日ソ戦争 1945年8月――棄てられた兵士と居留民

著者 :
  • みすず書房
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レビュー : 6
  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622089285

作品紹介・あらすじ

現在まで「触れたくない敗戦史」ゆえに放置されてきた「日ソ戦争」(1945.8.9-9.2)の詳細を初めて描く。「日ソ戦争」はソ連軍170万、日本軍100万が短期間であれ戦い、死者は将兵約8万、居留民約18万、捕虜約60万を数えた、明らかな戦争であった。旧ソ連の公文書や日本側資料、既存の研究を駆使し、軍事的側面に力点を置きながら、この戦争の実像および米ソの関係、戦後にもたらした重い「遺産」について考察する。

感想・レビュー・書評

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  •  ソ連参戦の経緯や戦犯裁判といったマクロ、個別の戦闘や開拓団の様子といったミクロ、双方の視点からなる。佐藤駐ソ大使など日本側でもソ連参戦を予感していた人はいたようだ。対ソ戦の予感、和平工作、継戦派、1945年の日本政府内の錯綜を同時代的に想像した。
     ミクロの視点では、詳細な戦闘経緯は頭に入りにくかったが、体験者の手記や証言は生々しい。関東軍による前線部隊切り捨てや居留民への「棄民」、その後の自決やソ連軍の蛮行はやはり読んでいて辛い。また現地で終戦を知り、降伏を決断するまでの軍人たちの心境を想像してみる(しかも司令部からの停戦命令というより放送で知ったようだ)。早期降伏し居留民・難民の生命と安全に努めた軍人がいなかったわけではない、という点に著者同様少しだけ救われる思いがする。
     著者は、こうすればソ連参戦が避けられた又は被害が少なくて済んだ、との明確な解を示しているわけではない。ヤルタ密約を果たし権益を確保するためのソ連参戦の布石は早くから打たれており、米英も8.15以降のソ連の継戦も含め黙認していた。著者は結語で、関東軍の作戦どうこうというより日ソの戦力に差があり過ぎたと述べ、ノモンハン戦争と独ソ戦の経験と教訓を生かし軍を近代化したソ連軍と、そうではなかった日本軍を対比させている。

  •  日本側の軍記録(防衛省戦史研究所)、ソ連側の軍記録、日本側の回想記や証言なども活用し、1945年8月9日以降の各地の戦闘経過を詳細に検討した一冊。日本側の軍記録は自分たちの「戦果」を誇大に書きがちなので、軍の実態を確認するためには個々の兵士や民間人の手記も不可欠との判断からだろう。
     満洲では8月15日では戦争が終わっていなかった(日本軍の前線では敵側謀略と退けられていたし、ソ連軍もスターリンの厳命で「戦利品」を確保することに躍起となっていた)ことを明らかにしており、興味深い。具体的に取り上げられたのはムーリン、虎頭、孫呉、ハイラルの各要塞戦と満州中央部の戦闘、北朝鮮侵攻作戦。敗戦後のシベリア移送についてもデータを踏まえた検討がなされている。

  • 1945年8月9日から始まる日本とソ連の間で行われた戦争を取り上げる。本書は日ソ両者の資料と日本軍兵士の回想から戦闘経過を丁寧に追っていく。日本史の教科書では1文で済ませられてしまうが、日本の降伏や戦後秩序に決定的な影響を与えた同戦争の全体像を示している。
    戦闘経過にかなりの文量を割いており、門外漢からするとイメージが湧きづらく読み進めるのが苦痛な箇所が多かった。ただ、筆者の丁寧な解読によって、日本軍の戦略のなさや人命軽視の思想、ソ連側の勝ち馬に乗ろうとする暴力的な思考や行動、それらの犠牲になる開拓民といった救い難い現実がしっかりと浮き彫りになっている。

  • 冨田さんはシベリア抑留などの本を書いていて、もともと知っていたが、本書はその冨田さんの宿願でもあった日ソ戦争についての本である。終戦時のソ連軍の侵入は一方的なものと捉えている人が多いかもしれないが、実は、一種の戦争であった。もともと日本軍はすきあらばソ連領内に侵入しようと思っていたが、南方が忙しくなり、本来いた関東軍の兵士や武器の大半を南方に移送してしまった。陣地もかなりソ連領に踏み込んでつくっていたのが、そんなわけで、後方へ引き下がらざるをえず、あわてて、後方へ武器を運び陣地を築こうとしたのだが、それがまにあわぬうちにソ連軍に踏み込まれてしまった。関東軍司令部は居留民を遺棄したと言われるが、実は末端の兵士たいも遺棄したのである。その際、前線にいた関東軍兵士たちは精鋭はすくなかったもののよく戦った。その一つをあげれば、ソ連軍の戦車の下に潜り込むという特攻が当時から取られていたのである。本書ではある戦いで上官が5人の志願兵を募ったが、だれも名乗り出るものがなく、ある兵士などはそれを拒否した。そこで、上官は5人を指名し行かせた話が出ている。行かせられた兵士は生きて帰れる可能性などない。そういうむごいことがここでは行われていたのである。また、ソ連軍は攻め込んだ街で収奪と暴行、強姦をくりかえした。これを細かく記述したのも本書の特徴である。日本人たちの多くは、その中で集団自殺をしている。また、ソ連の捕虜になり、投降を薦めに行った日本軍兵士を日本軍将校が斬殺したりしている。こうした負の部分はこれまで日ソの記録には出てこなかったものだという。戦闘の記録はやや煩雑な感じもするが、すべて証拠を踏まえたものであることを物語る。労作である。

  • 日ソ戦争 1945年8月――棄てられた兵士と居留民
    [著者] 富田武
    「触れたくない敗戦史」ゆえに放置されてきた「日ソ戦争」(1945.8.9-9.2)の詳細とその前後を描く。戦後75年目に初めて明される真実。

    四六判 タテ188mm×ヨコ128mm/400頁
    定価 (本体3,800円+税)
    ISBN 978-4-622-08928-5 C1021


    目次
    序論 本書の狙いと意義 

    第一章 戦争前史――ヤルタからポツダムまで 第一節ソ連の外交と対日戦準備
    第二節日本の外交と対ソ戦準備
    第三節日ソ戦争における米国要因 

    第二章 日ソ八月戦争 
    第一節ソ連軍の満洲侵攻と関東軍
    第二節ソ連軍による満洲での蛮行
    第三節捕虜の留置から移送へ 

    第三章 戦後への重い遺産 
    第一節満洲「残留」と「留用」
    第二節捕虜と賠償をめぐる米ソ論争
    第三節ソ連の「戦犯」裁判 

    結語

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著者プロフィール

1945年福島県生まれ。東京大学法学部卒業。成蹊大学法学部名誉教授。ロシア・ソ連政治史、日ソ関係史、シベリア抑留。著書『スターリニズムの統治構造――1930年代のソ連の政策決定と国民統合』(岩波書店1996)『戦間期の日ソ関係――1917-1937』(岩波書店2010)『シベリア抑留者たちの戦後――冷戦下の世論と運動 1945-56年』(人文書院2013)『語り継ぐシベリア抑留』(共著、群像社2016)『シベリア抑留――スターリン独裁下、「収容所群島」の実像』(中公新書2016、アジア・太平洋賞特別賞)『日本人記者の観た赤いロシア』(岩波書店2017)『歴史としての東大闘争――ぼくたちが闘ったわけ』(ちくま新書2019)『シベリア抑留者への鎮魂歌』(人文書院2019)『日ソ戦争 1945年8月――棄てられた兵士と居留民』(みすず書房2020)。編書『シベリア抑留関係資料集成』(共編、みすず書房、2017)。訳書 バーシェイ『神々は真っ先に逃げ帰った――棄民棄兵とシベリア抑留』(人文書院2020)ほか。

「2020年 『シベリア抑留関係資料集成[新装版]』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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