者に給料を支払うのか? なぜ社会では、学校を卒業することが最大の協調性のシグナルになるのか?
その答えのカギはすべて、「教育の最大の役割は学生のスキルを伸ばすことではなく、知力、協調性、仕事への姿勢についてのお墨付きを与えることにある」というシグナリングの考え方にある。本書の示す問題解決への道筋は、高等教育縮小と職業教育拡充だ。
最新の社会科学による、教育への根源的かつ挑発的な問いかけ。
重要な問いを提起している。
――『ガーディアン』紙
[教育を]再考しつつある生徒にも、親にも、新風を吹き込む本だ。
――『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙
きわめて重要な本だ。
――L・プリチェット(ハーバード大学教授)
彼の結論に読者は心を乱されるだろう。
怒りさえするかもしれない。だが無視できないはずだ。
――R・ヴェダー(オハイオ大学教授)
感想・レビュー・書評
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教育投資の効果は大きい――学歴が上がれば賃金も増える。その理由は、高い教育を受けることで仕事の生産性が高まり、その生産性に応じて賃金も上がるから、ではない。そうではなくて、教育の「シグナリング」効果こそが賃金を高めてくれるのである。
「シグナリング」は本書のキーワードだ。教育を受けることで(というか、卒業証書を手に入れることで)、学生は自分が「知力・真面目さ・協調性」を備えた人物であると示すことができる。なぜなら、こうした能力が欠けていたら無事に学校を卒業できなかったはずだからだ。これがシグナリングである。
教育についてのもっと素朴な見方は人的資本論と呼ばれる。学生は学校教育をつうじて多くの技能(人的資本という)を身に付ける。しかし、著者はこの見方に批判的である。高校や大学では仕事に役立つ技能をほとんど教えないし、学校教育は学生・生徒の知力をさほど高めるわけでもないからだ(2章)。それにもかかわらず、企業は「学位」を持つ労働者に高額のプレミアム賃金を支払う(3章)。シグナリング理論はこの現象をもっとも単純明快に説明できる(4章)。
では、実質的な中身のない学校教育など受ける意味がないのか?そうではない、というのが著者の主張である。学校教育がシグナリングであっても、学位を取れば賃金が上がる。個人レベルでは学校教育から大きな恩恵を受けるのだ(5章)。しかし、学校教育が実質的な価値をともなわないならば、政府による教育支出は社会的に見て大きな損失である(6章)。ここでの議論のために、著者は教育にまつわる費用と便益を注意深く数え上げながらシミュレーション分析を行なっている。以上の分析を踏まえれば、論理的に以下の結論が導き出せる。政府が教育支出を減らせば、社会厚生が改善するのである(7章)。社会的な投資効率を高めるためには、カリキュラムをスリム化し(不要な科目をなくし)、職業教育を充実することも有効な方策となる(8章)。
本書のタイトルを見て誤解してしまうかもしれないが、本書の主張は「学校教育を受けるべきではない(大学へ進学するべきではない)」とか「質の高いオンライン教育が増えている中で、大学は教育カリキュラムを改革・拡充するべきだ」といったものではない。
本書での著者の主張は2つに集約できる。
①学校教育の多くはシグナリングでしかなく、個人レベルでは大きなリターンをもたらしてくれても、社会的には無駄が大きい。
②資源を有効活用するために政府は教育支出を削減し、可能であればゼロにするべき(場合によっては教育に課税してもよい)。
読みやすい文章でスラスラと読み進めてしまうのだが、統計的な議論などはやや難しい。それでも全体として議論は分かりやすく、著者が根拠として示したデータや研究には説得力がある。けれども、教育支出削減という著者の提案を抵抗なく受け入れられる人は少ないだろう。著者が嘆くように、多くの人にとって「魂を涵養する」教育は聖なるもので、お金の問題ではないのだ(9章)。教育にたずさわる多くの人に本書を読んでほしいが、教育政策にかかわる人には特に本書を手に取ってもらいたい。色んな議論のきっかけになると思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
【感想】
極論ぎみだが、「人材育成の面で大学教育は(職業教育より)効率が悪いのではないか」というのは大事な論点。たとえ言いにくい立場からでもこの主張を書けるのはいかにも経済学者っぽい。
ただし物足りない点もある。
(1)大学教育が与えるプラスの外部性を著者がちゃんと評価していない(6章3節にある内容だけではない)、(2)代わりとなるはずの効果的な職業教育についてはあまり詳しく書かれていない、(3)仮にこれだけ大きな産業を大幅に縮小した場合、雇用の面でどんな影響があるかが不明瞭、(4)(教育面で)大学教育の縮小が多くの高校生のモチベーションを下げないか……など。
特に、(2)の「職業教育(または職業訓練)は効率的なのか」についての議論は、本書の主張にクリティカルに刺さっている点。職業教育は効果があるにせよ、あまり大きくないのではないかと私は思う(例えば、生産性の高い人材にとって、(即効性の低いことを教えられる)大学教育を超えるほどの職業教育とはなんだろう?)。
本書の「結論」(401-408頁)はなかなかシニカルで、しらふで読むと、執筆時の著者のテンションがおかしかったのではないかという気すらする。
【書誌情報】
『大学なんか行っても意味はない?――教育反対の経済学』
原題:THE CASE AGAINST EDUCATION: Why the Education System Is a Waste of Time and Money
著者:Bryan Caplan 公共経済学、公共選択論。
訳者:月谷真紀
分量:536頁(414+xi+104)
版型:四六判
寸法:タテ188mm×ヨコ128mm
定価:4,968円(本体4,600円)
ISBN:978-4-622-08819-6 C0033
発行日:2019年7月16日
人気ブロガー経済学者が、経済学の概念「シグナリング」をキーワードに、現在の教育システムが抱える問題点を実証データで分析する。
なぜ学生は楽勝授業を探し、試験が終われば学んだことを平気で忘れてしまうのか? なぜ過去数十年で教育が普及したのに、平均的な労働者が良い仕事に就けず、学歴インフレが起きているのか? なぜ企業は、ほとんど使うあてのない学校教育を受けた労働者に給料を支払うのか? なぜ社会では、学校を卒業することが最大の協調性のシグナルになるのか?
その答えのカギはすべて、「教育の最大の役割は学生のスキルを伸ばすことではなく、知力、協調性、仕事への姿勢についてのお墨付きを与えることにある」というシグナリングの考え方にある。本書の示す問題解決への道筋は、高等教育縮小と職業教育拡充だ。最新の社会科学による、教育への根源的かつ挑発的な問いかけ。
〈https://www.msz.co.jp/book/detail/08819.html〉
【目次】
コロフォン [/]
献辞 [i]
目次 [iii-viii]
序文 [ix-xi]
序章 001
シグナリング――なぜ市場は暇つぶしに報酬を払うのか 004
教育――個人にとっては利益、社会にとっては無駄 007
1 教育というマジック 011
実社会と乖離した教育 012
魔法が報酬を生むからくり 017
シグナリングの基本 019
教育は何をシグナリングするのか 021
閉じ込め症候群 026
シグナリングは「理屈に合わない」 030
シグナリング=100%のシグナリング シグナリング=「知力のみのシグナリング」 シグナリングの効果が出るのに何年もかかるのはおかしい 「市場はいつまでもだまされてはくれない」 シグナリングと採用ミス
お前にこの謎が解けるかな? 037
世界最高の教育はすでに無償である 落第vs忘却 楽勝授業 カンニング なぜ学生は休講を喜ぶのか?
教育という錬金術 044
2 実在する謎――無益な教育の遍在 045
カリキュラムの内容 046
高校 大学
学習を測定すると 055
読み書きと計算 歴史と公民 科学 外国語
実生活との関係を問う意味 069
教育で人は賢くなるのか 082
仕事力はどうやって身につくのか 087
しつけと社会性 088
人脈づくり 092
教育の偽りの約束 094
3 実在する謎――無益な教育の大きな見返り 097
認めるべきは認めよ――能力バイアスという名の亡霊 099
能力バイアスの補正――外見は中身より立派 102
因果の逆転 能力の見落とし
労働経済学者vs能力バイアス 107
小麦vsもみ殼? 111
小麦ともみ殻と授業 小麦ともみ殻と専攻 小麦ともみ殻とミスマッチ
学歴偏重主義は国が作った? 119
政府の学歴偏重主義 資格 IQ「ロンダリング」
教育の便益を見くびっている? 127
失業 福利厚生 測定ミス
教育の本当の見返り 131
4 シグナリングの証拠――あなたがまだ納得していないなら 133
シープスキン効果 134
不完全就業と学歴インフレ 141
雇用主の学習速度 150
雇用主の学習に関する研究は非認知能力を無視している 学習が頭打ちになるのは知識が完全になったことを示唆するわけではない シグナルは雇用主が真実を知った後もなお給与に影響する可能性がある
教育プレミアム――個人vs国家 157
ステップ1 ――個人の1年分の教育が個人の所得に及ぼす効果を測定する ステップ2 ――国民の1年分の教育が個人の所得に及ぼす効果を測定する ステップ3 ――両者を比較する
テストの得点はどうか? 164
労働経済学者vs.シグナリング 167
5 それがシグナリングかどうか、誰が気にするのか――教育の利己的なリターン 173
教育の利己的なリターン――入門編 175
大事なものをすべて勘定に入れると 179
「優等生君」の場合 181
報酬 雇用 税金と所得移転 仕事の満足度 幸福度 学習の苦痛と恍惚 健康 授業料その他の経費 放棄所得 経験を考慮する 修了の確率 「優等生君」の結果
教育の利己的なリターン――他のみんなの場合 202
能力と教育の利己的なリターン 専攻と教育の利己的なリターン 大学の質と教育の利己的なリターン 自己費用負担と教育の利己的なリターン 学校観vs仕事観と教育の利己的なリターン 性別と教育の利己的なリターン 結婚と教育の利己的なリターン 労働参加率と教育の利己的なリターン
賢い学生のための実践的指針 222
疑問点 225
あなたのスプレッドシート 227
6 シグナリングなのかどうか、そこが気になる――教育の社会的なリターン 229
教育の社会的なリターン――入門編 230
教育の社会的なリターン――大事なものをすべて再計算する 231
報酬から生産性へ 雇用 税金と所得移転 仕事の満足度、幸福度、学習の喜び 健康 授業料その他の経費 経験を考慮する 修了の確率
教育の社会的なリターン――純粋に社会的な便益 242
経済成長 労働参加率 政治 子供(の質)の考察
社会的なリターンの算定――シグナリングを慎重に見積もった場合 254
「優等生君」の場合・再考 能力別の社会的なリターン
社会的なリターンの算定――シグナリングを妥当に見積もった場合 259
社会的なリターンの算定――これを妥当と言えるのか 261
社会的なリターンを探して 264
専攻、難易度、態度と社会的なリターン 性別と社会的なリターン
疑問点 267
シグナリングの割合 労働参加率と能力バイアス 犯罪、シグナリング、シープスキン効果
教育版ドレイクの方程式 269
7 部屋の中の白い象――教育はもっと減らすべき 273
教育を支持する最も優れた主張のどこがおかしいか 276
魂を陶冶する場としての学び舎? 279
あなたの象の大きさは? 280
教育の削減――なぜ、どこで、どのように 285
カリキュラムの贅肉を落とす 授業料よ助成金を削減する
高額の授業料と学生の借金の秘められた謎 294
修了率を上げる? 296
シグナリングと社会正義 298
私の本音 301
なぜ教育に課税しないのか 305
オンライン教育という偽の救世主 306
社会的望ましさのバイアスによる政治 311
8 1 > 0 ――もっと職業教育が必要だ 315
なぜ職業教育の勝ちなのか 317
職業教育の利己的なリターン 職業教育の社会的なリターン
児童労働がなぜいけない? 321
非職業教育、あるいは1 > 0 327
子供について考え直そう 330
9 母なる学び舎――教育は魂を涵養するのか 333
価値財としての教育 336
魂の妥協案 340
聞き流されるだけのハイカルチャー 342
政治的な正しさ〔ポリティカル・コレクトネス〕というこけおどし 346
有権者の動員 350
現代のライフスタイル 351
宗教 結婚と離婚 出生率
視野を広げる 357
遊びの効用 359
シニカルな理想主義者 363
10 教育と啓蒙をめぐる5つの座談会 367
座談会1 教育って何の役に立つの 368
座談会2 大学とジレンマ 374
座談会3 教育投資は割に合うか 379
座談会4 なぜあなたはアンチ教育の立場なの? 386
座談会5 教育vs啓蒙 394
結論 401
不審物を見かけたら通報を 403
結果発表 405
技術付録 修了確率と学生の質 409
高校の修了率
学士号の修了率
修士号の修了率
表一覧 [104]
図一覧 [101-103]
参考文献 [53-100]
原注 [4-52]
索引 [1-3]
【表一覧】
表2-1 学問分野別の学士号取得者(2008-2009年)
表2-2 NAAL 試験項目例:レベル別
表2-3 成人の歴史と公民の知識:代表的な質問例
表2-4 成人の科学知識:代表的な質問例
表2-5 推論能力の得点の平均
表3-1 教育達成度別平均収入(2011年)
表3-2 人的資本、シグナリング、能力バイアス
表3-3 アメリカの教育プレミアム公共セクターと民間セクター比較
表4-1 総合的社会調査(1972-2012年)のシープスキン効果
表4-2 総合的社会調査(1972-2012年)のシープスキン効果と能力バイアス
表4-3 シグナリングまとめ
表8-1 利己的な便益と社会的な便益とマイナスの印象
表9-1 英語で書かれたフィクションの史上ベストセラー
【抜き書き】
・161頁から。「因果が逆なのでは?」という指摘。
“経済学者たちは教育が過小評価されていると主張したいがために、教育が過大評価されていると考えるべき強固な理由を無視している。いわゆる因果の逆転である。「国が学校教育に投資するほど国は豊かになる」ではなく、「国が豊かになるほど学校教育にお金を使う」が本当かもしれないのだ。個人レベルの話であれば、ほとんどすべての人が因果の逆転をすんなり受け入れる。なぜ、富裕層は学費の高い私立高校や高額化した大学の授業料に人より多くお金を使うのか。使えるお金が人より多いからだ。”
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タイトルの邦訳が悪い
内容とはあまり関係ないが、「街灯の下で鍵を探す」という言葉が本書にあり、ぼくはそれがコラッツ予想の証明を確率論でやろうとしている数学者たちの愚かさを端的に表した言葉であるように思った。 -
教育とはシグナリングである。という本
同じようなことを考えていたので特に新しい考えはなかったが、アプローチが経済学という手法なのが自分とは違ったなぁという感じ。
ただ、教育がシグナリングである限り、どんなにバカなインフレ状態のシステムでも変革をもたらすにはみんながみんなそれを理解し全員が変わらなければいけない。
それが経済学の難しいところなんだよな…
どうやったらこの教育業界を変えられるのか。
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