リニア中央新幹線をめぐって――原発事故とコロナ・パンデミックから見直す

著者 :
  • みすず書房
3.67
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本棚登録 : 73
感想 : 10
  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622089964

作品紹介・あらすじ

◆コロナ・パンデミックを機に見直すべきものの象徴として著者が取り上げるのは、リニア新幹線計画である。本書は、安倍政権下で事実上国策化した超伝導リニア計画の非道を、できるかぎり明確に指摘するという、小さな、具体的な狙いをもつ。リニアは、コロナ禍によってますます合理性を失ったまま暴走を続ける超巨大プロジェクトだ。
◆リニア問題はじつは「エネルギー問題」であり、原発稼働の利害にもかかわる。同時にそれは、進行中の大規模な環境破壊である。にもかかわらず、虚妄に満ちた「6000万人メガロポリス」構想、大深度法の横暴など、リニア計画は目的と手段の両面で横車を押すようにして推進されてきた。ナショナリズムと科学技術の悪しき結びつきや、政治権力のあからさまな私物化がそれを可能にしてきたことも、本書は明らかにする。
◆最終節は、この国の産業国家構造のルーツを遡り、高度経済成長の実相を省みる。戦後日本が「ゼロからスタートした」という印象とは異なり、不合理な大規模プロジェクトの温床となる諸条件を、この国は戦前~戦後を通して延命させてきた。3.11以後/コロナ禍以後の世界、とりわけ成長よりも持続可能性を追求すべき世界で、なおも私たちはそれらを延命させるのか?
◆上述の具体的な狙いをもって書かれた一冊ではあるが、一貫して着眼大局・着手小局の姿勢でこの国のあり方を考え続ける著者ならではの、ポストコロナの時代へ向けた提言にもなっている。

感想・レビュー・書評

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  • 科学史家によるリニア中央新幹線についての批判的考察。エネルギー多消費、緊急時の安全性、採算性、東京一極集中の加速、トンネル建設に伴う環境破壊など、論点が網羅されている。推進側のものも含めて、典拠がしっかり記されているので、気になった話題についてはそれに当たるのが良いだろう。

    リニアの考案者と言われる技師は、エネルギー浪費の観点からリニアに反対するようになったとのこと。現行の新幹線よりもエネルギー多消費であることは、推進側も含めた共通認識のようだ。

  •  リニア中央新幹線構想を知ったのは昭和の時代で随分前のことになるが、超伝導というすごい技術を使うようだけれど、そんなに速くしてどうなのかなという程度の、あまりに素朴な考えしか持っていなかった。
     また最近は、トンネル掘削による大井川水系への悪影響を巡って、JRと静岡県が揉めているニュースを耳にすることが多かった。

     本書は、リニア中央新幹線に関する問題点を一つずつ暴いていく。
     巷間言われているのとは異なり、相当な電力を必要とし、原子力発電からの供給が想定されていること。超伝導マグネットの冷却材として液体ヘリウムが使われるが、ヘリウムは希少資源で日本は100%輸入に頼っていること。事故が発生した場合の避難が極めて難しいこと。リニアでつながる東京・中部・近畿圏を包含する6000万人メガロポリスの誕生が喧伝されるが、結局東京一局集中が進むのみで地域振興の効果は期待できないこと。トンネルを掘ることによる南アルプス地域の環境への影響が予測し難い上、大量の残土の運搬、処分が大変なこと。もともとはJR東海の事業であったのが、財投を活用して無担保で3兆円を融資するという国家的事業となったこと。

     事業単体としては経済的に成功が覚束ないと言われており、様々な問題のあるリニア事業が、どうして国家的プロジェクトとなり暴走してしまうのか?
     科学技術も決して中立的なものではなく、国家ナショナリズムと容易に結びつき、政界、役所、企業と癒着し既得権益化することを、原子力ムラの例を上げながら著者は論じていく。
     フロンティアを食い潰し、弱者にしわ寄せを押し付ける、現在の資本主義をこのまま延命させるのか、フクシマ、コロナ・パンデミック後の新たな方向性を見出していくのか。

     200ページほどで大変読みやすく、リニアを通して現代社会の今後を考える貴重な示唆を与えてくれる。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      重度積読症さん
      EXPO70で模型を見たが、理論と実際の違いを思い知らされた感じ、、、
      早くバンザイして中止した方が世の為みたいですね。
      重度積読症さん
      EXPO70で模型を見たが、理論と実際の違いを思い知らされた感じ、、、
      早くバンザイして中止した方が世の為みたいですね。
      2021/04/12
  • 保守政党、中央官庁、財界の権力集合体に対してこの本を読んでいる間、ずっと腹がたちまくっていた。
    計画当初と今では環境がまったく違うので、もうリニア新幹線はいらない。
    リニア新幹線が地下鉄だなんて知らなかった。
    南アルプスの自然を破壊しないでほしい。
    日本は撤退するのが昔から下手。
    太平洋戦争、原子力発電所、オリンピック…。
    マスコミも客観的なデータを出さないで報道しているし。
    読みやすいので、多くの人に読んでほしい。

  • 2021年度第2回見計らい選定図書
    http://133.11.199.94/opac/opac_link/bibid/2003581404

  • リニアは、資本主義の縮図。

    リニアは、漠然とした成長神話の象徴であり、それ以外に意味を持たない。

    資本主義とは、全体のパイの成長に依っており、拡大への欲望は無限。
    しかし、成長のためには、地球という資本がエネルギーとして必要。その地球資本が尽きようとしている。

    だからこその脱成長であり、脱リニア。

    明快だ。

  • これも日本人全員必読かも。リニアには電力がたくさんいるから原発が必要になるし環境にも悪い、というだけの知識で読み始めたが、これほどの壮大な無駄で危険なものとは知らなかった。電力の浪費についてはリニアを考案した国鉄の技術者がなんと1989年にすでに指摘しているのだ。しかもスピードだけを優先しているため新幹線よりも安全性が落ちている。そして、車体は新幹線より細いのにトンネル壁との間隙が大きくないといけないそうでトンネルのサイズは大きいので、1日8000台ものトラックが必要になる残土処理の問題もある。大深度の地下を掘り進んで環境にどんな影響が出るか本当のところは誰にもわからない。といいつつ最近も住宅地で陥没が実際に起きているわけだから、多大な悪影響があることは明らかだ。右肩上がりの経済成長が期待できない今の社会の環境重視、脱原発という世界的な流れに完全に逆行している。東京、名古屋、大阪が短時間で繋がっても、恩恵を受けるのは実は東京だけという「ストロー効果」の問題もあるという。どこを探しても何のメリットもなさそうなのに巨費を投じて環境破壊をするだけではないか。しかも最初はJR東海の事業だったのが、途中から社長が安倍元首相のお友達だったので半分国の事業のようになったという。こんな無駄なものに国費を使いつつJR東海は小さな駅の無人化を進めてリニアの予算に充てているという。まったく誰のための事業だろう。
    本書の後半でも触れられているが、脱成長社会に本気で取り組んでいかなければ。
    そのために戦後の歴史が概観されているが、わかりやすくまとめてあって頭が整理された。戦後の日本の経済成長には朝鮮戦争の特需が寄与したことは知っていたけど、ベトナム戦争の特需もあったのだ。しかも戦後の荒廃からいち早く立ち直ることができたのは、アメリカが日本の民主化でなく対共産圏防衛の基地として、賠償請求よりも経済の安定を目指す方針転換をしたため、軍需工場などがほぼすべて破壊を免れて、設備も人材も十分に準備できていたからだという。本当に荒廃してインフラや建物から造りなおさなければならないのだったら、あれほどの急激な成長はできなかった。なので現在の企業にも戦時中の総力戦体制のマインドセットが残っているらしい。経済戦争に勝つ、国威発揚、一番になる、ということだけを目標にすれば、この時代にもリニアを継続しようという発想は理解できてしまう。この時代錯誤のマインドセットを捨てさせるためにはどうしたらいいかが考えどころだ。

  • ポストフクシマ、ポストコロナの状況でリニアは本当に必要なのか⁉️
    様々な観点から問い直す。

  • 東2法経図・6F開架:516A/Y31r//K

  • リニアについては前から需要に疑問を感じており、南アの自然をぶっ壊すクソ事業と捉えつつもその程度の考えしか持っていなかったが、本書を読むとこの事業が日本没落の象徴事業で如何にヤバいことであるかひしひしと理解でき、自分の無知をひどく恥した。。。

    この事業の影響をリアルに受けるのは多分現在20代以下の若者と子供たちだろう。
    折角汗水たらして作り上げても需要が全くなくて維持に莫大なコストがかかるとすれば、何の価値もない徒労、失った時間と資源は戻ってこない、ヤバすぎる。。。
    人口的に需要が期待できなそうで都市(東京)集中を加速させるし、一番厄介なのは膨大な電力消費の問題だろう。。。ばかばかしくアホみたいな税金を投入し運賃1000円で運用していくのなら新しい生活環境は誕生する可能性があるが、そもそも誰がリニアを使いたがっているのかが全く想像できない。。。私は生きてあと40年だから知ったこっちゃないが100年200年で考えてみると素人目で観ても負債と時限爆弾な事業としか思えない。。。

    著者の山本義隆さん、ちょっと調べると肩書は予備校教師だが東大で将来を期待される物理学者だったようで、学生運動でその道を変えたみたいであった。そういえば私の高校の頃持っていた物理の参考書はこの山本さんの本であった!

  • まず、こんなに電力を浪費する乗り物だと思わなかった。
    東京から大阪までをリニアは新幹線より3分の1の時間で到着するが、そのためには5倍のエネルギーを必要とする。
    高速になればなるほど空気抵抗や機械抵抗が余計にかかるわけで、さらに磁気抗力も加味すると、仮に新幹線と同じ速度で走っても2倍のエネルギーを消費する。
    原子力発電の電力供給が必須な理由がよくわかる。

    東京-名古屋間の90%以上がトンネルで、その中を時速500kmで飛ばすのだから、火災は言うに及ばず、ボルト1つ外れただけで大惨事になるわけで、乗る人を選ぶよな。

    もともとはJR東海の全額自己負担で始まったこの計画が前に進み始めたのは、無担保で3兆円が借りれて、30年返済が猶予される国策プロジェクトに変わったから。
    いまさら引き返すに引き返せないほど、どっぷり頭まで浸かっちゃっているが、果たして採算がとれるのか、見通しは暗い。

    仮に静岡の川勝知事がすんなりOKを出したとしても、トンネル工事が順調に進むとは思えないんだよな。

    コロナ禍による需要減少と相次ぐ自然災害で、不採算路線の整理・縮小が計画されているが、東日本大震災の例を見ても、地方のローカル線を継続する意味は大きいんだけど、公益として優先されるのはリニア中央新幹線の方。

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著者プロフィール

1941年、大阪に生まれる。1964年東京大学理学部物理学科卒業。同大学大学院博士課程中退。現在 学校法人駿台予備学校勤務。
著書『知性の叛乱』『重力と力学的世界』『演習詳解 力学』(共著)『新・物理入門』『熱学思想の史的展開』『古典力学の形成』『解析力学』(共著)『磁力と重力の発見』(パピルス賞・毎日出版文化賞・大佛次郎賞)『一六世紀文化革命』『福島の原発事故をめぐって』『世界の見方の転換』『幾何光学の正準理論』『原子・原子核・原子力』『私の1960年代』『近代日本一五〇年』(科学ジャーナリスト賞)『小数と対数の発見』(日本数学会出版賞)。
編訳書『ニールス・ボーア論文集(1)(2)』『物理学者ランダウ』(共編訳)。
訳書 カッシーラー『アインシュタインの相対性理論』『実体概念と関数概念』『現代物理学における決定論と非決定論』『認識問題(4)ヘーゲルの死から現代まで』(共訳)ほか。
監修 デヴレーゼ/ファンデン ベルヘ『科学革命の先駆者 シモン・ステヴィン』中澤聡訳ほか。

「2021年 『リニア中央新幹線をめぐって』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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