あなたが消された未来――テクノロジーと優生思想の売り込みについて

  • みすず書房
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本棚登録 : 70
感想 : 6
  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622090021

作品紹介・あらすじ

一部の先端的なバイオテクノロジーは、人々の優生学的な衝動を利用しながら売り歩かれている。著者はダウン症のある子をもつ作家として、この局面を見つめた。
本書は、バイオ企業の広告や、スティーブン・ピンカーら科学者の発言を吟味し、テクノロジーがもたらす未来のビジョンとともに優生思想がいかに私たちの意識下へ刷り込まれているかを示す。新型出生前診断(NIPT)をはじめとするスクリーニング、ゲノム編集、ミトコンドリア置換、合成細胞、染色体サイレンシング……こうしたバイオテクノロジーのPRの物語のなかで、障害者はすでに消された、実体のない存在であり、またそれゆえに、売り込みに必須の要素として使われている。
売り込みは経済合理主義の社会的圧力をエンジンとして推し進められ、非定型の遺伝的素因をもつ人々は圧倒的少数派へと追いやられつつある。生殖テクノロジーの選択は当事者の「自己決定」の問題だといわれるが、本書が示すような圧倒的な〈説得〉の圧力のもとにある自己決定とは何物だろうか? ジョージ・フロイドとまったく同じ形で命を奪われたダウン症のある青年イーサン・セイラーに、私たちの多くが気づけなかったのはなぜだろう? テクノロジーが優生思想の裏口となっている現状を痛切に描き出す書。

感想・レビュー・書評

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  • 東2法経図・6F開架:490.1A/E75a//K

  • テクノロジーが優生思想の裏口となる、と帯に記されている。昨今、人の差異を許容するレンジが狭くなり、優生思想との親和性を増しているような風潮を感じる。大きな流れに抗うのは難しい。でも落ち着いて考えるべき事柄である。


  • パラリンピック開催中にこの本を読めて良かったと思う。

    筆者は科学やテクノロジーを否定しているのではないし、出生前診断を選んだ人たちを受け入れている。ただ出生前診断がビジネスとなり、健康な家族を持つことが正しい幸福というイメージが社会に刷り込まれると、ダウン症等遺伝的障害を持つ人々の生が否定されるのではという強い危惧を抱いている。
    『人間は将来により良い子孫を残すべし』『障害を持って生まれてくる子もその家族も幸福にはなれない』という刷り込みが優生思想の根本にあるわけだけど、これって健常者が障害を持つ人々を「かわいそう」と哀れんだり「優越感の材料」として扱ってしまうことと密接してるよなあ、と思ったり。




    【あなたが消された未来】と先日読んだ【なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのか】の両方に偶然『トロフィーチャイルド』の問題が被ってきてて、

    自分の子どもの人生を親が決定・改変してしまうことの是非、みたいな。

    『自分の子どもの人生の幸福を願わない親はいない』は、そのとおりだと思う。
    でも親が望む【人生の幸福】はほんとうにその子のためのものなのか。自分と子どもの幸福を同一視していないか、自分が望む幸福の形を子どもに実現させることで自分が優越感や愉悦や利益を得ようとしてはいないか。
    自分の理想に合わない子供を非難し、否定し、排除しようとしてはいないか。自分自身の見栄や立場や社会的信念や信条のために子どもを利用し強制したり矯正しようとしてはいないだろうか。

    本家の跡取りの男子を望む父親や親戚にとって私はまさに『望まれない子ども』だったから。母親が「女の子で良かった」と言ったことはあるけど、それは「この家の中で自分の味方をしてくれる人が増える」という母親自身の利益の意味の言葉だったし。進学や就職や結婚も含め「親の意志に沿わないお前には価値が無い」という態度が徹底した家だったから。
    親が子どもに持つ理想、の問題についてはどうしても敏感になってしまうな……という個人的なお話。



  • ダウン症など

  • 【書誌情報】
    あなたが消された未来:テクノロジーと優生思想の売り込みについて
    原題:FABLES AND FUTURES: Biotechnology, Disability, and the Stories We Tell Ourselves
    著者:George Estreich  詩人。
    訳者:柴田裕之
    判型 四六判 タテ188mm×ヨコ131mm
    頁数 344頁
    定価 3,960円 (本体:3,600円)
    ISBN 978-4-622-09002-1
    Cコード C0036
    発行日 2021年5月17日

    一部の先端的なバイオテクノロジーは、人々の優生学的な衝動を利用しながら売り歩かれている。著者はダウン症のある子をもつ作家として、この局面を見つめた。
    本書は、バイオ企業の広告や、スティーブン・ピンカーら科学者の発言を吟味し、テクノロジーがもたらす未来のビジョンとともに優生思想がいかに私たちの意識下へ刷り込まれているかを示す。新型出生前診断(NIPT)をはじめとするスクリーニング、ゲノム編集、ミトコンドリア置換、合成細胞、染色体サイレンシング……こうしたバイオテクノロジーのPRの物語のなかで、障害者はすでに消された、実体のない存在であり、またそれゆえに、売り込みに必須の要素として使われている。
    売り込みは経済合理主義の社会的圧力をエンジンとして推し進められ、非定型の遺伝的素因をもつ人々は圧倒的少数派へと追いやられつつある。生殖テクノロジーの選択は当事者の「自己決定」の問題だといわれるが、本書が示すような圧倒的な〈説得〉の圧力のもとにある自己決定とは何物だろうか? ジョージ・フロイドとまったく同じ形で命を奪われたダウン症のある青年イーサン・セイラーに、私たちの多くが気づけなかったのはなぜだろう? テクノロジーが優生思想の裏口となっている現状を痛切に描き出す書。
    https://www.msz.co.jp/book/detail/09002/

    【目次】


    第一章 仮想の子供(バーチャル・チャイルド)
    遺伝的に望みどおりの子供──バーチャル・チャイルド──「疾患」の拡張──障害の「関係」モデル──売り込みのナラティブと障害像

    第二章 生殖細胞系
    ゴールトン優生学の階層制──クリスパー・キャス9のための〈説得〉──精子バンクの新たなワンドロップ・ルール──「エ・プルリブス・ウヌム」の二つのビジョン──遺伝子を編集される人々の声──利用しながら消し去るレトリック

    第三章 カウンティフェアで
    ベター・ベビー/フィッター・ファミリー・コンテスト──初期優生学のビジョンと国家・地域・家族──脱絶滅テクノロジー──「自然なもの」による〈説得〉──楽観主義の連鎖反応──科学とフィクション──より多くのマンモス/より少ないダウン症

    第四章 私たちの画面上で
    NIPTの広告──売り込みの儀式──「テレソン」の語り方──因習と〈会話〉──最新の「知恵遅れ」ジョーク──知的障害者からの応答

    第五章 但し書き
    NIPTのマーケティングとイメージ──「哀れなエドナ」──リスクと理想の対比──意図的な曖昧さ──密かな〈説得〉

    第六章 ニューオーリンズ
    遺伝カウンセラー──遺伝子の未来のタイムズスクエア──微小欠失、「22q11・2」の売り込み──あらゆるものを検査する未来

    第七章 シンシアを読む
    「新しい種類の生命」というメタファー──合成細胞「シンシア」の売り込み──哲学的進歩なのか──『アメイジング・スパイダーマン』のカインとアベル

    第八章 軽蔑的なナラティブ
    〈会話〉を停止させるための〈説得〉──三人の親によるIVF(ミトコンドリア置換療法)──「恐れに満ちた」大衆というキャラクター──合意の不在と市場の圧力──「選択」から「デザイン」「能力強化」へ

    第九章 モデル・ワールド
    染色体サイレンシング──人間の「コスト」──フェアヴュー・トレーニングセンターによる隔離──シングルストーリーの問題──イーサン・セイラーの死

    第一〇章 居場所を見つける
    進歩のナラティブの歴史──居場所のあるストーリー──『かくれた天使』の語り──代弁について──『ナイジェル・ハントの世界』

    結論 身体と住み処(ホーム)
    DNAに記録された連続写真──リニアな進歩と途絶──繰り返される不可視性・衝撃・時間の歪みというモチーフ──身体と住み処の未来

    謝辞
    訳者あとがき

    参考文献
    原註
    索引

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著者プロフィール

コーネル大学で芸術系修士号取得後、オレゴン州立大学講師。詩人。著書に、Fables and Futures: Biotechnology, Disability, and the Stories We Tell Ourselves (MIT Press, 2019, 『あなたが消された未来』柴田裕之訳、みすず書房)、ダウン症のある娘ローラを得た経験を回想するメモワールThe Shape of the Eye(SMU Press, 2011; Penguin, 2013. 2012年のオレゴン図書賞受賞)、Textbook Illustrations of the Human Body(Bedbug Press, 2005, 詩集、ゴースライン賞受賞)がある。The New York Times, The Oregonian, Avidly, The American Medical Association Journal of Ethics, Salon, Tin House, McSweeney's Internet Tendency等にエッセイを寄稿している。

「2021年 『あなたが消された未来』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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