アメリカの世紀と日本――黒船から安倍政権まで

  • みすず書房
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本棚登録 : 54
レビュー : 6
  • Amazon.co.jp ・本 (520ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622089360

作品紹介・あらすじ

太平洋戦争の起源は1930年代ではなく、日米が頭角を現した20世紀初頭にある。そして無条件降伏政策、原爆投下、占領統治を経て、日本は米国の敵国から、密接で数奇な関係を結ぶ同盟国となった。その日本にとって、米国が世界の覇権を握る時代を生きるとは、どのようなことだったのか。米国流の民主主義、平和憲法、リベラルな社会構想を、日本はどう消化したのか、またはしなかったのか。米国随一の日本研究者50年の集大成。

感想・レビュー・書評

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  • 日本の敗戦から占領、そして独立までの過程は、これ以外にはあり得なかったと感じられるが、実はかなりの異例づくめで、ケナンの言う「不自然な親密さ」の上に今日の日米関係が形作られた。
    出発点はローズヴェルトの心に澎湃と起こった、世界からファシズムを一掃するため無条件降伏しかあり得ないという決意だった。
    「この戦争で米国人は貪欲な選択をした。日本を本来の国境内に押し戻すにとどまらず、この国を余すところなく改革し、一新する権利を要求したのだ」
    代償は大きく、戦争は無用なほど長引き、多くの人命が失われ、原爆が投下された。

    無条件降伏政策が、戦闘のあり方や終結方法だけでなく、将来の日米関係をも決定づけ、その影響は今日まで脈々と続いているというのが本書の主張。
    アメリカ軍幹部はこんな政策は無益だと感じていたし、スティムソンをはじめ政権内部でも原爆の投下に慎重な人物はいた。
    しかも、構想の主導者が急死しトルーマンに変わったことで、政策は変更されうるチャンスが生まれたかに見えたが、国民世論を背景に、この政策は国全体の不動の方針となった。
    どれだけのアメリカ人が、極東の島国と自国が、これほど深く濃密に関わることになると予期できただろうか?

    本来なら、日本のように敗戦したとは言え、政体がそのまま生き残った国家に対して、戦勝国がその国に新たな憲法を押し付けるなど国際上も許されないのだが、無条件降伏を受け入れたのたからと、自らのニューディール的に熱情に浮かされて、政治機構はおろか、社会そのものを作り替え、国民を再教育する決意だった。
    「民主化を命令する」というようなおかしな自家撞着は、やがて冷戦の出現で、一気にブレーキがかかり、逆コースに舵が切られる。
    本来は追放すべき保守政治家に金を渡し、民主的な社会運動の鎮圧に手を貸す。

    皮肉なことに、上から与えられた民主主義は根付かないものなのだが、自らが反面教師となることで、全国的な安保反対や反戦活動など社会運動によって、この国に民主主義が根付くきっかけを与えた。
    謎として残るは、なぜ憲法改正が一度も行われなかったのかということ。
    アメリカから見れば、冷戦以後ははやく非戦の条項など書き替えて、再軍備を進めてほしいと願っていたが、老獪な吉田茂のドクトリンによって、うまくあしらわれ続けた。
    そもそもの結党の理念である憲法改正が、ここまで見送られ続けたのは、日本人の厭戦感情がアメリカの意向を凌ぐほど強かったということか。

  • 読みながら戦後史について深く考えを巡らさざるを得ない契機になる、実に重要な大著である。
    第二次世界大戦から安倍政権までを、日米関係から深い洞察に基づき描き出したもの。ルーズベルト(FDR)の対日姿勢は無条件降伏施策であったという視点は、私には目新しかったが、そこからマッカーサーを含め徐々に変更するあたり、吉田茂およびその後継者・協力者たちが経済発展に注力するところは、まあ復習するようなものだった。むしろ吉田茂への評価が高すぎるかなという思い、一時期もてはやされた白洲次郎への低い評価は的を射ているかなというところくらいの印象だった。
    この本のグイグイ引き込まれたのは、引用に基づき、昭和天皇が内密に琉球処分を後押しした(199頁)と書いたあたりから。冷戦開始とともに、「従属的独立」を果たした日本とのアメリカの「奇妙な同盟」と、様々な事件(第五福竜丸、ゴジラ、ジラード事件等々)と、特に60年安保の意味を詳説している。
    対中国で、ニクソン、キッシンジャーと毛沢東、周恩来とのやり取りは、私も初めて目にするもので、非常に興味深かった。日本は、突然に大きく振れることを中国はよく理解していて、軍国主義化することを心底恐れているのがよく分かる。むしろニクソン政権が必要以上に日本を追い詰めるのを自制するよう求める毛沢東を描いているところは、この時期でもまだボケてなかったんだという思いがある。
    最後の三つの章では、かつてビジネスの世界で言い募られた「日本特殊論」に近い主張を展開するが、それはアメリカの単線型発展観を戒める、多様性の前任である。この辺を読みながら、青木昌彦(姫岡玲治)が、各国の歴史・制度により発展の経路が異なるとした制度経済学が、多くの賛同者を得る前に亡くなったのが、いかにも惜しまれる。

    訳者山岡由実さんが、あとがきで「自問自答を重ねる」とし、「作業を進めながら、考えにふけらずにはいられなかった」というところは、一読者としてもまったく同じ思いを強く持った。
    残念なのは、ここまでの、正しい意味での俯瞰的でありながら、鋭い分析的視点を取り入れた戦後史が、日本の学者によっては書かれなかったことである。

    昭和から平成に変わったことも歴史上の出来事であるような若い世代の方々には是非とも読んでもらいたい貴重な書である。

    最後に、訳者山岡由実さんの日本語は、原著が英語であることを感じさせないもので、加えて、おそらくは原著では英訳になっていた日本語文献を丹念に現物にあたって元表記を再現し、ルビまで振ってあるのには感心したことを書き記しておきたい。老舗みすず書房の編集者の、いかにもプロの仕事を感じさせる。

  • 東2法経図・6F開架:319.1A/P99a//K

  • 『アメリカの世紀と日本――黒船から安倍政権まで』
    原題:JAPAN IN THE AMERICAN CENTURY
    著者:ケネス・B・パイル
    訳者:山岡由美
    四六判 タテ188mm×ヨコ128mm/520頁
    定価 5,280円(本体4,800円)
    ISBN 978-4-622-08936-0 C0021
    2020年9月1日発行

    アメリカが世界の覇権を握り、新しい国際秩序を形成したことの影響を、日本ほど深く受けた国はない。日米のこの特異な関係を、ジョージ・ケナンは「不自然な親密さ」と呼んだ。
    英国から独立を勝ち取り、自由主義を礎に建国された移民の国アメリカ。彼らアメリカ人が西にフロンティアを広げ、さらに太平洋の向こう側で遭遇した日本は、2000年もの間移民を知ることなく、自民族の共同体を重んじてきた保守的社会だった。やがてこの対照的な2か国は、太平洋をはさんで野心的な新興国として頭角を現す。日米戦争の起源である。
    アメリカはこの戦争を、日本を完全に敗北させるための戦いと位置づけ、無条件降伏政策を追求した。敵国を軍事的に破るだけでなく自国に似せて改造するというのは、戦争の目的として未曾有のことだった。この野心的な政策が、戦争の趨勢と戦後の日本社会を規定することになる。それは日本の民主化を短期的には進めたが、決定的には困難に陥れ、対米従属と自国アイデンティティの両立という不可能を前に、日本は深刻な矛盾に陥る。
    本書はアメリカの世紀を生きた日本を、政治、経済、社会、法律、精神という多方位から容赦なく描き出した。少しの希望とともに――。アメリカの世紀が暮れ始めた今、日本はどこへ向かうのか。米国きっての日本研究者による、痛切な日本現代史。
    https://www.msz.co.jp/book/detail/08936.html

    【目次】
    序――不自然な親密さ
    第1章 二つの新興国
    第2章 無条件降伏政策
    第3章 原爆使用の決定
    第4章 米国人の手になる革命
    第5章 日本の従属
    第6章 日本人の魂を賭けて
    第7章 奇妙な同盟
    第8章 競合する資本主義
    第9章 欧米モデルに収まらない日本社会
    第10章 日本の民主主義
    第11章 暮れゆく米国の世紀と日本

    謝辞
    訳者あとがき

    索引

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