意識と感覚のない世界――実のところ、麻酔科医は何をしているのか

  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622088660

作品紹介・あらすじ

メスで身体を切り刻まれているあいだ、痛くないのはなぜなのか? 手術のあと、何事もなかったように目を覚ませるのはなぜなのか? 麻酔薬の発見から麻酔科医の日常まで、3万回以上の処置をおこなってきた麻酔科医が描く、謎めいた医療技術をめぐるノンフィクション。
【原書レヴュー】
「生き生きと書かれた、誠実な探索……圧倒され、心を揺さぶられる、医学の必需品をめぐる魅惑的な作品」(Kirkus Reviews)/「非常に重要で秘密めいた専門分野のバックグラウンドを見せる、類まれで思いやりあふれる描写」(Publishers Weekly)/「楽しくて心のこもった説明……現代医学で過小評価された不思議な手技の世界の、めったにできない覗き見である」(Library Journal)/「私たちは麻酔の間、無意識の世界を楽に浮かんでいるように思えるかもしれないが、プリスビロー博士は人間の生理のレバーを引っぱる、操縦士の視界を私たちに与えてくれる」/(ダニエル・オーフリ(『医師の感情』著者))
【著者略歴】
ヘンリー・ジェイ・プリスビロー(Henry Jay Przybylo) シカゴ在住。ノースウェスタン大学医学部麻酔科准教授。麻酔科医として軍医を務め、現在は小児科を専門とし、年間1,000人以上の子どもに麻酔処置を行っている。

感想・レビュー・書評

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  • 麻酔科医というのは一体どんなことをしているのか。

    麻酔科医じゃない限り見ることも知ることも出来ない病院での出来事や体験がわかる貴重な内容の一冊です。

  • 【麻酔薬を投与するとき、私はいつも患者に「一〇〇からカウントダウンしてください」と言う。私の経験では、九〇より先まで数える患者は一人もいない】(文中より引用)

    もはや現代の医療に欠かすことのできなくなった麻酔。その発明に至るまでの歴史を振り返りつつ、麻酔科医がどのような問題意識を抱えながら職務に臨んでいるかを垣間見ることができる作品です。いまだに麻酔がどのようなメカニズムで効くのかが完全には解明できていないというのは驚きでした。著者は、小児科を専門として年間1000人以上の子どもに麻酔処置を施しているヘンリー・ジェイ・プリスビロー。訳者は、翻訳家として活躍する小田嶋由美子。原題は、『Counting Backwards: A Doctor's Notes on Anesthesia』。

    痛みの表明に関する考察も☆5つ

  • 意識と感覚のない世界
    実のところ、麻酔科医は何をしているのか

    著者:ヘンリー・ジェイ・プリスビロ
    訳者:小田嶋由美子
    監修:勝間田敬弘(阪大教授・外科医)
    発行:2019年12月19日
        みすず書房

    エーテルの使用は、19世紀前半、奴隷の少年がふらつくのを面白がって見物したことからスタートしたそうだ。

    シカゴのノースウェスタン大学医学部麻酔科准教授で、小児科を専門とする麻酔科医が、15の章立で麻酔科医の仕事について説明している。麻酔のメカニズムについて素人にわかりやすく解説する本だと思ったら、そうではなかった。
    図書館の順番待ちにとても時間を費やした本。

    自らの手で治療を行うことはめったにない。ほぼすべての仕事は、手術室にいる他のスタッフから離れた場所~両開きの自動ドアの陰~で行われる。患者と引き合わされるのはたいてい手術や治療が行われる数分前なので、それが終わると私の名前を憶えている患者はほとんどいない。
    こんなふうに、自嘲気味?に、そしてせつなく書き出されている。

    麻酔とはなにか、麻酔の歴史、麻酔した時の記録について、眠らされる側の恐怖心、自分が過去に犯したミス、自らの子供が手術を受ける時の心境、若手の指導について、医師として喜びを感じる時、など書かれている。なるほど、そういわれたらそうだなあ、ということがいくつもあった。例えば、主治医や手術の執刀医は患者や家族から感謝され、名前も覚えてもらえるが、麻酔医は手術が終わる直前に仕事が終了するため、感謝されたりすることはほとんどない。逆に、患者が元気な姿で退院していく姿を見ることもない。

    ちょっとせつない。“ドアの陰”の裏方さん?

    最近、手術後に患者のおっぱいを舐めたと逆転有罪になったニュースが流れていたが、医師側が主張する麻酔覚醒時のせん妄についても書かれている。

    170年以上前、ガスを吸い込むと意識が奪われることを利用して侵襲的な治療が行えることが分かると、医学は爆発的に発展。しかし、「先生が使うガスはどうやって痛みをとるの」という質問に今でも答えることができない。長年の研究にも拘わらず、麻酔が作用するメカニズムはいまだに謎。

    エーテルの使用は、1839年、ジョージア州で奴隷少年がよろめくのを見物して楽しむ遊びから始まった。

    麻酔の影響下では夢を見ない。

    麻酔後の嘔気と嘔吐、歯の損傷をよく耳にする。

    麻酔の効果は、つま先から頭部へ向かって切れていく。手術後、早すぎるタイミングで家族を呼ぶと、体は動くのにまだ脳の認知機能がなく、家族に不安を与えることになる。

    注射で投与する麻酔は、消費される酸素レベルが増えるほど、より多くの薬品が必要となる。体重1ポンドあたりにすると、小型の種は大型の種よりも多量の酸素を消費するので麻酔をかけるときは大型の種よりも多くの薬剤が必要。人に注射される麻酔薬の投与量は、ゾウを殺すかもしれないが、ネズミだと「何かあった?」と平然と医師を見つめるだけ、ということになる。

    手術で心臓を表出させると、「ラ・ラップ」という拍動音が聞こえてくる。

    移植された心臓では、徐々に血管が狭まる「血管障害」が生じる。拒絶反応を抑えるのと同じ薬により引き起こされるデメリット。

    人体に対する臨床試験は、本人の同意があればできるが、動物実験では本人同意ができないため危害と苦痛を与えないことを証明する必要があってハードルが高い。

    手術室に運ばれる患者に対し「幸運を祈る」と声をかける家族に対して、「運はスポーツやかけ事に必要なものです。ここはスキルの世界ですよ」と切り返す。しかし、自分の息子が手術を受けるときは「幸運を祈る」と言いそうになった。

    痛みからの解放は、すべての場所、すべての状況で、そしてどんなときにも、否定されることのない人権でなければならない。
    医師は多くの人々を治療できる簡単な方法が十分に活用されていない現状を見落とし、少数の人しか救えない最先端技術を使わなければならないという脅迫観念を抱いてしまうことがある。

  • 下北沢B&Bにて購入。麻酔科医は何をしているのか?という副題はちょっとミスリーディングかもしれないと感じた。これは、プロフェッショナルがプロフェッショナルとして何を行動規範としているのか?ということに関しての文書であって、その題材が、たまたま麻酔科医であるということなのだと思った。このプロフェッショナル感がたまらないのだが、このようにプロフェッショナルとしての倫理を彼が何故磨いたのか?
    麻酔導入に使われる笑気ガスを吸うと何故人は意識を失うのか?のメカニズムが全くわかっていないという。この事実が一つ倫理観を磨き上げる理由となっている気がした。

  • 9月新着
    東京大学医学図書館の所蔵情報
    https://opac.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/opac/opac_search/?amode=2&kywd=4311475216

  • タイトルからして、麻酔中の意識がどのようになっているのか、とか何か盛り上がって脳科学的な話かと思っていたら、全然違いました。
    が、麻酔科医の独白で、医師としての喜びや葛藤が綴られていて、私は素直に感動してしまいました。
    脳外科マーシュの告白とよくにた雰囲気です。

  • 2019年の年末に人生で初めて手術を受けて、麻酔ってすごいなぁと思ったので。麻酔科医である著者の経験に基づく本で、麻酔をかける人が何を気にしているのか、何を思っているのかを語る本として、ちょっと難しいけど興味深く読めました。

  • 麻酔科医は、黒子であるが、常にスタンバッテいないといけない。症状に合わせた施術を行わなければならなく、患者のことを主治医同様に知っていないといけない。麻酔の聴く仕組みは本当にはよくわかっていない。新しく麻酔科医に広まった薬はここ20年くらい出ていない。

  • 請求記号 494.24/P 95

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著者プロフィール

シカゴ在住。ノースウェスタン大学医学部麻酔科准教授。麻酔科医として軍医を務め、現在は小児科を専門とし、年間1000人以上の子どもに麻酔処置を行っている。また、ガウチャー大学においてクリエイティブ・ノンフィクションのMFAを取得している。著書『意識と感覚のない世界――実のところ、麻酔科医は何をしているのか』(小田嶋由美子訳、勝間田敬弘監修、みすず書房、2019)。

「2019年 『意識と感覚のない世界』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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