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本 ・本 (680ページ) / ISBN・EAN: 9784622097402
作品紹介・あらすじ
〈何が人の心をうつのだろう。その建築を築き上げている柱や梁の寸法釣合い、屋根の大きさや傾斜、そうした実体によって創り出された内外の空間、そうしたものの美しさが人の心をゆり動かす。そうした感動のみが人の心の支えとなる。
いつの頃からか、われわれはこうした建築の本質的な美や力を見失って、表面的な美しさ豪華さにのみ心を奪われるようになってしまった。いわば官能的なこころよさは究極人間の心を打つ永遠の力をもち得ない。飽きがくる。すたりが来る。それが現代文明の本質であるというのかもしれない。もしそうだとすれば、現代建築に人間精神の安住の地を求める事は、も早や不可能となるだろう。そして都市は永遠に精神の砂漠になってしまうだろう〉
(前川國男「設計者のことば」1963)
敗戦直後の木造プレハブ住宅プレモスにはじまり、新宿の紀伊國屋書店、慶應義塾大学病院、国立国会図書館、東京文化会館、東京海上火災ビル、弘前での建物群はじめ日本各地の美術館・市民会館など数々の建築の設計を手がけてきた前川國男(1905-1986)。高度経済成長、東京オリンピック、大阪万博、ポストモダンの時代の渦中にあって、ル・コルビュジエの精神を継ぎ、根源に立ち戻って「人間にとって建築とは何か」を問いつづけた前川は、派手な建築世界から距離をおき、その姿勢や思想は晩年の建築群に刻まれていく。
「私は、今日ある意味で一番えらい建築家というのは、何も建てない建築家だと、そういう逆説の成り立つそういう時代じゃないかと時々思います」とまで語った前川にとって、建築とは何であったのか。前川自身のことばや関係者の発言、当時の資料を駆使して、その人と作品と社会と時代を鮮やかに描き切った渾身の力作である。
『建築の前夜 前川國男論』(2016)を継ぐ、前川國男の仕事の戦後編。
感想・レビュー・書評
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1. 復興の方針と住宅問題
本書では、日本の敗戦後の復興に関する方針が議論されており、とりわけ住宅問題が重要なテーマとして扱われています。復興院は、経済民主化の観点から、住宅建設における方針を定める必要性を認識し、早急に住宅不足の解決に向けた施策を講じることを目的としています。
1.1 住宅建設の方針
- 住宅供給の必要性: 戦後、日本には約420万戸の住宅が不足していた。この状況を解決するために、復興院は緊急措置令を公布し、戦災者や引揚者に対して住宅を提供することを計画しました。
- 都市における住宅供給: 大都市において国営または公営の住宅を多く建設する方針が示され、最低面積や居住条件についても基準が設けられました。
2. 戦後の住宅設計と政策
戦後の住宅政策は、従来の日本の建築様式からの脱却を試みるものであり、特にプレモスと呼ばれる新しい住宅設計が注目されました。
2.1 プレモスとその影響
- プレモスの導入: 戦後の住宅問題を解決するための新しい構法としてプレモスが提唱され、木造組立住宅の設計が進められました。しかし、実際には多くの困難があり、理想的な住宅供給には至りませんでした。
- 住宅設計の変化: 新しい住宅設計は、居住者の生活様式に応じた柔軟性を持つことが求められ、従来の固定的な設計からの転換が図られました。
3. 建築家とその役割
本書では、建築家の役割と社会に対する責任についても強調されています。
3.1 建築家の社会的責任
- 精神の自由と社会環境: 建築家は社会環境に対して責任を負い、精神の自由を保ちながら、時流や権力に屈しない建築を目指すべきであるとされています。
- 個性と非個性の両極端: 現代の建築家は「個性的」という美名の下に、非個性の建築を容認する傾向があることが批判されています。
4. 戦後建築の進展と課題
戦後日本の建築界は目覚ましい進展を遂げましたが、依然として解決すべき課題が残っています。
4.1 技術の進歩とその影響
- 建築技術の進歩: 戦後の建築技術は急速に発展し、建築人口も増加しました。しかし、その進歩は建築が優しさを失う原因ともなっていると指摘されています。
- 持続可能性と批判的実践: 近代建築の発展には持続可能性が求められ、建築家は過去の建築形態に学びつつ、社会的課題に取り組むことが必要です。
まとめ
本書は、戦後日本における復興政策、特に住宅問題に焦点を当て、建築家の役割と社会に対する責任、技術の進歩とその影響を包括的に分析しています。日本の建築界の未来には、持続可能な社会の実現に向けた新しいアプローチが求められています。
著者プロフィール
松隈洋の作品





