依存症と人類 われわれはアルコール・薬物と共存できるのか

  • みすず書房
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  • 本 ・本 (456ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622096023

作品紹介・あらすじ

ある時代には酒や薬物に耽溺することは「堕落」と見なされ、ある時代には「下級階層の流行病」と見なされた。またある時代には、たとえ同じ薬物でも、特定のコミュニティで使用すれば「医療」だが、別のコミュニティに属する者が使用すれば「犯罪」と見なされた。
アルコール依存症から回復した精神科医が本書に描くのは、依存症の歴史であり、その概念の歴史である。自身や患者の体験、過去の有名無名の人々のエピソードに加え、医学や科学のみならず、文学、宗教、哲学にまで踏み込んだ豊饒な歴史叙述によって、依存性薬物と人類の宿命的な繋がりが浮かび上がってくる。
依存症は「病気」なのか? それとも、差別や疎外に苦しむ者に刻印されたスティグマなのか――? 圧倒的な筆力で依存症をめぐるさまざまな神話を解体し、挫折と失敗に彩られた人類の依存症対策史をも詳らかにする。

「本書は、米国のみならず、国際的な薬物政策に大きな影響を及ぼす一冊となりうる力を備えている。その意味で、依存症の治療・支援はもとより、政策の企画・立案、さらには啓発や報道にかかわる者すべてにとっての必読書であると断言したい」(松本俊彦「解題」より)

感想・レビュー・書評

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  • サブタイトルが素敵

    依存症と人類 | みすず書房
    https://www.msz.co.jp/book/detail/09602/

  • アルコール・薬物の依存症対策史。著者自身が重度のアルコール依存であった過去を持ち、時折そのエピソードが挿入されます。欧米の対策や依存症への差別などかなりしっかりとした内容が紹介されています。読み応えありますがエピソードがふんだんに盛り込まれており読みやすい。

  • アルコールと煙草漬けの両親に育てられ、自身もアルコール依存症のリハビリを受けたことのある精神科医が、経験談を交えながら酒や薬物に依存する人びとと社会の歴史を辿っていく。


    依存症の経験を持つ医師が依存症治療の歴史をまとめた、いわゆる当事者研究というやつで、まずいきなり結構ヘビーな著者フィッシャーの入院体験とカミングアウトから始まる。
    でもカタい本ではない。とてもフランクな語り口で、アルコールが自分をダメにしていると認められなかった逡巡の日々を綴ったエッセイとしても面白いし、酒と薬物という切り口で見たアメリカ史としても超面白い。最近読んだなかではレベッカ・ソルニットの『ウォークス』に編集意図が近いと思う。
    キリスト教社会で依存症は堕落とみなされ、貧民への自己責任論や人種差別に繋がったこと。それがロマン派の詩人たちの手にかかり、〈天才の病〉として美化されたこと。宗教ではなく医学で取り扱うべき問題だとされてからも、遺伝説や脳疾患説など還元主義的な偏見が当事者たちを苦しめていること。ドーパミンやエンドルフィンなど脳内物質を制御することで治せると謳われたこともあったものの今のところ特効薬と呼べるものはなく、それは依存症が病気というよりも人間が陥りうる一つの状態であって、社会システムの問題だということ。
    上記のようにさまざまなトピックを語り起こしつつ、合間に自身がアルコールに依存していき、決定的に生活が破綻するまでを綴っている。通史を知ることでわかることは、依存症者にとって医学はあまり味方になってくれなかったということだ。
    19世紀以降、依存症という世間的なスティグマを負った人びとの助けになってきたのは相互扶助グループの存在だった。そこでアルコホリーク・アノニマス、通称AAと呼ばれるグループが重大な社会的ムーブメントを起こしていくのだが、ここがとても面白い。今アメリカのエンタメを見ているとしょっちゅう目にするグループセラピーの元祖はここで生まれたのだ。
    依存症をめぐる歴史からアメリカという国が見えてくる。古くは先住民を陥れる罠にもなり、貧富の差によってリーチできる医療に大きな違いがあり、肌の色によって病院か留置所か行き先が変わる。一方で相互扶助のネットワークも広がっており、同じ経験をした仲間に自己開示する場がある。日本はどうなのだろう。グループセラピーは日本人にはあまり向かない気もするけれど。
    本書は「正常」と「異常」を定めて線引きしたがる社会の姿を浮き彫りにする。依存症者に落伍者のレッテルを貼って安心したいマジョリティに対して、彼ら自身のより良い人生のために、懲罰的なやり方ではなく依存症の上手い付き合い方を模索している医師たちもいる。未来の治療法として脳に直接刺激する方法が紹介されているのはギョッとするが、フィッシャーが伝えたいのは、大事なのは当事者を苦しみから解き放ってやることで、社会の都合を押し付けることではないということだろう。

  • 著者自身のアルコール中毒からの回復と依存症における歴史的推移を平行で進めていく手法。

    薬物は悪いものだから単純に禁止すれば良いという態度における欺瞞。その裏にはマイノリティへの侮蔑と排斥が潜んでいる。依存症=患者の怠慢というような責任を押し付けるスティグマへの警鐘。

    依存症を根治するのではなく人間にとって必然の特性という寄り添う理解を前提に、よりよく生活を営むための方法を画作していくことが大切である。

    自分に新しい視座を与えてくれた、良い読書でした。

  • 自らも重度のアルコール依存症に苦しみ、そこから回復した米国の精神科医が綴る、薬物依存を中心とした“依存症の人類史”である。

    豊富な専門知識と臨床経験、当事者性を兼備した、稀有な一冊だ。

    著者が10年を費やして調べたという依存症対策の歴史(≒薬物規制史)が辿られていく。その合間に、自らのアルコール依存症との戦いを振り返る記述が挿入される。依存症の人類史であると同時に、切実な個人史でもあるのだ。

    強烈なエピソードの連打で、単純に読み物としても面白い。

  • ページ数がサクッと読める量じゃないので、レポート作成以外でじっくり読む

  • 現象をよりよく理解するためには科学が役立つが、しばしば脳を超えたあらゆるものが万事を決定するということを理解する謙虚さが必要なことも肝に銘じなければならない。
    これに尽きる。

    良書でした。

  • 東2法経図・6F開架:493.74A/F28i//K

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