日本陸軍と日中戦争への道 軍事統制システムをめぐる攻防 (MINERVA日本史ライブラリー)

  • ミネルヴァ書房 (2010年1月20日発売)
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本 ・本 (312ページ) / ISBN・EAN: 9784623055241

感想・レビュー・書評

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  •  1970年代までの研究では、軍部の暴走の原因を、その一枚岩な好戦性や、統帥権独立などの制度面そのものに求める解釈が有力だったという。しかし著者は近年の研究の流れの中で異なる視点を示す。軍政と軍令、すなわち陸軍省と参謀本部を明確に分けるのが特徴だ。著者が評伝も書いた軍政系の永田鉄山贔屓は本書からも感じられる。
     まず1920年代の政党政治発展を前提に、当時は田中・宇垣陸相が軍政優位の統制を行っていたという。しかし軍政経験の乏しい南陸相は満州事変を追認してしまう。荒木陸相はそもそも軍政優位に否定的な上、枢要な人事を自派で固める。林陸相は永田軍務局長と共に軍政優位の回復を図るも皇道派に攻撃され、永田は死亡する。2.26事件後は制度改革が行われるも統制立て直しは困難だった、との流れだ。
     著者の専門から、陸軍内の人事や権力構造に焦点を当てている。本書が述べるとおり、軍政経験など個々人の特性や皇道派のために軍政が凋落したのか。それとも満州事変以降の国内外情勢のため不可避だったのか、本書の範囲を超えるが、後者の論点も知りたくなった。1930年代に宇垣が陸相だったら、又は永田があの時点で死亡しなければ、展開は変わっていたのだろうか。
     なお、軍政経験豊富な今村作戦課長は満州事変後に関東軍を抑えようとしたとされるが、本書からはそれは感じられない。それどころか、朝鮮軍の独断越境を追認する帷幄上奏の決裁を進める過程で永田軍事課長に反対されている。一方、「越境将軍」林はそれ故に天皇の不信を買っていたが、陸相時は軍内の統制の回復を図っている。その時就いていたポストが人の行動を決める、ということもあるのだろうか。

  • 本書は、陸軍の統制システムに焦点を当て、日中戦争に至る過程を解明している。1920年代までの陸軍は、人事を通じた軍政優位の統制が機能していたが、1930年代になると、陸相個人の指導力に依存する統制システムに綻びが見られるようになり、陸軍の暴走につながっていったというのが趣旨である。
    日本陸軍の統制システムの実態について、豊富な史料をもとに明らかにしており、日本近代史を考えるうえで貴重な研究書である。
    本書を読んで、組織を統制するシステムをうまく機能させるためには、それを担う人材(特に組織トップのリーダーシップ)が重要であること、また一方で、人に依存しすぎないシステム構築が求められることを教訓として感じた。
    他方、著者は、永田鉄山などによる1930年代の陸軍統制回復の可能性について高く評価しているが、それについては、あまり納得がいかなかった。永田らが陸軍統制回復に向けた動きをしていたのは事実かもしれないが、それが当時の陸軍に大きなインパクトを与え、日中戦争を防ぐことが可能であったようには思えなかった。また、本書では「統制」という概念がマジックワードのようになっていて、「統制」が機能しているというのはどういう状態で、それがどのようにして日中戦争を防ぐことにつながる可能性があったのかがあまりよくわからなかった。

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著者プロフィール

1978年 兵庫県に生まれる
2008年 京都大学大学院法学研究科博士課程修了
現 在 同志社大学法学部准教授、博士(法学)
著 書 『日本陸軍と日中戦争への道』(ミネルヴァ書房、2010年)
    『永田鉄山』(ミネルヴァ書房、2011年)他

「2020年 『「国家総動員」の時代 比較の視座から』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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