発達心理学再考のための序説

著者 :
  • ミネルヴァ書房
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感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (310ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784623022939

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  •  著者が,季刊『発達』に連載してきた「発達心理学セミナー」のうちの最初の16回分(1986年-1990年)とその雑誌に掲載した論文を組み入れ編集された本です。このシリーズは,4冊の担当本として出版されています。私は4冊目を先に読んだのですが,最初から読みたくなって,1冊目から手に入れて読んでみたというわけです。著者はあとがきで「私にとって発達関係の単著としてこの本が最初のものになります」と書いてあるように,まずは,この本から読むのが,著者の研究の流れを知るうえで大切なようです。
     浜田さんの本は,これで8冊目となりますが,これまで,彼の研究の流れは,今ひとつわかりにくかったのですが,このシリーズを読むことで,発達心理学への研究のこだわりなどが見えてきたような気がします。発達心理学の研究者でありながら,これまでの発達心理学が目指している方向に違和感を感じる著者。読みするメルうちに,その違和感がどこから来るのかが,少しずつ明らかにされてきます。
     本書で,私は「できるとするは違う」という言葉に注目しました。
     私たちは,とかく〈子どもたちができるようになること〉と目指して教育をしています。しかし,考えてみると,その子が〈できる能力〉を得たとしても,その能力を使う=〈する〉かどうかは,また,別の問題です。〈する〉ためには,その場の雰囲気や人との関係性が大切になってくるからです。
     考えてみると,学校現場にいる者にとってば,これは当たり前の事です。とたえば,教室でも,よく「〈できる〉はずの生徒が,手あげて発表してくれない」と嘆く教師がいますが,それは,〈できる〉ことと〈する〉ことの違いから来ているわけです。なぜ,手を挙げて発表しないのかは,まわりの人間関係が大きくものをいうことが多いというのも,ほとんどの人が経験していることでしょう。
     「できること=能力」として,これのみに重きを置いてきたのが,これまでの教育ではなかったでしょうか。まさに,点数をあげるという能力主義が跋扈してきたのが,日本の教育界だったのです。残念ながら,この状況は,今でもあまり変わっていません。
     今後,アクティブ・ラーニングとかで,子どもたちが,がんばって〈意見表明できる〉ようになることをめざすようですが,そこでもやっぱり〈教室の中でできる〉ようになっても,それを、〈日常生活でする〉かどうかは,全く分からないのです。
     著者の一言,紹介します。
    「能力発達に絶大の期待を寄せる人々が世間にひしめくばかりで,その当の能力を用いて生活世界をどうふくらませ,豊にしていくのかを見ようとしない奇妙な現実がはびこっているのではないでしょうか。」(本書236pより)

著者プロフィール

1947年生まれ。発達心理学・法心理学者。現在、兵庫県・川西市子ども人権オンブズパーソン。発達心理学の批判的構築をめざす一方、冤罪事件での自白や目撃の心理に関心をよせ、それらの供述鑑定にも関わる。「自白の心理学」「子ども学序説」(岩波書店)「「私」とは何か」(講談社)ほか著書多数。

「2012年 『子どもが巣立つということ この時代の難しさのなかで』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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