病むことについて 新装版

制作 : 川本静子 
  • みすず書房
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本棚登録 : 120
感想 : 4
  • Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622090243

作品紹介・あらすじ

病気になったとき、私たちはどんな本を読むのだろうか? かたい本か、あるいは軽い本か? ウルフ女史はいったいどんな本を選ぶのだろうか? 誰であれ、病気にはなるのだから、これはとても重要な問題である。タイトル・エッセイはこの問題に、やや脱線気味ながら、一つの答えを与えてくれる。

彼女はかつて、小説を書くのはしんどい作業であるが、評論やエッセイを書くのはとても楽しい、と言ったことがある。

「ウルフのエッセイの魅力はと言えば、卓抜な着想、思いがけない切り口、気の向くままにペンを走らせているようなルースな構造、計算された脱線、適切な比喩、そして皮肉な口調でふと洩らされる本音など、多々挙げることができよう」(編訳者)。

幼いときから自由にどんな本でも読ませてくれた、気むずかしい父親・レズリー・スティーヴンの思い出。伝記ははたして芸術たりうるか——これは友人のリットン・ストレイチーの伝記文学を軽妙に論じた一篇である。他にも、書評や『源氏物語』について、フォースターや30年代の世代に関してなど、14篇のエッセイを収録。さらに、皮肉とユーモアに満ちた短篇を2作収める。

感想・レビュー・書評

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  • コロナ禍のなか、「病むことについて」というタイトルに惹かれて読んだが、ヴァージニア・ウルフの評論、エッセイ、講演、短編小説を集めたもので、「病むことについて」は、そのなかの一つのエッセイのタイトルで、全体としては、文芸評論的なものが多いかな?

    そして、「病むことについて」は、インフルエンザにかかった経験を踏まえ、われわれが、あたり前のことが病気になることで、いかに簡単に変化するかというところで始まるのだが、話はやっぱり文学のほうに展開する。ので、「病むこと」について、深い洞察が得られると言うわけでもないかな?

    今回読んで、印象的だったのは、「空襲下で平和に思いを寄せる」で、1940年、第2時世界大戦のさなか、ドイツ軍の空襲をうけながら、ヒトラーと戦う政治家のディスコース、イギリスの自由を守るために戦闘機に乗って戦う兵士、そして、ドイツの兵士などに思いをよせつつ、「自由」のために自分ができることについて考えるところが面白かった。

    あと、イギリス的な階級社会に意識的になった上流階級の作家が、なにかを書こうとしても、その技術は、これまでの上級階級の教育から得たものであることから生じるジレンマを論じた「斜塔」も面白い。それから、「女性にとっての職業」が「自分だけの部屋」の続編みたいなものになっているもの面白かった。

    さらに、ウェイリーの英訳を通じて読んだのであろう「源氏物語」の感想も面白い。

    と、いろいろ面白いところは多いのだけど、評論の対象となっている作品を知らないものが多くて、わからなくなって、しばしば、読むのを中断してしまうこともある。

    全体的には、やや小作集というところで、ウルフの独特の視点は楽しめるが、まずは他の作品を読んだ上で、読むべき感じかな?

  • 14編のエッセイと短編小説2編を収録。これまでウルフの作品は小説しか読んだことがなかったので、エッセイはとても新鮮に感じました。確かな知性と洞察力に優れたエッセイはどれも印象深く、文学論とでも言うべき「斜塔」や平和への思いを綴った「空襲下で平和に思いを寄せる」、喪われていく生命を凝視した「蛾の死」、父親について書いた「わが父レズリー・スティーヴン」など、とても面白かった。「源氏物語を読んで」も興味深く、改めて源氏物語を読んでみたいと思った。短編小説の「遺贈品」「雑種犬ジプシー」も絶品。

  • しかし、徒歩旅行者としても知られた著名なヴィクトリア朝人がかつて徒歩旅行者たちに与えた助言を心に留めましょう。「『侵入者は告発されます』という掲示板を見たらいつでも、ただちに侵入したまえ。」
    ただちに侵入しましょう。文学は誰の私有地でもないのです。文学は共有地なのです。(198)

  • 本書は、ウルフのエッセイ14篇と短編2篇で構成されている。

    目次は以下の通りである。
    ✳︎エッセイ
    「伝記という芸術」
    「我が父レズリー・スティーヴン」
    「いかに読書すべきか」
    「『源氏物語』を読んで」
    「病むことについて」
    「なぜですか?」
    「女性にとっての職業」
    「E・Mフォースターの小説」
    「『オローラ・リー』」
    「エレン・テリー」
    「斜塔」

    ✳︎短編
    「遺贈品」
    「雑種犬ジプシー」


    本書を読んでウルフのエッセイは幅広い分野について書かれていることが分かる。

    「我が父レズリー・スティーヴン」ではウルフの幼き日の思い出に浸っている。父ウルフ父が残した偉大な言葉を少し紹介する。

    ・本の読み方について
    「好きなものを好きだから読み、感心しないものに感心したふりをしないこと。」P22

    ・ものを書く方法について
    「できるだけ少ない語数で、できるだけ明晰に、自分の意味するところを正確に書くこと。」P22-23

    この2点は私も心に留めておきたいと思った。

    このエッセイからはウルフの父の人物像が、娘の視点で鋭く描き出されている。

    「いかに読書すべきか?」では女流作家とひて、評論家としてのウルフの視点から読書について書かれている。少し引用し紹介する。

    “作家がしていることの諸要素を理解するもっとも早い方法は、読むことではなく書くことなのです。言葉の危険性と、むずかしさを自分で試してみることです。”P27

    “伝記や回想録は日常の仕事をこなして、骨折って働き、失敗し、成功し、食べ、憎み、愛し、そして最後に死んでいく人々を見せてくれます。”P30

    作家として、評論家として活動しているからこその視点は、私に新鮮な感覚を与えてくれる。伝記については本書のエッセイでも「伝記という芸術」で語られている。

    「病むことについて」このエッセイが本書のタイトルになっている。病気がいかにありふれたものであるか。病気のもたらす精神的変化がいかに大きいか。病気になった時の心象、精神と肉体について描かれている。病んでいる時の受け取る言葉の性質については、神秘性が備わっていると語られているが、心当たりがある方も多いだろう。ウルフも精神的な病と戦いながら生きているということもあり、彼女の言葉は重く受け止められる。

    「女性にとっての職業」では、ウルフが作家として筆をとってから経験したことを語られている。この時代の女性の立場での肩身の狭さなどひしひしと伝わってくる。

    “女性のいく手には、私が思うに、たくさんの幻や障害が立ちはだかっているのです。そうした幻や生涯について話し合い、それらをはっきりさせることは、とても価値のある重要なことだと思います。”P111

    以上のように、ウルフが実際に幻や障害に向き合った様子などをこのエッセイでは語られている。

    エッセイの中で印象的であったのは「蛾の死」。誰も気にしないような小さな生命の煌めきに目を向けて観察するウルフのまなざしが愛おしく思える。生命と死の不思議を伝えてくれた。


    ウルフのエッセイのところどころに出てくる彼女の鮮やかな情景とともに現れる比喩に、私の想像力が追いつかないのが悔しい。

    また、私が読んだことのない本を取り上げて、それを例えに出して書かれていたりするので、そのような知識が足りない中で本書を読み進めるには気力が必要であった。


    エッセイに比べて短編は比較的読みやすかった。

    短編の「遺贈品」は無くした妻の遺贈品の日記と向き合う話。日記に出てくるB・Mという男性。読み進めていく中で正体が明らかになる。結末を迎えて私は空いた口が塞がらなかった。こんなに短い短編で、ここまで余韻を残させるなんて。

    もう一つの短編「雑種犬ジプシー」は未発表原稿とのことだ。ある夜更けに2組の夫婦が暖炉を囲みながら、昔馴染みの友人たちのことを話している。その中で出てくるジプシーという雑種犬について語られている。人と動物は分かり合えない。分かり合えないからこそ、動物も人も、分かろうとする。しかし、それでも喋ることが出来ないから本当のことが分からない。最後に残る余韻は何なのだろう。


    本書を通して、ウルフの抜きん出た着想や気ままに綴るような書き方、比喩の多彩さ、鋭利な本心などは、読み手の私の心に刻まれた。

    他のウルフの作品にも触れていきたいと思う。

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著者プロフィール

1882年―1941年、イキリスのロンドンに生まれる。父レズリーは高名な批評家で、子ども時代から文化的な環境のもとで育つ。兄や兄の友人たちを含む「ブルームズベリー・グループ」と呼ばれる文化集団の一員として青春を過ごし、グループのひとり、レナード・ウルフと結婚。30代なかばで作家デビューし、レナードと出版社「ホガース・プレス」を立ち上げ、「意識の流れ」の手法を使った作品を次々と発表していく。代表作に『ダロウェイ夫人』『灯台へ』『波』など、短篇集に『月曜日か火曜日』『憑かれた家』、評論に『自分ひとりの部屋』などがある。

「2022年 『青と緑 ヴァージニア・ウルフ短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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