大正天皇 一躍五大洲を雄飛す (ミネルヴァ日本評伝選)

  • ミネルヴァ書房 (2009年9月10日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (230ページ) / ISBN・EAN: 9784623055616

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  • 大正天皇について、アメリカ人が書いた評伝。
    多くの先行研究(といっても数少ないが)や、海外マスメディアに載った大正天皇についての記事を参考にし、その人物像、あるいは、大正天皇がもたらしたものを論じる。

    昭和天皇が、祖父明治天皇についてよく言及したのに対して、父親大正天皇についてほとんど言及していないのが、驚いた。

    また、大正天皇が在位中に建てられた近代的建物、東京国立博物館の表慶館、赤坂離宮、そして東京駅。

    「明治神宮」のように「大正」の名こそつかないが、今なお残っている現代日本にとって重要な国家施設である。

    また、現在、皇室行事の婚礼、大喪など、重要行事の順序など多くは、大正天皇の時に認定され、皇室の形式になっていったという。

    「明治」と「昭和」の間にすっぽりはさまった「大正」。
    これほどまでに大正の影が薄いと感じるのは、筆者によれば「現代日本に完全に融合されているから」という。
    明治の影が濃いのは。「明治が我々と全然別な世界に存在する」というのも、納得である。

  • 先日読み終わったプリンセスマサコで、大正天皇が体が弱かったと書かれていたことで少し興味を持ち、読んでみることに。
    国会の場で望遠鏡みたいに・・・ということに興味を持ったわけだが、
    そんなことはほとんどかかれていなかった。

    何より大正天皇はそんなに体が弱かったわけではないのではないかという最初からの記述が興味深い。
    明治天皇を際立たせるために大正天皇を体の弱い天皇に後から仕立て上げたのか、そういう疑問。

    なるほど~そういう見方もあるかと思ったのが、
    ・明治天皇は幕末の人間である。
    ・大正天皇が初めて東京でお生まれなり、西洋風(現代風)の教育をお受けになった天皇である。
    ということ。
    諸外国を訪問したり、活動写真や車がお好きだった、最先端の皇太子であり、天皇陛下であった。

    残念ながら(?)大正時代は短かったが、独特の文化もあったようだし、もう少し大正時代の本を読んでみたいと思った。

  • 単純に、面白かった。
    蔑視と軽視のレッテルを貼り付け、一方的に差別する事をしたくないので、差別的ニュアンスを含まないように「日本国外国郷土人」「地域方面」等と称する。

    本作の中で登場する「原敬:大正天皇」「吉川隆久:大正天皇」は既に読んでいたが、後者は特にイデオロギー的な観点から見ているため、著者本人の信仰告白のニュアンスがあると感じていた。しかし、本書は日本国外国郷土人(アメリカ人)の手によっての考察観点であるため、総合的には新鮮であったし、イデオロギー的にも「偏らない」内容だった。
    前出両書を読んで、また本書を読むと現代・近代の日本の形、或いは方向性といったものが理想主義に偏ること無く現実的に実現可能な範囲で見えてくるのではないだろうか。

    作中の言葉を借りると、
    総じて近世の天皇の寿命は50~60代であり「大正帝は短命という神話」は大正帝の崩御にあたって作為的に創られた伝聞でしかなかった。

    明治帝は践祚の歳が10代であり、改元より崩御までの期間が45年であった。
    昭和帝は践祚の歳が20代であり、歴代で最も長い在位記録64年であった。

    明治帝・昭和帝の在位期間ばかり目につきやすい為か、大正帝の在位年数は短いと思われがちだが、歴代を平均すると実はそんなにおかしなものではないことがわかる。

    大正帝は皇太子時代において全国歴訪を行った。
    技術好きは特に知られており、電車やカメラといった品にも関連が深い。
    終戦直後より始められた昭和帝の全国慰安の旅も、日本の花といえば「桜」というのも、ランドセルも、セーラー服も、外国君主との名誉称号(連合王国最高位ガーター勲章)の相互交換も、東京駅赤レンガ造り、近代西洋建築群も、大正帝とその時代を生きた人々のご事跡であった。

    立憲君主制国家である日本国のソフトウェア面は大正時代において確立している。
    本朝において議院内閣制また、地域方面における議員制度は大正帝をはじめとして日本国中の国民の成果であると共に、日本らしさを形作る事であった。

    また、大正帝は近代日本の創業者である父帝・明治天皇への敬意の念が篤く、その明治帝のご事跡の為に、ご自身の時代の事を忘れがちにさせてしまうほど畏敬していた。
    そのご事績は現代を生きる私達が全く意識していないほどに、ごく当たり前の「良い空気」として存在する。

    在位中、第一次大戦による好景気が起こり美術史・文化史において重要な意味を持って現代・近代日本の文化の培養を培う時代でもあった。
    大正帝は母語である日本標準語の他に英語・フランス語・朝鮮語・ロシア語をたしなみ、世界の中の日本を高揚しつつも、また最も近い友好国である朝鮮半島との相互理解に率先して努められた。(昭和帝の洋行の際、サンクとジョ-クを言われたのも、皇室にその様な語学的な素養が受け継がれているのかもしれない。)

    現代・近代日本における理想的な家族像を示し、率先して一夫一妻を含めた、家族像の確立を行った。(法令によって一夫一妻を定めたのは昭和帝の時代)
    貞明皇后(節子様)は子供を4人も儲けた。「国母」たる貞明皇后が大正帝の最晩年においても皇室を護っていけたのは、貞明皇后が伸びやかな農家の育ちであった事も理解せねばならない。明治の頃までは東京自体にも田畑が広がっていた為、血統的には藤原九条家ではあるが、その健康は自然と共にあった為でもあると感じた。かえって、うさぎ小屋と揶揄される首都圏の生きづらさはあまりに自然を阻害し人の距離が近づきすぎている。

    ただ、惜しむらくは在位中の晩年において不景気になってしまったことから、「不景気のイメージだけで」大正帝を語る事が増えてしまった。
    遠眼鏡事件と呼ばれるものは根拠のない伝聞が伝聞を呼び、不景気のイメージだけで収斂されてしまい、その不景気を天人相関説に基づき大正帝に帰そうとするのはおかしな話ではないのかと感じた。

    唯一神として君臨せざるを得なかった明治帝は、人としてのお振舞いを周囲より制限されていたが、相撲が好きであったことやワインをよく頂かれていたこと、人間性溢れるユーモアに満ちた御人柄が神秘化され神聖化された武威の中に秘匿させられてしまった。

    大正帝はご歴代、また今上帝が望まれるように「開かれた皇室」を目指していた。お振舞いが奇抜に見えるのも、唯一神として存在させられる明治帝への尊敬と共に時代に則した「開かれた皇室」の面が必要であると感じられたのかもしれない。

    特に、皇太子時代には当時は品が良くないとされていた蕎麦屋に入ったり、国民にも気軽にタバコを薦めたりするあたりが、良い形で昭和帝にも受け継がれている。昭和21年の詔書にあるように「国民との絆は神秘化された架空の観念ではなく、実際にある繋がり」として書かれている。明治時代以前も数メートルの塀と幾つかの門だけしかない京都御所の存在は実際に国民との相互の信頼によって成り立つ繋がりである事を示していた。

    皇太子時代の全国歴訪での行為は、当時においても突拍子のないものであったかもしれない。
    しかし、人種差別(相手を価値観の違いにかかわらず人として遇しないこと・NOT肌の色)を実際に行なっていないのは人として素直に尊敬に値する。

    正(まさ)に大(すぐれた)天皇であると感じ入る。

    私たちの、天皇陛下に対する想いと言うのは、普遍的な敬愛であり気軽な尊敬であった。それは皇室に普段全く無関心な国民においても同様の気持ちであろうと感じる。(慶應ボーイが銀ブラ中に今上帝当時の皇太子殿下に、ごきげんよう。といった気取らない不敬にならない範囲で。)

    本書のカラーページに掲載されている大正天皇ご真筆「学道則愛人(道を学べば すなわち 人を愛す)」という人としての道を考えられたところからも、その慈愛の深さを拝せられる。

  • [ 内容 ]
    アイビー・リーグで語られる嘉仁の時代、二十世紀日本の「原点」。
    治世の期間が比較的短く、健康状態が芳しくなかったことから悲運の生涯と語られることの多い大正天皇。
    20世紀初頭という「近代の起点」に生きた歴史的意味、さらに日本の近代化へ及ぼした影響はいかなるものか、世界史的文脈から光を当てる。

    [ 目次 ]
    第1章 病弱な天皇か
    第2章 日本の西洋化とともに
    第3章 行啓に見る近代日本
    第4章 二〇世紀近代国家の天皇
    第5章 「平和日本」の象徴
    第6章 忘れ去られる大正天皇
    終章 歴史のなかの大正天皇

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