戦争と社会的不平等 アジア・太平洋戦争の計量歴史社会学 (59) (MINERVA 社会学叢書)
- ミネルヴァ書房 (2020年4月13日発売)


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本 ・本 (352ページ) / ISBN・EAN: 9784623088638
作品紹介・あらすじ
戦争は万人の身に等しくふりかかる事態なのだろうか。本書は「SSM調査」および「職業移動と経歴調査」という戦後に行われた社会調査データより戦中から戦後にかけての人々の経歴を切れ目なくとりだすことで、アジア・太平洋戦争によって引き起こされた人々の日常生活や職業生活の変化とその社会的な不平等を計量分析によって明らかにする。
感想・レビュー・書評
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戦争の惨禍について体験者の証言の意義は否定のしようがない。しかしその一方で「語れない人」「語らない人」も存在する以上、語られたことが戦争のすべてを表すわけでもない。
本書は、社会調査データを分析することで語られない人々を含めた全日本人において、アジア・太平洋戦争でどのような社会的不平等があったのかを明らかにしようとするものである。
手法としては、1955年から行われている「社会階層と社会移動全国調査(SSM調査)」などを分析する。
SSM調査とは、調査時点よりも前の学歴、職歴、居住歴などを回顧という形で尋ねた大規模な社会調査である。
直接的に兵歴や戦争被害を問われた調査ではないが、徴兵や復員・引揚などの影響が統計データに反映されている(はず)ということだ。
・世代、学歴・職歴によって徴兵される率が違うのか。
・戦時中に死亡リスクが高かったのはどんな人々か。
・戦争によって階層帰属意識はどのように変化したか。
・戦争前後における地域移動に階層差はあるのか。
・武装解除後の職業軍人が就いた職業は上級将官と下級士官で違いがあるのか。
といったことが明らかにされる。
もちろん、戦後に行われた社会調査を用いているので、戦死した人は回答できない。分析において考慮しているけど。
そもそも日本軍が終戦時に書類を焼きまくったのが悪い。
たとえば徴兵についての資料をしっかり残していれば本書で行われたような回り道をせずに済むのだ。というか、そもそも日本陸軍は徴兵について統計資料をまとめていなかったという話もある。いかにもありそうな話だ。統計資料を分析して次の策を考えるような科学的な組織であれば、もうちょっと優れた作戦指導もできただろう(敗戦を受け入れることも含め)。
統計資料を残すのは歴史に対する責任でもあるわけで、統計を改竄する奴・させる奴は許しがたい。
というわけで社会的な意義のある本なのだが、残念なことに他人に勧めにくい。
導き出された結論がおおむね「まあそうだよね」というものになり、意外性はさほどないから。
それを誰かの証言ではなくマクロのデータから導き出していることに価値があるということは強調してもし足りないのだけど。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
東2法経図・6F開架:210.75A/W46s//K