原阿佐緒 うつし世に女と生れて (ミネルヴァ日本評伝選)

  • ミネルヴァ書房 (2012年4月10日発売)
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本 ・本 (356ページ) / ISBN・EAN: 9784623063376

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  • 女のまして人妻のおほかたの寂しさを思ふ世をすこし知りて 
      原 阿佐緒

     ミネルヴァ書房の日本評伝シリーズに、「原阿佐緒」の巻が加わった。美貌の女性歌人として知られ、物理学者石原純との恋愛も話題となったが、その生涯は、安住の地を探す旅のようでもあった。
     1888年(明治21年)、宮城県の旧家に誕生。10代で父親を亡くし、家督相続人という重責を引き受けることとなる。
     阿佐緒は2度結婚したが、どちらも幸福とは言いがたい生活だった。2児には恵まれたものの、30歳に満たない若さで、これ以上出産はできない体となる。その悲しみのころに出会った純は、亡き父の代わりのような存在だったのだろう。妻子ある純だったが、二人はともに暮らし始めた。

      ふたりのみの餉【け】は乏【とも】しけど君自ら培【つちか】ひし野菜今日も添へたり

     純の作った野菜が食卓にのぼる、あたたかな日常生活。子どものない暮らしでも、穏やかに時間は流れていった。7年ほどで破局を迎えたが、純との日々は、父性愛で満たされた安らぎの日々であったのだろう。
     その後バーで働き始めた時の歌が掲出歌。世間の風を知り、人妻の「おほかたの寂しさ」を味わうようになったと語る。
     評伝の著者秋山佐和子は、女性として逡巡する阿佐緒とともに、歌人としての成長ぶりも活写しており、読み応えがある。
     晩年は、次男で俳優の原保美に見守られ、1969年に没。享年81。白壁で風格ある洋館の生家は、現在、原阿佐緒記念館になっている。

    (2012年8月26日掲載)

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著者プロフィール

1947年山梨県生まれ。國學院大學文学部卒。1974年、岡野弘彦主宰「人」短歌会入会。2003年「玉ゆら」創刊。2002年『歌ひつくさばゆるされむかも 歌人三ヶ島葭子の生涯』で日本歌人クラブ評論賞。2012年『原阿佐緒 うつし世に女と生れて』刊行。同年、平塚らいてう賞。歌集に『星辰』他。

「2017年 『長夜の眠り 釈迢空の一首鑑賞』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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