王女物語

  • みすず書房
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感想 : 2
  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622089414

作品紹介・あらすじ

生まれた時は誰も予想しなかった女王の位に25歳でつくことになるエリザベスと妹マーガレットの家庭教師として、英国王一家と17年を宮殿で共に暮らし、女王の少女時代から若き日の重要なシーンすべてに立ち会った女性、クローフィー。戦前の古風でやさしい子ども部屋の世界から、大戦下のウィンザー城での疎開生活、終戦、社会や値観の急激な変化をとげた戦後へ──特別な時代を、特別な場所で、特別な人々とともに生きた回想録。

感想・レビュー・書評

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  • ―むかしむかし、あるところに美しい王女様がいました。
    と始まるのはおとぎ話だが、本書の主人公たちは現実の王女様たちである。
    イギリス王室のエリザベス王女とマーガレット王女。現イギリス連邦女王とその妹である。
    著者は2人の王女の家庭教師として、17年もの間、国王一家と生活を共にし、家族の一員同様に遇されたマリオン・クローフォード、通称「クローフィー」である。

    クローフィーはもともと、貧しい子供たちの教師になりたいという夢を持っていた。しかし、たまたま家庭教師先の伯爵家の伝手で、国王の第二王子の一家から、2人の娘の家庭教師を住み込みでしてくれないかと打診される。
    第二王子夫妻は、キャリアの長い落ち着いた教師よりも、若く元気のよい、時には遊び相手になってくれる女性を望んでいたのだ。
    仮面接のような形で王子夫妻の家を訪れたクローフォードは、本当に自分がふさわしいのか、半信半疑だった。
    だが、実のところ、ふさふさした巻き毛の少女が、ベッドの上で架空の馬を操る遊びをしているのを見たとき、彼女の心はもう決まっていたのかもしれない。

    それがヨーク公の家、後のジョージ6世の一家だった。
    5歳の姉、エリザベスは思慮深く、2歳の妹、マーガレットはおしゃまで、どちらも愛らしい少女たちだった。
    その暮らしは、想像より質素で、しかし想像よりも温かいものだった。
    ヨーク公妃は子供たちを温かい家でのびのびと育てたいと思っていたのだ。そしてその理想に若いクローフォードはぴったりだった。
    エリザベス(リリベット)は利発で、「クローフィー」という愛称を思いついたのも彼女だった。

    本書の描写は王女たちとの生活が中心であり、背景についてはあまり触れられていないが、ヨーク公が王位を継いだのは、予想外のことだった。
    兄のエドワードが、年上の既婚女性と恋に落ちた、いわゆる「王冠を掛けた恋」で、王位を放棄したため、押し付けられた形で王となったのだ。体が弱く、吃音も抱えるジョージ6世にとってはかなりの重荷となったが、致し方ないことだった。
    リリベットもマーガレットも、それまでも王家の一員ではあったが、王の娘となるとまた話は別である。一家はそれまでのピカデリーの楽しい我が家から、バッキンガム宮殿への引っ越しを余儀なくされる。
    のびのびとした生活から、窮屈な生活へ。しかしそんな中でも水泳教室やガールスカウトの活動に全力で取り組むリリベットとマーガレットの姿は微笑ましいものだった。
    重苦しい開戦。厳しい時代を経ての終戦。運命の人との出会い。
    後に王配となるフィリップとリリベットの恋物語は、若い恋のときめきを秘めて美しい。やや無鉄砲だがハンサムで闊達なフィリップと、聡明なリリベットは本当に魅かれ合っていたのだ。
    そして王女様の結婚。かわいい赤ちゃんの誕生。
    夢のような日々が続く。
    クローフィーはリリベットより少し早く、生涯の伴侶を得ていたが、王室での務めは続いた。それまでの功績を認められ、グレイス・アンド・フェイヴァー・ハウスの一軒に住む権利も与えられた。
    本編は、チャーリー(現チャールズ皇太子)の誕生後、叔母と呼ばれて喜ぶマーガレットのエピソードで締めくくられる。
    愛すべき1冊である。

    原著の執筆は1950年のことである。時を経て、邦訳書として発行された本書には、特に解説も後日譚も付されない。
    だが。
    裏表紙には、この本で王家の暮らしを書き綴ったことで、クローフィーは王家とのつながりを絶たれてしまったと記される。
    暴露本などという括りには入りようもない本書の刊行直後、王室は、17年間家族同様に遇し、ともに暮らしたクローフィーとの関係を、静かに、永久に、経った。

    英語版ウィキペディアによれば、クローフィーはせっかく得た家も失ったらしい。

    美しいおとぎ話。その美しさはしかし、厳と続く英王室には受け入れえないものだったのか。
    かすかな哀しみとやるせなさを秘め、しかし、やはり思い出のきらめきが美しい1冊である。

  • 読了後、著者の略歴を読んだら
    え~っ、衝撃。
    幸せな読後感がぶっ飛んでしまった。
    https://blog.goo.ne.jp/mkdiechi/e/87d6bd9c07ecb4674a79c7d20b6300a7

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著者プロフィール

1909-1988。スコットランド、イーストエアシャーに生まれる。父の死と、母の再婚によって、少女時代をダンファームリンで過ごし、エディンバラ大学モレーハウス教育学部へ進む。卒業後、実家に戻り、児童心理学者となる勉強を続けるかたわら、貴族の子女の家庭教師を勤めていたとき、国王の第二王子ヨーク公(のちのジョージ6世)夫妻に紹介され、1932年、二人の王女の家庭教師となる。エリザベス王女の成婚と時を同じくして、銀行支店長ジョージ・ビュースリーと結婚。家庭教師としての功労に対して、ジョージ6世よりケンジントン宮殿のノッティンガム・コテージに終生居住の権利を賜る。退職の翌年、1950年に本書が出版されたことで、王室との関係は絶え、コテージの権利も失った。スコットランドのアバディーンで引退後の人生を送り、夫の死から11年後の1988年2月にアバディーンの老人施設にて没した。

「2020年 『王女物語 エリザベスとマーガレット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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