動物たちの家

  • みすず書房 (2021年8月4日発売)
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本 ・本 (336ページ) / ISBN・EAN: 9784622090052

作品紹介・あらすじ

犬、ハムスター、鳩、鶉…共に暮らした種々の小さな生き物たちの瞳や毛並、表情や行動の記憶が僕に語りかけてくる。『庭とエスキース』の著者による、新しい動物文学。

「この後、犬をはじめハムスターや野鳥や鳩やインコなどたくさんの生き物と暮らすことになるが、思えばこれが自分以外の小さな生命を胸で感じた最初の瞬間だったのかもしれない。子犬を抱き上げて力強い鼓動を感じ、小さな瞳を見つめたあの日の経験は知らぬ間に僕の胸のうちに“場所”を生んだのだと、今の僕は感じている。
それは、小さな生命が灯す光に照らされた場所だ。とてもきれいな場所だけれど、美しさだけに包まれているものでもない。生きることの根源的な残酷さや無常を孕み、もしかしたら小さな生命たちの墓所のような地なのかもしれない。僕が過去に出会い、ともに過ごした生き物たちはみなその生を終えてしまっている。僕の前で確かに存在していたあの生命たちはどこに消えてしまったかと、ときおり、遠い日に忘れてしまったものを急に思い出したかのような気持ちになる。でも、あの美しい針が居並ぶような艶やかな毛並みも、鮮やかな色彩のグラデーションが施された柔らかな羽毛も、ひくひくと震え続ける桃色の鼻先も、僕を満たしてくれた小さな生き物たちの存在は確かに消えてしまっていて、どこを見回しても見当たらない。それでも根気強く探し続けると最後にたどり着くのは、いつも胸のうちにあるこの“場所”だ」(本文より)

感想・レビュー・書評

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  • 著者が子供の頃に飼っていたたくさんの動物たちの話と、大人になってから関わった二匹の犬の話。子供らしいいい加減さや興味の移り変わりも含めて、率直に語られていると思う。一匹を除いてみんなすでに亡くなっている。飼っていた思い出の話なのだが、話の比重は動物たちの死へとどんどん傾いていく。

    動物を飼うということは、動物を看取らねばならないということだ。番犬ボビーの話は昔田舎で飼っていた犬と重なるところが多くて、つい泣いてしまった。あの犬のことを思い出してみれば、確かに一番に思い出すのは最期のことだ。一緒に暮らして、当然のように側にいた庇護すべき小さな命、それがいつの間にか滑り落ちていって、いなくなってしまう。それは消化するにはあまりにも重たい石になって人間の腹の中に残る。

    著者はこう自問する。
    「そもそも生命は……ふいに生まれてふいに消えていくだけだ。……でも、今思うのは、生命がふいに生まれ、ふいに消えていくものだとしたら、なぜ、こうして生命は容れ物を必要とするのだろう。……そして、ある日、生命がその容れ物すら捨ててしまうのはなぜだろう」
    著者の人生の中でたくさんの動物たちが伴走し離れていく。最後には過酷な環境で生き抜く一匹の犬と猫たちとの出会いによって、命のいくさき、つながりのありようという答えをつかみ取っていく。それが見事だった。
    今、実家の猫の一匹が非常に弱ってきていて、この冬を超えられるか分からないというところに来ている。そんな状態なので、ますますこの本の話が刺さるところがあった。
    また会いに行こうと思う。

  • 「動物を飼う」こと、その生と死が著者や動物たちにとってどういう意味を持つのかをひたすらに考える私的な本だが、人間の身勝手さをも包み隠さずに語られる言葉があまりにも誠実で胸に迫る。著者幼少期からのたくさんの飼育経験をはじめ、季節の移り変わり、動物の心情等の豊かな描写が、カラー写真とともに全体を彩る。猫を1匹飼っているだけだが、こんなに泣いたノンフィクションは初めてかもしれない。動物を飼ったことがある、飼おうとしている、動物の仕事を志すすべての人に。

  • 『庭とエスキース』がとてもよかったので、写文集の第2作も迷わず読んだ。
    著者の驚くべき映像的記憶力で、飼ってきた動物たちの思い出が語られる。忘れているところについてはすっぽりと抜けてはいるのだけれど、ほんの今しがた見てきたような生々しい筆致で書かれていて、それだけの濃密なつきあいだったのだろうなと、ちょっとうらやましくおもった。
    最後のリュウとのエピソードは、人ん家の飼い犬にそういう入り込み方はどうなのよ、うそまでついてさ、と思わないではなかったが、どうやって岩手の冬の寒さに耐えていくかを発見する下りは本当にハッとさせられた。書名はここから来ている。たくさんの動物を飼っていた実家のことではないのだ。

    一体どんなふうにして、この本が書かれていったのだろうか。
    そういう由来の解説みたいなものはないのだが、書き下ろしだろうか。
    長さが揃っているように思うので、なにかの連載かな。

    こういう風に、出会いと別れをつぶさに思い出しながら書く作業というのは、きっと楽しく辛い時間だろうな。

  • 庭で飼っている犬を見ることがめっきりなくなった。今では信じ難いけど、少し前まで、人間と動物はこんな距離感だったよなと思い出す。

    小学生の時、増えすぎた金魚の数匹を父が庭に埋めたらしい。その様子を母から聞いて、父のことが分からなくなった。これもまた信じ難いけれど、時に父親は残忍な顔を見せる存在だった。

    実家で飼っていた犬は室内犬で家族みんなに溺愛されていたけれど、この本に登場するように、彼自身の気持ちを想像したことはたった一度だけだった。身体が弱ってきた頃、夜になると階段の下から首を傾げて撫でてほしいと私を静かに見ていたあの目。満たされていそうで、どこかつまらなそうで、眠たそうなあの小さなヨークシャテリアを思い出していた。

  • https://elib.maruzen.co.jp/elib/html/BookDetail/Id/3000117205

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  • 今まで飼ってきた犬、鳥、ハムスターなどの動物たちとの魂の交流を描くエッセイ。
    最初の方は幼い頃の動物好きの感じが微笑ましく、自分も振り返って懐かしくなる。
    しかし、飼いたがるわりに動物との関わり方の身勝手さが目立ってきて綺麗事だけではない感じになってくる。他人が飼っている犬に手術を受けさせるなど過剰な介入をするのをピークにこれは一線を超えてしまったのではないかと恐くなる。
    そんな中でも犬のひたむきさだけは印象深い。

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著者プロフィール

写真家。1972年大阪生まれ、奈良育ち。京都外国語大学卒業後、東京の出版社に勤務。1998年岩手県雫石町に移住し、写真家として活動を開始。以後、東北の風土や文化を撮影し、書籍や雑誌等で発表するほか、人間の生きることをテーマにした作品制作をおこなう。2006年「Country Songs ここで生きている」でフォトドキュメンタリー「NIPPON」2006選出、2015年「あたらしい糸に」で第40回伊奈信男賞、2018年写真集『弁造 Benzo』で日本写真協会賞 新人賞、2019年写真集『弁造 Benzo』および写真展「庭とエスキース」で写真の町東川賞 特別作家賞を受賞。主な著書に『手のひらの仕事』(岩手日報社、2004)、『とうほく旅街道』(河北新報出版センター、2012)、『庭とエスキース』(みすず書房、2019)などがある。

「2021年 『動物たちの家』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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