高校生のための人物に学ぶ 日本の思想史 (シリーズ・16歳からの教養講座 1)

  • ミネルヴァ書房 (2021年1月13日発売)
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本 ・本 (232ページ) / ISBN・EAN: 9784623090341

作品紹介・あらすじ

日本を代表する碩学が日本の思想史を知る上で欠かせない夏目漱石、森鷗外、宮沢賢治、三浦梅園、西田幾多郎、太宰治を語る。その人物の思想史の中での位置とは何か。そして西欧思想との葛藤のなかで、いかに超克しようとしたのか。何より現代を生きるわれわれにとって、その思想はいかなる意味を持つのかを探る。未来を担う高校生に届ける教養講座。

感想・レビュー・書評

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  • たまーに佐伯啓思と検索かけてしまう私が、ナイスなタイミングで遭遇した一冊。

    日本の思想史とあるが、三浦梅園と西田幾多郎の他は、夏目漱石、森鷗外、宮沢賢治、太宰治とザ•文豪がラインナップされていて、ある意味、神。

    佐伯啓思の語る、夏目漱石の文明開化論と西田幾多郎はめちゃくちゃ分かりやすい。
    西田幾多郎の、ことば以前に純粋経験があることの意味。自分が認識する前の段階について、考える。

    森鷗外の『舞姫』は恋愛じゃない説も面白い。
    家族のために自己犠牲的な愛を捧げることの延長であって、西洋的な男女の身を焦がす恋愛への理解には至っていないと言われると、『舞姫』の唐突感が分かるように思う。
    けれど、森鷗外にとってエリスを描くこともまた同様だったんだろうか。ここは引き続き課題。

    宮沢賢治にとっての死の向き合い方から、コロナ禍に思いを馳せる。
    唐突な別れ、大切な人との別れを生きている人がどう受け入れていくのか。
    何度も何度も反芻しながら言葉を当てはめていく作業がきっと必要だったんだろうと思う。

  • とっても面白かった。とくに宮沢賢治と西田幾多郎のセクションがとてもためになった。

    p99
    「みんながめいめい自分の神様が「本当の神様」と言うだろう。けれどもお互い他の神様を信じる人たちのしたことでも涙がこぼれるだろう。」つまり信仰が違っていても、他の信仰を持っている人が彼の神様のためにした立派なことと言うのは、違う神様のためであってもやっぱりそれはグッとくる、深く感動するものがあるだろう、だからこそそういう意味で、信仰の対立があってもお互いに理解し合えることだ。

    ヨブについてp105
    神の全能信じると言う事は、我々に無関係なところで神が何でもできると言うことでは無いのだ。神は、我々自身に神の完全性をかけているのであり、我々の自由を待って初めてそれが完成し得るものなのである。もちろんその保証は無い。だからこそ、それは必然の領域ではなく、自由の領域に属している。神の完全性、全能性は我々の強みよってのみ完成する。

    信仰の優劣を論じることp107
    キリスト教と仏教と何とか教を並べて、どれが最も良いかと言うような立場を取ると言うことが、そもそも全く何もわかってないと言うことだ。仏教と言うのは仏との出会いと言うものが因縁になってたまたま仏を信じる、仏教徒になると言う道を歩んでいるのであって、自分としては、そこでたまたま前に開けた道を深め踏みしめていくだけである。
    その出会いを深めていくことによってキリスト教徒になったり、仏教徒になるということがあるのであって、その出会いと関係なしに、知識として、どちらの教義の方が合理的であるとか、どちらの方が優れているかとか、比較すべきものじゃない。そもそもそれを比較検討できるような確固たる視座に自分が立てるのか。そのような立場が揺らいだところで、仏や神と出会うのではないか。
    私が仏を選ぶのではなく、仏が私を選ぶことによって、そして手を差し伸べてもらうことによって、私が仏教徒になったりキリスト教徒になったりするのではないか。そういう仏とか神との出会いと言うことを忘れて、教義としてどっちが優れているか判断するような賢しらな態度そのものが、そもそも信仰と言う態度から程遠いのである。

    信仰は、自分の立場を保証したり正当化して安心するためにあるのではない。むしろ、単に仏との出会いによって束の間灯された己の仏性の明かりをありがたく受け止めながら、それによって同時に明らかになる自己の罪深さをかみしめることが、賢治における生きた信仰の姿であった。


    p122
    三枝博音(さえぐさひろと)「日本の思想文化」
    三浦梅園 「論理思想の誕生」

    p129 三浦梅園 「誠といふの説」
    山の中で独り咲いている百合の花があるとする。人が見ていようが、いまいが、絶えず良い香りを出し、美しい姿を見せてくれる。ところが人間には間断がある。人が来るなと思って慌てて掃除をする。そのにわか掃除はすぐわかる。普段から人が来ようが古米が、きれいにしておくことが大事だと梅園を描いているそれが実は「中庸」の中に書かれている「誠」と言う概念である。その「誠」の特徴は間断がないと言うことである。絶えず継続している、そういう営みを「中庸」では「誠」と言う概念でとらえている。



    西田幾多郎
    純粋経験
    言葉の前の段階の経験

    西洋文化は、はじめに言葉がある、と言う事から出発する。神がすべての存在に名前をつけたように、ものには名前がある、ものには名前をつけることができるというのは西洋思想の根本である。この世のもの全て言葉を付しそうすることによって世界を理解可能だとする。存在するとは名付けられることであって、逆にまた名称が与えられるものが存在とみなされる。こういうことが西洋文化の根底にある。言葉の世界、論理の世界、このロゴス中心主義が西洋哲学の世界であり、だからこそ西洋では科学が展開したのである。

    p202太宰治
    パスカルは、信仰のために証明を求める人がいるが、それはお門違いだと言う。十分な理由で信じたり、信じなかったりする事は、どちらもできない。だから十分な根拠は無い。しかし十分な根拠がないことこそが我々の根拠なのだ、と言っている。つまり、我々が十分な根拠があるからこれを信じなさいと言うのではない。不十分な根拠しかないこと自体を根拠にわれわれは人を説得するとパスカルは言っている。(パンセ)
    信仰によって理解可能になるものが見えてこない、と言うことではないか?実際に補助線を引いてみなくては、定理の真理が見えてこないのと同様に、理由によって信じるのではなく、信じることによって理由が理解されると言うことである。
    深紅の証明とはそういうことであって、自由と両立するのだ。もし完全に信仰の正しさがすべて証明されるものであれば、信仰する自由がないことになる。信仰ヘと強制されるしかない。我々は信仰へと強制されるのではない。自由意志によって飛躍する。飛躍することによって信仰を固める。根拠があって信じるのではなく、信じることによって根拠を理解していく。

  • 私は、これを読んでから佐伯氏の近著を数冊購入した。 
     『高校生のための・・・』と高校生向けに書いた体裁になっているが、私が高校生だった頃には理解できなかっただろう哲学、思想といった抽象的概念の世界のを紐解いてくれる本だ。
     電車の中で読んでタイトルを見られるのが恥ずかったので、持ち歩きには違う本を手に持ち、家で枕元に置いて夜読んだ。

     なかなか切り口が鋭く「日本の思想を理解してもらうために、西洋思想と対比させながら、日本の歴史上の人物の文献やら講演やらを利用する。しかも、読者が理解しにくそうな抽象度の高い所、経験が浅そうなところは幾つかの比喩を重ねてくれている。」
    でも、全編をとおすとやはり佐伯さんの“日本”という国を憂いている主張が背景に横たわっているのはしっかりつたわってくる。
     
     

  • 夏目漱石や森鷗外といった主に明治時代に活躍した文豪や哲学者の人生・著書を紹介して当時の彼らがどんな思想を持っていたかが書かれた本。

    面白かった。

    急激に進む西洋化に対して懐疑的な意見を持っている方たちが多く紹介されていた。
    ・物事を主体と客体に完全に分けること
    ・’憧れ’だけで、これまでの歴史を投げ捨てて西洋の真似をしていること
    ・家族主義で生きてきたのに、個人主義になろうとしていること
    等など、、、

    宮沢賢治の章で「誰かの幸せは誰かの悲しみになる」と書いてあって、
    日本の文明開化も国力とか経済にとっての幸せを取った結果、個人にとっての悲しみが生まれたのではないかと思った。

    その選択は、目の前に「文明開化」という信仰があったから選ばれただけで、そこに正しい・間違ってるは言えないんだろうなとも思った。
    ただ、他の選択肢があったことも事実だろうなと。

    なるべく全体にとって、長期的に見て善い選択をするために、教養を学んでいく必要があるんだろうなと思った。

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著者プロフィール

経済学者、京都大学大学院教授

「2011年 『大澤真幸THINKING「O」第9号』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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