本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
本 ・本 (356ページ) / ISBN・EAN: 9784623063376
感想・レビュー・書評
-
女のまして人妻のおほかたの寂しさを思ふ世をすこし知りて
原 阿佐緒
ミネルヴァ書房の日本評伝シリーズに、「原阿佐緒」の巻が加わった。美貌の女性歌人として知られ、物理学者石原純との恋愛も話題となったが、その生涯は、安住の地を探す旅のようでもあった。
1888年(明治21年)、宮城県の旧家に誕生。10代で父親を亡くし、家督相続人という重責を引き受けることとなる。
阿佐緒は2度結婚したが、どちらも幸福とは言いがたい生活だった。2児には恵まれたものの、30歳に満たない若さで、これ以上出産はできない体となる。その悲しみのころに出会った純は、亡き父の代わりのような存在だったのだろう。妻子ある純だったが、二人はともに暮らし始めた。
ふたりのみの餉【け】は乏【とも】しけど君自ら培【つちか】ひし野菜今日も添へたり
純の作った野菜が食卓にのぼる、あたたかな日常生活。子どものない暮らしでも、穏やかに時間は流れていった。7年ほどで破局を迎えたが、純との日々は、父性愛で満たされた安らぎの日々であったのだろう。
その後バーで働き始めた時の歌が掲出歌。世間の風を知り、人妻の「おほかたの寂しさ」を味わうようになったと語る。
評伝の著者秋山佐和子は、女性として逡巡する阿佐緒とともに、歌人としての成長ぶりも活写しており、読み応えがある。
晩年は、次男で俳優の原保美に見守られ、1969年に没。享年81。白壁で風格ある洋館の生家は、現在、原阿佐緒記念館になっている。
(2012年8月26日掲載)詳細をみるコメント0件をすべて表示
著者プロフィール
秋山佐和子の作品





