絶望死のアメリカ

  • みすず書房
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感想 : 17
  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622089636

作品紹介・あらすじ

ノーベル経済学賞受賞者の最新作。

「これ以上、時宜にかない、しかも、希望に満ちた本を想像するのは難しい」
ロバート・パットナム(ハーバード大学教授)

「経済が繁栄し、株式市場が急騰するかげで、低学歴者が不可視化され、何十万もの死がもたらされていることを明らかにしている」
アトゥール・ガワンデ(ハーバード大学教授)

「あらゆる市民が読み、議論すべき書だ」
マーヴィン・キング(元イングランド銀行総裁)

「過去半世紀に、さまざまな生き方が、どのようにして擦り切れ、そしてバラバラになってきたか、さらに、アメリカの能力主義がいかに残酷かを書き尽くそうとしている」
ジョシュア・シャフィン(『フィナンシャル・タイムズ』紙)

「本書は2014年夏、モンタナの山小屋で生まれた。私たちは毎年8月になると、ヴァーネイ橋が架かるマディソン川が近くに流れる集落で、マディソン山脈を眺めながら過ごすことにしている。私たちは幸福と自殺の関係について調査すると決めていた。不幸せな場所——自分の人生がまったくうまくいっていないと感じている人々が暮らす郡、都市、国——ではやはり自殺が多いのかどうかを調べることにしていたのだ。この1年間におけるモンタナ州マディソン郡の自殺率は、私たちが1年の残り11カ月を過ごすニュージャージー州マーサー郡のそれよりも4倍高かった。私たちはその事実に興味を覚えた。というのも、モンタナで私たちはおおむね楽しく過ごしていたし、モンタナに住む人々も幸せに暮らしているように見えたからだ。
調査の過程で、中年の白人アメリカ人の自殺率が急速に増えていることがわかった。…驚いたことに、中年の白人の間で増えていたのは自殺率だけではなかった。すべての死因による死亡率が増えていたのだ。…もっとも増加率の高い死因は三つに絞られた。自殺、薬物の過剰摂取、そしてアルコール性肝疾患だ。私たちは、これらを「絶望死」と呼ぶことにした。…絶望死が増えているのは、ほとんどが大学の学位を持たない人々の間でだった」(はじめに)

「私たちが望むのは、死のエピデミックの純然たる恐ろしさ、そしてレントシーキングと上向きの再分配が生み出した極端な不平等に向き合うことで、これまで長く考えられてきた数々の構想が実行に移されることだ。その時はとっくに訪れている」(最終章)

アメリカ労働者階級を死に追いやりつつある資本主義の欠陥を冷静に分析し、資本主義の力を取り戻す筋道を提示する。

感想・レビュー・書評

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  •  "絶望死"、ショッキングなワードである。
     
     一般的には、社会が裕福になると、平均寿命は伸び、死亡率は低下する。ところが、中年の白人アメリカ人の死亡率が増えていることを著者たちは知る。しかも増加率の高い死因は、自殺、薬物の過剰摂取、そしてアルコール性肝疾患の3つであった。これを著者たちは「絶望死」と名付けた。そして、これら絶望死が増えているのは学位を持たない人々の間であることを、統計的に次々と明らかにしていく。
     

     このような変化の原因は、グローバル化に伴う労働環境の変化、特に製造業労働者の低賃金化、コミュニティの破壊等がある。それでは、他の先進国ではそれほど目立った変化がないのに、なぜアメリカでは死亡率の顕著な増加という現象が起きているのか。

     著者たちは、アメリカの医療制度の問題、中毒死を引き起こすおそれのあるオピオイド(鎮痛剤)の蔓延や高額な医療費と保険制度を批判の俎上に乗せる。
     また、製薬会社や病院コンツェルン等が、豊富な資金力に任せて自らに有利な規制を設け、あるいは規制を緩和するよう政治家や省庁に働き掛ける、レントシーキングによる不公正に言及している。


     著者たちは、資本主義や格差の存在自体は問題視しない。不公正な富の分配を是正する方策はあるということで、対策を提示する。
     果たしてそれは解決策になるのだろうか。現在のアメリカの政治・経済構造の下で可能性はとても低いのではないだろうか。第16章「どうすればいいのか?」を読んで疑問を持ちながらも、いろいろと考えさせられた。

     

  • 世界的に見ても死亡率が低下する中で、中年白人の死亡率が上がっている。
    医療やその他の生活環境が改善されているはずなのに、何が起きているのか。
    トランプ支持の基盤理解もできる。

    アメリカの低学歴労働者を取り巻く問題の原因を検証しながら絞り込んでいく過程もとてもよい。
    日本でも同じことにならないようにと思うが、すでに始まっているはず。
    企業内で最低賃金と最高の役員報酬の倍率制限など(20倍以内とか)法整備で対応してほしい。

    労働分配率がおかしいこと、社会の富を奪っている社会コストは医療費であること(医療サービスが高額料金を設定して、莫大な利益をあげたり、不当な薬で製薬会社が利益をあげていること)、社会を支えていたコミュニティが崩壊していることなど、対岸の火事とは到底いえない。

    読み終わると、危機感を感じる。

  • 「アメリカがグレイトであった」と感じる特定の層が確実に存在し、それが懐古幻想でも何でもなく統計的に「実際にグレイトであった」ことを証明し、かつ、そうではない層にとっては同じく統計的に「実際にグレイトでなかった」ことを同時に証明し、アメリカの中に異なる2つの別世界が在ることを論じる一冊。本書と「ジョナサン・ハイト / 社会はなぜ左と右にわかれるのか」の二冊でアメリカの分断については概ね個人的に納得できたので、この問題について読むのはしばらくこれで終わりにしようと思う。大変な良書。

  • 東2法経図・6F開架:361.85A/C25z//K

  • 薄いと思ったのに、凄い濃密な論理の展開だった。なるほど、ノーベル経済学賞受賞を受けているのが当然。
    21Cの2割が過ぎ、今世紀の資本主義国家の夕暮れを感じさせつつも、薄暮を思わせるエンディング。疲れた読書だったが、方策は論じられぬものの、シナプスが少しできた感じ。

    アメリカ トランプ政権時に感じた異常性、問題提起が頷けるもの・・白人死亡率の右肩上がりと絶望死~自殺・薬物過剰摂取・アルコール性肝疾患の3つの要因。その大半を占める「学士号を持たぬ集団」
    出生コホートで追跡する数字の信ぴょう性は高い。かつての感情論が混じる分析とは一線を画す。18C産声を上げたこの国、いくつかの社会問題を闘いも含め克服しつつ、産業革命の恩恵も受け、世界の先進国と肩を並べるまでに経済は発展し、今や「世界一」のドリーム大国。
    が労働環境がもたらす社会情勢の悪化はあたかも【臭い物に蓋をするが如く」スルーされ続けた~製造労働者の低賃金、コミュニティの破壊など。

    同じ道を辿った英をはじめ欧州諸国にはない現象。種々の分析より、筆者らは「オピオイド過剰投与」を繰り返し、論ずる。そしてケアシステム、医療、皆保険への道のり。
    下から上への所得再分配の常在。かつては「庶民の味方」を謳っていたドリーマーらはロビイストと化し、アメリカのGNPの数割を有している。ついで組合の衰退化、オバマケアの行方など余りの問題の混迷で語るだけのむなしさが更なる危機感を増すだけで終わってしまった。もはや、我が国の危険がそこにある感強し。

  • アルコール性肝疾患,薬物過剰摂取,自殺による死を「絶望死」と定義し,白人中年低学歴男性の「絶望死」の死亡率が高学歴や女性に比べて高く,年々増加しているという。近年マシになってきたらしいがオピオイドの過剰処方の影響には衝撃を受けた。

     所得格差の拡大は「絶望死」の背景の一部でしかない。格差拡大の要因として,自由貿易や技術革新の影響があげられ,それらによって良い仕事が失われたことが低学歴層に困難をもたらしたが,それだけではない。困難の真因はアメリカの制度にあるという。制度の不在で,良い仕事が失われ,コミュニティが荒廃し,生活が破壊される(制度の不在が状況を悪化させる)。
     特に医療分野では,高額な医療費,皆保険の不在が問題視される。高くつく医療システムによって,下から上への逆の再分配が起こっている。医療費が高くなければ他に使えた所得が医療業界に吸い上げられる。

     ロビイングによる高所得層を優遇する政治,組合の影響力の低下,不十分なセーフティネットの指摘は,スティグリッツやライシュの著作と共通する問題意識のように思った。

  • 高卒と学卒の間で格差が広がっている。
    高卒は(特に白人)、学卒にくらべアルコール依存、薬物依存、自殺する割合が多い。この3つを絶望死という。
    対策として、オピオイド、医療、コーポレートガバナンス、税と給付策反トラスト、賃金政策、レントシーキング、教育がある。
    オピオイド、過剰処方へは、代替医療を検討する。
    医療には、ある程度の強制、支払い能力がない人には補助、そのための改革必要。今はお金がある人だけが高度な治療を受けられる。
    コーポレートガバナンス、労働組合の衰退は従業員から力を奪って、経営者や資本所有者に与えた。非競走条項は全国的にも違法にすることはできるだろう。
    税制と給付政策、UBIの政治的実現可能性は、労働力供給の効果に依存する。UBIは失業者に、新たな仕事の研修を受け、新たな活動を始め、コミュニティーに貢献する自由を与え得る。同時にまた、民主的な政治活動にもっと深くかかわり、長期的には自分自身の人生を再構築する自由も与えることもできる。だが私たちは、仕事の崩壊かもたらした絶望死を、人生の意義と地位の喪失を心配している。そんな私たちから見ると、UBIは未来へと進む最善の方法だとは思えない。

  • ノンフィクションの作品。
    世界恐慌で亡くなった人を描いた作品。
    戦争や病気だけでない死について考えさせられた。

  • 今世の中で数々の議論がある中の、その基本となるようなデータについて。
    「貧乏人の経済学」なども一緒に。

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著者プロフィール

プリンストン大学経済学・公共問題名誉教授。プリンストン大学の開発研究リサーチプログラム所長。専門は医療経済学。2003年に、小児期の経済状態と健康状態の関係についての研究で、国際医療経済学会のケネス・J・アロー賞を受賞。2016年に、中年期の罹患率と死亡率についての研究で、米国科学アカデミー紀要のコザレリ賞を受賞。現在は、アメリカ国家科学賞大統領諮問委員、国家統計大統領諮問委員を務める。

「2021年 『絶望死のアメリカ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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