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本 ・本 (396ページ) / ISBN・EAN: 9784623091300
作品紹介・あらすじ
高校歴史教科書の知識をベースに、西洋史・東洋史と日本史を結びつけ、複雑に入り組む20世紀の歴史を同時的に描く。人種主義やジェノサイドなど、人類共通の問題群を主軸に据え、各国の視点からではなく、世界史上の出来事のトランスナショナルな関係性を重視するグローバル・ヒストリーの視点から、世界現代史の再構築を試みる。大人が学び直すための世界現代史入門として最適。
感想・レビュー・書評
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近現代史のみスピンアウトした新たな教科書として使えそうだ、と興奮して読み始めた。前半は著者の主張も良い意味で激しく、ただの事実の羅列に深みも感じられ、視点もニュートラルで、自虐史観に偏らず、しかし、日本のしてきた事について時代背景や他国の実態と照らし合わせて述べる点でも公平さが見える。残念なのは、後半になるにつれ淡々と時系列を整理するだけの、所謂無機質な教科書風味になっていく事と、編集により説明を省略した史実により、意図してかどうかは別として、結果的に偏りが生じて見えること。
近現代は、人種主義の歴史。自国を潤すために植民地を獲得し、色の違う人種を公然と差別してきた。その差別に抗おうと得た武力を、同じ人種のヒエラルキーに用いる。戦争が前提の国家関係ゆえ、自衛のためには他国の犠牲、弱者の犠牲は当然のものとし、それがエスカレートした挙句、軍隊の士気を削ぐためという理由で大量の民間人が虐殺される戦争の論法に至る。兵器も加速度的に進化して水爆の開発へ。二度の世界大戦を経て、ようやく人類は表向きは互いを武力で支配し合わない意識を得るが、未熟な状態は続く。
ー アメリカのアジア系移民に対する態度は、ヨーロッパ系の移民とは異なっていた。白人たちは黒人に対するのと同様に、アジア系移民を差別し、微しいバッシングを加えた。アジア系移民は、アメリカの白人にとって黒人以上に言語・文化・習慣の異なる異分子であり、人種主義の対象になったのである。こうして一八八二年、アメリカで中国人移民が禁止された。建国以来の自由移民の原則はやぶられたのである。アメリカと同様のことが、世界中で起こっていた。移民がグローバル化したことによって、様々な民族が移住し、現地コミュニティの生活空間に侵食する異分子として嫌悪の対象になっていく。労働移民はそうじて貧しく、使役される存在として人種差別され、それが「文明化の使命」によって増幅された。
ー 黄色人種を「わざわい」だとみなす黄福論は、アジアに対する人種主義にもとづいている。「文明化の使命」と移民によってアジア人に対する差別や嫌悪感が増幅された状況から、二〇世紀ははじまる。
ー 「アジア人の勝利」という単純化されたイメージは、世界中に衝撃をもたらした。欧米列強にとっては、黄色人種が白人の脅威になるという黄禍論が現実になったようであった。アメリカでは、移民排斥運動が激しくなった。すでに中国人移民に対する排斥運動がつづいていたが、同じ憎悪が日本人移民にも向けられた。「日本人が白人に勝った」という日露戦争の結果が持つイメージが、アメリカ白人の反感を呼んだのである。黄禍論がもりあがり、サンフランシスコで日本人学童に対する排斥運動が起こった。その後も日本人移民排斥運動はつづき、日米両国の関係は悪化していった。欧米との関係を悪化させたくない日本政府は、一九〇八年にアメリカと紳士協定を結び、労働目的の出国を自主規制することになった。人種主義国家アメリカは、日本人や中国人といったアジア系移民に対しても、黒人と同様の人種差別立法を適用した。日露戦争後にアメリカでもりあがった黄禍論は、黒人に対して当たり前のように行われていた人種主義の矛先が、アジア系移民に向けられたものだったのである。
ー 二〇世紀に入り、西洋列強によって支配され、人種主義の偏見にさらされたアジアの諸民族は、日露戦争によって民族運動を活発化させていった。イブラヒムや安重根の思想にみられるように、彼らは「東洋の連帯」を求めていた。しかし現実には、彼らが期待した日本は列強の側にあり、その同盟網によって民族運動を抑圧する立場にあったのである。
幽霊や妖怪、鬼や魔女。神や悪魔。寓話が寓話としてだけではなく、信仰として残る時代。つまり、科学が世の中を解明しきらぬ余白に対し、部族的な信仰のつけいる隙があり、共通言語は原理を追究する科学のみである。未熟さが文明発展の階差や一文明における教育の未達に残るから、この未熟な余白に対する恐怖が消せず、自衛を要し、武装する。世界は原理、因果、縁起が連鎖し規定されたものだと理解すれば解脱できそうだが、向かう先は変わらない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
各国史は控えめに、グローバルな連動の視点を重視するのが本書の特徴。前提として、20世紀には電信網や鉄道網、メディアがグローバル化した点が前半部に出てくる。
連動の具体例としては、対植民地など非白人の大量殺戮から後の総力戦への連続。スペイン・インフルエンザの流行。ソヴィエト・ロシアとウィルソンが提唱した民族自決からの世界的な民族運動。共産主義ネットワーク。ベトナム戦争が促した日韓国交正常化。世界的な60年代の市民運動や90年代の民主化。
基本的には教科書的な通史だが、抑圧された人種、民族や一般市民の記述は情緒的となっているように感じられる。
通史だからとは思うが、たとえば満洲事変の主語を関東軍としたり、リットン調査団のように日本の行動が国際的にも一定程度は認められる余地が当時あったことに触れていなかったりと、細部に気になる点がなくもなかった。 -
仕事柄、どうしても国際的な経済の動きを追いかけている。ここにきて、特にアメリカと中国との関係、中東の動向など、日増しにそれらの摩擦が激しくなるところで、いずれの登場人物もなかなか譲り合わなくなってきた。むしろ衝突がわかりきっているところを強行突破を続けている。妥協するということは評価されなくなってきた。
そうしたところで本書の出番、まさにこの時勢にピッタリはまるものだろう。背景を知るというのは当然ながら将来に対する展望であり、そこが整理されていないと自分自身の判断の軸が定まらない。ここからどのように展開するのか。個人的な金融投資においても重要になることは疑いようがなく、溢れる情報の中を突き進んでいくときによくよく考えなければならない。 -
来年から高校で「歴史総合」が始まりますが、近現代史を中心に、グローバルな内容とした必須科目となる由です。この本は元高校教師が書き上げたものですが、とっても良いです!
友人の教師は、指導要領で「近現代史は歴史認識が定まっていないので時間切れアウトにして大人になってからそれぞれで勉強」するよう言われていたと語っていました。よって、一般の日本人は近現代史は疎く、こちらを中心に教育をする近隣諸国とは、歴史感を巡って常にズレが生じるとのことでしたが、これには見事に答えています。
1900年代から現代まで、一つの国・地域ではなく、まさに「グローバル」に展開しています。その時々の出来事がどう世界各国に影響を及ぼしたのか、底流を紐解きながら記述しており、とてもわかりやすいです。教科書的な記述で網羅的ではありますが、個別に理解していた事象に繋がりを持て、まさに副題にある「大人のための現代史入門」です!
日本が米国と戦争したことを知らない高校生が増えたようですが、「アジア太平洋戦争」(「歴史総合」では、「太平洋戦争」でも「大東亜戦争」でもなく、この用語を使う)など、しっかり勉強してほしいと思います(大人も頑張ります!)。 -
* 読了日20230120
* 入手日20211108
* Amazonで購入した。
* 現代史をグローバル・ヒストリーの観点から学ぶことができた。
* 以下、Amazonの商品ページより。
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高校歴史教科書から読み解く「歴史総合」に対応する新しい現代史
グローバルに連鎖する20世紀の世界と日本
戦争とジェノサイド、そして核の恐怖……。
高校歴史教科書の知識をベースに、西洋史・東洋史と日本史を結びつけ、複雑に入り組む20世紀の歴史を同時的に描く。人種主義やジェノサイドなど、人類共通の問題群を主軸に据え、各国の視点からではなく、世界史上の出来事のトランスナショナルな関係性を重視するグローバル・ヒストリーの視点から、世界現代史の再構築を試みる。大人が学び直すための世界現代史入門として最適。
【目次】
はじめに
プロローグ 20世紀前夜の世界
第1章 人種主義と民族主義の拡大――1900年代
1 人種主義の拡大
2 アジア民族主義の拡大
3 民族主義の抑圧構造
第2章 革命と戦争の世界――1910年代
1 世界分割から世界大戦へ
2 アフリカと中東の世界大戦
3 アジアとアメリカの世界大戦
4 ロシア内戦とユーラシアの動乱
5 講和会議の内と外――民族自決の波及
第3章 平和と協調の模索――1920年代
1 世界大戦後の戦い
2 共産主義の拡大
3 黄金時代の人種主義
4 平和運動と国際協調
第4章 奈落へとおちる世界――1930年代
1 世界恐慌下の民族自決
2 独裁の恐怖と翻弄される人々――ソ連・満洲・パレスチナ
3 ジェノサイド化する戦争のはじまり
4 第二次世界大戦勃発の裏側で
第5章 世界の破滅、終わらない戦争――1940年代
1 膨張する戦場
2 枢軸国によるジェノサイドと抑圧
3 連合国によるジェノサイドと破壊
4 敗戦国の崩壊と人口移動
5 大戦後もつづく戦争
6 宗教対立と難民――パレスチナとインド
第6章 核の恐怖から平和共存へ――1950年代
1 朝鮮戦争と東アジアの危機
2 「アメリカ化」と「脱アメリカ化」
3 核の恐怖、平和の希求
4 平和共存への遠い道
第7章 グローバルな市民の抵抗――1960年代
1 「アフリカの年」と反人種主義の戦い
2 非同盟主義と核拡散
3 アジアにおけるイデオロギー闘争
4 「1968年」
第8章 現代世界の転換期――1970年代
1 途上国の逆襲
2 「過去の克服」――西ドイツと日本
3 独裁の終焉とインドシナ半島の混迷
4 イスラーム主義の登場
第9章 民主化のドミノ――1980年代
1 運動の弾圧と民主化の萌芽
2 チェルノブイリから平和へ
3 民主化へと向かう世界
第10章 地域の分裂と統合――1990年代
1 和解する世界
2 ヨーロッパの分裂と統合
3 内戦とジェノサイド
4 不安定化する世界
エピローグ 21世紀の世界
参照教科書一覧
参考文献
おわりに
人名・事項索引 -
東2法経図・6F開架:209.7A/Ki68n//K
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20世紀のグローバル・ヒストリー 北村厚著 横のつながりで歴史を見る
2021/9/25付日本経済新聞 朝刊
高校の学習指導要領が改訂され、2022年度から日本と世界の近代史を一体的に学ぶ新科目「歴史総合」が導入される。本書はその考え方を踏まえて近代以降の歴史を解説する入門書だ。著者は世界史教育を専門とする研究者。高校教員の経験もあり、授業のような語り口で新しい歴史の見方を提示する。
書名の「グローバル・ヒストリー」とは同時代に起きた事件が他地域にどういう影響を与えたかなど、横のつながりを意識した歴史理解のことだ。
例えば1904年に勃発した日露戦争は2国間の争いだが、戦争の結果は世界各地に新たな動きを生み出した。欧州列強の支配を受けていたアジア各国の諸民族は「白人に対するアジア人の勝利」と捉えた。中国やベトナムは日本に留学生を送り、自国の政体変更を模索する。他方、西欧諸国では黄色人種を脅威と考える黄禍論が盛り上がった。米国では日本人学童に対する排斥運動が起こる。
各国史では見えない世界史のダイナミズムを本書は興味深く詳述する。民族紛争や人種問題、あるいは女性の人権といった今日的な問題にも目配りしており、国際ニュースを深く理解する助けにもなるだろう。地域間の有機的な結びつきを実感でき、歴史感覚のアップデートに格好の一冊だ。(ミネルヴァ書房・3080円)
著者プロフィール
北村厚の作品





