「春」はどこにいった 世界の「矛盾」を見渡す場所から 2017-2022
- みすず書房 (2022年12月13日発売)


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本 ・本 (272ページ) / ISBN・EAN: 9784622095309
作品紹介・あらすじ
9・11米国同時多発テロから20年。「アラブの春」から10年。国際社会からの関心が薄れるなか、中東は注目すべき変化の途上にある。
「まがりなりにも、選挙を実施している。まがりなりにも、自分たちの手で政党を選び、表現の自由も与えられている。だから、言うべきことは言うべきだし、不当なことをされたらそれに抗議しなければならない。驚くべきことに、2003年以降のイラクには、ちゃんとした「民主主義」が育っていたのだ。だからこそ、彼らは国旗を背負って抵抗運動を繰り広げる」
「女性たちは長らく、社会的権利を奪われるばかりでなく、その身体そのものを支配されてきた。医療や美容、スポーツに携わる女たちは、他者に支配されてきた女性の身体を、自分自身で解放し、女性自身の手に取り戻そうとしている。それだけではない。女たちは、その技術で、負傷した男たちを守っているのだ。男に対して、「守って」というのではなく。「春」は女の顔をしている。それを「冬」へと導いたのは、力に頼るしかない「男社会」だ」
今知るべき中東情勢を歴史的厚みのある記述で伝えつつ、彼の地で失われてゆくものと生まれつつあるものを見つめ続けた時評集。
感想・レビュー・書評
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みすず書房 酒井啓子 「 春はどこにいった 世界の矛盾を見渡す場所から 2017-2022 」
「アラブの春」後のイラクについての時評。多文化共生のあり方や難民受入に対する考え方など を知ることのできる良書
主なテーマ
*民族対立や宗派対立より、世代対立の方が深刻
*国家を担う民族 と担わない民族の天と地ほどの差〜国家権力とは何か
*難民と難民を受入れる者の緊張関係をどう考えるか〜国境の壁は排除と拒絶を見える化するもの
*難民と他の難民の不平等(犠牲者の競争)をどう考えるか
*非欧米を置き去りにした国際秩序
あとがき「危ないからといって〜異文化に目をつぶること、他人と心を交わさないことは〜もったいない」という著者の研究姿勢に共感する若い学者が増えればいいなと思う
著者の難民の受け入れ方「人が移動すれば、衝突は必ず起こるが、移動する人々から自分の力で身を守る生き様を学ぶべき」
*民族対立や宗派対立より深刻なのは 世代対立
若さは人々の希望を掻き立てる一方で、その野心がもたらす無分別な判断は、ときに国を危機にさらす
「アラブの春」で若者たちが得た教訓
若者たちは素手で〜巨人の圧力に抗する。蟻のように踏みつぶされても立ち上がる
*国家を担う民族と担わない民族の天と地ほどの差〜国家権力とは何か
国家を持てば、領土と国民を支配する正当性が得られ〜外交交渉や軍事力を行使できる〜国家が持つ権力が圧倒的に大きい
*難民と難民を受入れる者の緊張関係をどう考えるか
よそものを守ることが、国民の利益になる。だから受け入れるという論理が必要
国家に守られることは自明のことではない。〜かって敵対した文化が脈々と自分の社会の伝統のなかに組み込まれていることを、いつか自覚する
*難民と他の難民の不平等(犠牲者の競争)をどう考えるか
あの犠牲に同情するなら、この犠牲も報われるべきではないか
犠牲者が、別の犠牲者を非難することでしか救われない社会、政治、国際システムが問題〜犠牲者が、別の犠牲者を叩かなくても救われる論理が必要
*非欧米を置き去りにした国際秩序
国際秩序と呼ばれるものが、植民地支配や戦争の勝者が主導した秩序であること〜それを担ってきた白人の論理であること
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東2法経図・6F開架:302.27A/Sa29h//K
著者プロフィール
酒井啓子の作品






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https://bunshun.jp/articles/-/65926
「『アラブの春』から10年 中東のいま」(視点・論点) NHK解説委員室(2021年03月02日)
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/444656.html