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本 ・本 (242ページ) / ISBN・EAN: 9784623097920
作品紹介・あらすじ
世界人口の増加に伴い食料危機は本当にやってくるのか。まず、実証的な数値からその虚構性をあぶり出し、その裏腹にある地下資源の大量消費を背景とした飽食暖衣の高度消費社会の実際を経済学的に捉える。農と環境からの視点を通して、これまで培ってきた自然と人間の共存のあり方から現代社会の矛盾を見つめた警鐘の書。
感想・レビュー・書評
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女子栄養大学図書館OPAC▼https://opac.eiyo.ac.jp/detail?bbid=2000072501
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配架場所・貸出状況はこちらからご確認ください。
https://www.cku.ac.jp/CARIN/CARINOPACLINK.HTM?AL=10280733 -
東2法経図・6F開架:611.3A/G55s//K
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帯にある”マスコミと大衆が作りだした虚構と消費中毒の帰結”というのが本書の内容を端的に表している。『食糧危機の経済学』についての本ではあるのだけれど、それだと芯を外しているというか。もちろん、それも意図したものであると思うのだけれど。
<blockquote>化石資源の枯渇と自境の破壊という負の財産を、現世代は将来世代におしつけているのだ。
なぜ、このようなことになっているのか?消費欲求の暴走という「消費中毒」というべき病には陥っているというのが本書の見解だ。消費すればするほどますます消費をしたくなる。その一本来人類がもっていたはずの自然とのコミュニケーション能力を失い、さらには人間同士(生前代や死後の世代を含む)とのコミュニケーション能力を失っていったのではないか。
─ 3ページ</blockquote>
<blockquote>本書では、食料危機は的外れなことと、化石資源危機は確実に迫っていることを繰り返し指摘する。
化石資源が枯渇すれば、食料に限らず、すべての経済活動が停止する。化石資源に代わって風力発電・太陽光発電などのいわゆる自然エネルギーを使えばよいという異論もあろうが、自然エネルギーがどれほどのものかはいたって不確かだし、そもそも、それらもレアメタルなどの地下資源依存で、使えば使うほど枯渇に向かう。
─ 4ページ</blockquote>
本書のエッセンスは冒頭の数ページでこのように語られている。いまどきのコスパ・タイパの風潮に乗ってしまうのであればこれで済んでしまう。しかし、本書を読めばそういった風潮に対する批判であり、警鐘であるとも読める。
改めて、読み返してみると冒頭に書名が投げかけている問題に対する回答(らしきもの)をあげているのは読者に対する挑戦のようにも思えてくる。
仮に個々の知識が正しくても、自分にとって好みの知識ばかりを集めれば、全体としてはとんでもない偏見を生む(先の領土問題もその一例だ)。知識量が多いことや、最新の情報を持っているからといって、真実に近いとは考えない方がよい。むしろ、知識に頼る人は危険だ。思考をやめた人間(大学教員に多い)はおうおうにして知識をふりかざすからだ。
思考を「料理」、知識を「食材」にたとえればわかりやすいかもしれない。新しい食材をみつけたからと言って、手持ちの食材が多いからといって、よい料理ができるとはかぎらない。
本書の冒頭に<シカゴ市場に於ける小麦とトウモロコシの実質価格の長期変動>を描いたグラフ=図1が引用されている。本書にある様々な論考は全てこの図を出発点とし、この図を読み説き解釈したものともいえる……とのこと。
本書の真骨頂はここにあるといっても過言ではないだろう。
図1という知識を思考を巡らせることによって本書という料理を調理したという実践でもあるのだ。
確かに本書は食糧危機に関する本である。
化石資源を活用するという方向で産業革命後の新技術は生まれ育まれていった。産業革命によって大量生産・大量消費が可能になり、人々の欲望は満たされると同時に新たな欲望が生まれていった。
もっと多く! もっと美味く! もっと早く! もっと便利に!
経済学教授である著者は経済学の基礎を説きながら、これを「消費中毒」ではないかと問題視し、このままで良いのだろうかと投げかけてくる。
先進国を中心とした穀物増産は凄まじく、多量に生産され、多量に廃棄される。「消費中毒」が動かす資本が要請するのだ。
過日9月にイギリスにてゴッホの「ひまわり」にスープかけた活動家、禁錮刑の判決が出た。活動家たちの抗議の方法の是非については本稿の趣旨からは外れすぎるので触れないが、活動家たちが訴えていることは本書の内容にも関わってくる。「化学資源依存」と「消費中毒」の相乗効果で地球環境が破壊されていることに対して活動家たちは抗議しているのだ。
「食糧危機」といっても政治的に作られた部分が大きい。
<blockquote>農業ブームのなか、日本農業を賛美することが、農業者というよりも都市の有権者をひきつけるために有効な作戦になった。(中略)第一次安倍政権だが、このとき、安倍氏は特段に農業政策を強調しなかった。ところが、二〇一二年一二月に安倍氏が政権に復帰するや否や、アベノミクスと称する経済政策パッケージの一環として成長産業の育成をあげ、農業をその最有力として指定した。)中略)つまり、農業の実態を反映してではなく、先述したリーマンショック以降に日本社会に蔓延した逃避行的思考への迎合として農業を成長産業に指定したのだ ー 87ページ</blockquote>
同様に指摘されているのが農業補助金のあり方が日本の農業のやり方を型にはめてしまい、そのことのよって日本農業の劣化を助長しているのではないか? という疑問を共に具体事例をあげている。
本書において著者は問題を提示して警鐘を鳴らすだけではない。解決策も提示しようとしている。それには「消費中毒」によって失われたコミュニケーション能力を取り戻すこと、情報を選ぶのではなく思考をしていくことが肝要である。だから、タイパ・コスパ中毒者の要望に適うようなこれといった言葉はない。
その分、何度も読み返す強度を持った本になっている。何度か触れてきたように食糧危機と経済についての本ではあるのだが、それだけの本ではない。読む度に新しい気づきがあるだろうという予感がある。 -
序 悪魔の二者択一――エネルギー危機か?「生ける屍」か?
第Ⅰ部 偽りの危機と真の危機
第1章 虚構の食料危機
1 穀物価格の推移
2 ウクライナ戦争に見る食料供給の根強さ
3 農業に求められるのは増産ではなく縮小安定
第2章 途上国と地下資源の悲哀
1 相対的貧困と絶対的貧困
2 現代社会の化石資源依存
3 食料自給率のカラ騒ぎ
第3章 食と農の基本問題
1 魚と肉
2 国産飼料の危うさ
3 伝統農法、伝統食の重要性
4 アンチ地産地消
5 リーマンショックとコロナショックと農業ブーム
6 有機栽培の虚像
第Ⅱ部 消費中毒と経済成長
第4章 消費中毒仮説
1 標準的な経済学における消費者像
2 中毒と伝播
3 AI開発の意味
第5章 産業革命と経済成長
1 マルサスの『人口論』
2 技術と技能
3 産業革命に関する新知見
4 疑似桃源郷
5 消費者の責任
第Ⅲ部 未来への旅立ち
第6章 識者のトリック
1 大学教員の不誠実
2 知識は思考の屍
3 本の時代の終わり
第7章 農業と教育の再定義
1 農業の再定義
2 学校化社会の偏向
3 教育と科学を見直す
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神門善久の作品





