静かな基隆港 埠頭労働者たちの昼と夜

  • みすず書房 (2024年11月20日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (208ページ) / ISBN・EAN: 9784622097297

作品紹介・あらすじ

心理カウンセラーの著者は、どれほど面談を重ねても年々患者が増えつづける状況に戸惑いを覚えていた。患者個人だけでなく、人々に葛藤を引き起こす社会の構造的問題に目を向ける必要があるのではないか。仕事を辞め、大学で新たに人類学を学びはじめた著者は、台湾北部の港湾都市・基隆(キールン)でフィールドワークを始める。そこは、2000年代を通じて、壮中年男性の自殺率が全国で最も高い場所だった。
この街は天然の良港といわれる基隆港を中心に発展してきた。そこでは苦力(クーリー)と呼ばれる大勢の男性肉体労働者が荷役を担い、台湾と外の世界とを結びつけていた。1972年、国際輸送のコンテナ化の趨勢に乗って基隆港がコンテナ埠頭となると、84年には世界第7位の規模を誇るまでに繁栄し、港湾労働者もまた隆盛を極めた。一方で、港を出入りする船に合わせた不規則な労働形態は、男たちを埠頭の外の世界と隔絶し、家族や地域社会から切り離していった。また、コンテナ化に伴い荷役が機械化されたことで、かつてのような大量の人手は必要でなくなった。港湾労働それ自体の変質は、いずれ彼らが切り捨てられることを意味していた。
2009年、すでに「死港」となった基隆港を中心にさまざまな場所を行き来するなかで、著者は、港湾労働者やその家族、埠頭周辺の人々の人生が、いかにこの国際港湾の盛衰に左右されてきたかを知ることとなる。
歴史から零れ落ちた人間の生を丹念な観察によって再構成し、台湾最大の文学賞・金鼎獎を得た、読む者の心を揺さぶる「悲哀のエスノグラフィー」。

感想・レビュー・書評

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  • 【本学OPACへのリンク☟】
    https://opac123.tsuda.ac.jp/opac/volume/729857

  • 選書番号:552

  • (後で書きます。参考文献リストあり)

  • 台湾の基隆港(キールン)の自殺率が高止まりしている原因を探るため、心理カウンセラーである著者が苦力として働いていた男達から聞き取りをしたエスノグラフィー。基隆のことは知らなくても、私達のように資本主義社会で生きている者の人生をコンパクトにモデル化したような一冊なので読む価値があると思う。
    基隆は、グローバル市場に接続されて一時は栄華を極めた。いくらでも仕事はあり、稼げた。男達は呼ばれればすぐに出かけられるよう現場近くの待合室におり、仲間たちと茶屋(キャバクラやスナック)に出かけて誰が奢るかで喧嘩になったりした。そこではうまく立ち回り、甲斐性があることが男らしいこととされ、「ガウ」(できるやつ)であることを重視する価値観が根付いていた。
    しかし、グローバル市場はより安い労働力を見つけて基隆を切断し、台湾政府も男達を守ることなく民間委託し、労働者はバラバラに切り離され、仕事にありつけなくなった男は経済的社会的にも底辺として扱われ、家族からもお荷物として扱われ、何より原因を自分自身の能力のせい、「ガウ」でないことのせいと考えてしまうため、救いがない。
    もともとそこで働いていた男達が観光地化によって排除されること、仕事のために家を空けていたら(確かに調子に乗っていた時期があったにせよ)家に居場所がなくなって定年退職後のお父さんみたいになっていること、外国資本が無責任にお金を投入し、稼げなくなるといなくなること、その渦中にいた男達の人生がめちゃくちゃになること、昔は良かったと笑みがもれてしまうおじさん達のこと、全く他人事とは思えない。明日は我が身である。

  • 台湾の基隆港はかつて貿易港として栄えたが、荷役がコンテナとクレーンに変わり、さらには近くの港に貨物の取り扱いを奪われ、現在は観光にシフトした。
    かつての荷役花盛りだった時代の栄華に取り残された人がいる。宵越しの金は持たないという江戸っ子みたいに稼いだ金をじゃんじゃん使っていた、それでも稼ごうと思えばいくらでも稼げた時代…

    本書はかつての繁栄と現在のギャップに悩む人に着目しているわけだが、時代の変遷は当たり前だし、急に変わったわけではない、徐々に移行していった。それに無関心だった人がいつの間にか、という感覚で沈んだ気分になっている。というようなことが感じられる本。

    読了40分

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