台湾、あるいは孤立無援の島の思想

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  • みすず書房
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感想 : 5
  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622089742

作品紹介・あらすじ

台湾は近代以降、清、日本、中華民国、アメリカという複数の帝国による連続的な支配を受け、またその複雑な民族構造のために統一的なナショナリズムや共通の歴史認識の形成を阻まれてきた。台湾の主体化を達成すべく、人々は歴史を紐解き、過去の国家暴力や不正義をただして内部的な分断を乗り越えることを通じて民主化を推し進め、生存空間を共にする者たちの同盟としての「台湾民族」と、多元・民主・平等に基づいて同盟を強化するためのイデオロギーとしての「台湾ナショナリズム」を志向した。しかしそうした内部的な努力にもかかわらず、国際社会においては、主権国家体制からの排除や、新興の中国を含む諸帝国の狭間にあるという地政学的構造に起因する現実政治の桎梏を自力で克服することはできず、その命運はいまなお強権によって掌握されている。
台湾の市民社会はそうした賤民(パーリア)的境遇を自覚的に引き受け、新たな帝国と資本主義による支配に対抗することを通じて逆説的に民主主義を深化させた。そしていまや普遍的価値を台湾社会に体現することに世界への回帰の道を見出し、行動している。

政治学者による20年におよぶ思想的格闘の集成。

感想・レビュー・書評

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  • 「自由への闘い支援」 台湾・中央研究院の呉叡人副研究員に聞く|【西日本新聞ニュース】2020/1/20
    https://www.nishinippon.co.jp/item/n/577087/

    台湾から日本へ、投げかけられた課題(「訳者あとがき」抄録) | みすず書房
    https://www.msz.co.jp/news/topics/08974/

    台湾、あるいは孤立無援の島の思想 | みすず書房
    https://www.msz.co.jp/book/detail/08974/

  • 連続的植民地化を経験した被植民者にとって、後から来た植民者である国民党を批判するため、先に来た植民者である日本を相対的に肯定してきたのはある意味で仕方なかったのだろうが、本当は反植民地主義的な日本と手を取り合うべきなのに、植民地主義的な日本の右派との同盟を選ばざるを得なかったというのも、何という歴史のパラドックスか。
    高まる反中感情が、台湾独立派をして日本の右翼との付き合いを余儀なくされたのは、明らかな道徳的失敗であり、右翼的ナショナリストのイデオロギー同盟という道は明らかに一方通行で、先に展望はなかった。

    もう一つのパラドックスは、台湾の民主化が直面している事態で、民主化がかえって国家への帰属意識の分裂を誘発し、それが民主主義を社会に根付かせるための前提、すなわち政治的秩序の境界線に関わる共通認識をかえって掘り崩してしまうことである。
    台湾の住民は多元的で、多様な個人または集団が思い思いに集まり、お互いに信頼を高め、この土地での共同生活を永続的に続けたいと願う協力関係にすぎない。
    歴史的必然ではなく、歴史的偶然によって形成された同盟関係が結ばれているのだ。
    アイデンティティの統合と民主主義を巡るジレンマがここにある。

    こうしたジレンマを抱えているはずの台湾がどうして現在、多元的な民主主義の先進地となり、民主主義の後進国である日本が教えを請わねばならない事態になっているかが、本書の後半の読みどころ。
    まさに敗者の逆転劇を、筆者は民主主義の逆説的定着というロジックを使って説明している。
    2008年に馬英九が総統選で大勝し、国民党による一党優位体制が形成。
    親中路線が推進され、民主主義の衰退の危機に直面していた。
    ここから信頼を失った野党に取って代わり、市民社会が効果的に異議を申し立て、政権の正当性が弱まり、民進党の復活につながる。

    新たな権威主義体制の確立が、民主主義の定着をもたらすという逆説はいかにして起こったか。
    きっかけとしては水害対応における馬英九の言動、傲慢さや共感の欠如といったリーダーシップの失態の側面もあるが、市民メディア運動家という新たなアクターの登場が効果的だった。
    アメリカ産牛肉輸入反対や農地接収反対運動といった、消費者の権利や健康権も環境権といった公共的利益の要求には、分裂を招く言説や台湾の歴史や独立をとりたてて口にしなくても良かった。
    さらにこうした社会運動から言説的養分を貪欲に吸収されたことも大きい。

    従来の路線の限界や飽和した動員力を再構築する必要のあった民進党にとって、主客逆転した市民社会の台頭は、自らのイデオロギーの再進歩化にとって不可欠の要素だった。
    それでも帝国の狭間で生きる弱小民族の運命は他律的で、台湾ナショナリズムと台湾アイデンティティの誕生と同時に完成を禁じる地政学的構造は、その牢獄に閉じ込められた琉球とともに、弱小民族同士の共食いという悲劇が循環される恐れもある。
    というのも、台湾が独立するためには、米軍が沖縄に軍隊を駐留させ続けることに反対はできず、沖縄もグアムと道徳的義務関係にある。
    いずれにしても、漫画『うしおととら』の復活間近の白面の者と同じく、中国の経済力と軍事力が日増しに強大化すればするほど、それだけ東アジアの地政学的構造はより不安定化するのは必然だろう。
    東アジアにおいて過去1世紀半の間、ナショナリズムは挫折し続け、いまだ未完である。挫折した夢は実現させねばならず、抑圧された熱情ははけ口を見出さねばならない。
    国家の正常化という目標は、中国にとって宿願だ。
    「われわれは依然として歴史の正午を歩いている。震えながら暴力の出現を待っている」という著者の指摘がもっとも心に残った。

  • M市図書館

  • 東2法経図・6F開架:311.2A/W96t//K

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著者プロフィール

1962年、台湾桃園生まれ。台湾大学政治系卒、シカゴ大学政治学博士。現職は中央研究院台湾史研究所副研究員。著書に『台湾、あるいは孤立無援の島の思想――民主主義とナショナリズムのディレンマを越えて』(駒込武訳、みすず書房、2021)、訳書にベネディクト・アンダーソン『想像の共同体』の中国語版(《想像的共同体》台北:時報文化、1999年)がある。比較史的な歴史分析、思想史、文学に知的関心を持ち、台湾と日本と世界を往来し、詩を愛し、自由を夢想する。

「2021年 『台湾、あるいは孤立無援の島の思想』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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