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本 ・本 (388ページ) / ISBN・EAN: 9784623098071
作品紹介・あらすじ
全 斗煥(1931年から2021年)第11、12代大韓民国大統領。
韓国現代史上最も悲惨とも言われる光州事件を引き起こすなど、韓国民主化運動の敵役として知られる全斗煥。彼による軍事政権樹立の経緯や光州事件への背景、退任後の晩年を、韓国大統領としての初の公式の来日など、日本との関係にも着目しながら追う。建国から戦争や経済的苦境、政治的混乱を経て、発展した民主主義国である現在に至るまでをたどる「もうひとつの現代韓国史」。
感想・レビュー・書評
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今年読んだ中で、いちばんよかった。
『南山の部長たち』と『ソウルの春』を見てから読むと、さらにおもしろいでしょう。
私は最初から、全斗煥は脳内でファン・ジョンミンさんに変換されて読みました。 -
韓国の大統領であった全斗煥の評伝。
現在の日本において、彼がどの程度の知名度なのかわからないが、とりあえず、1985年生まれの私は名前を知る程度でくわしくは知らなかった。
全斗煥は、1931年生まれ。戦前の生まれだが、日本でいわれるところの戦中派に近い。終戦時に14歳である。日本でのこの世代は、戦前の価値観を埋め込まれながらも戦後の世界にアジャストしていった世代である。たとえば、全斗煥と同い年には小松左京がいるが、小松が銃を手に取るような歴史は、日本に生まれた以上、どのような世界線でもなかったであろう。
しかし、現代韓国史は戦後からも戦いの歴史である。本書を読めばわかるが、とにかく血生臭い。
「全斗煥とその政権を考える上で重要なのは、この事件により、事実上、初期の全斗煥政権の経済政策を支えてきた人々が物理的に消滅した事である」
上記は本書の後半、北朝鮮による全斗煥の暗殺計画のくだりで出てくる文章である。これが1983年。(ちなみに、この暗殺計画は北朝鮮側のミスで、全斗煥ではなく、べつの韓国要人を間違って殺害している。)
光州事件を含め、それ以前もひたすらクーデターや暗殺といった事件が並んでいる。
また、あまり知られていないようなちょっとした話も多くてよかった。カラーテレビへの制限など寡聞にして知らなかったため、おもしろい。カラー放送は、アメリカで1954年、日本においては1960年から始まっているが、韓国では1980年からである。そう考えると、昨今の韓国文化のグローバル化は異様なスピードのようにも思えてくるが。 -
著者は後書きで、全斗煥の人物像につき、上の世代と異なり民族主義なき世代、反共主義だが朝鮮戦争を現実に体験しない「軽い」姿勢、米国通、冷戦後という時代に追い越された、と総括する。これら視点で本書の内容を見ると、確かに日本に対する思い入れのようなものは正負とも感じない。また光州事件に共産主義の脅威をどれだけ本気で感じていたかは疑問だ。更に、米国を気にするとすれば、カーター政権に代わりレーガン政権となった後の追い風は創造に難くない。
朴正煕死亡から大統領就任に至る一連の過程で、やはり疑問は、全斗煥がいつ頃から自らの権力掌握を目指し、かつ情報管理を通じ他の要人を統制下に置いたかだ。本書では趙甲済の分析を引き、粛軍クーデタの段階ではそうではなかったが、その後権力掌握に向かった理由の一つに「報復を防ぐ為」を挙げる。
粛軍クーデタの敗者や金大中の扱いを見ると、その「報復」とは拷問、投獄、死刑判決すら含み得ると想像できる。それに加えハナ会のような個人的関係による部隊動員、全斗煥は極端とは言え軍人一般の遵法意識の低さ、を見ると、当時の韓国が制度化されていなかったことをつくづく実感する。かろうじて要所要所で崔圭夏の許可を求める手続きを経てはいるが。現在の「積弊清算」や司法の政治化は、程度は全く異なるにせよその残滓か。
また、同世代ではあるが民主化受け入れ後の盧泰愚とは対照的だ。全斗煥は2017年出版の回顧録ですらなお自らを正当化しているのを見ると、時代や軍歴に加え、やはり全斗煥個人の特殊性もあったのかと考える。
なお、映画「ソウルの春」の評の一つで見たような、朴正煕の全斗煥への寵愛やハナ会との極度に密接な関係は、本書からはそこまで感じない。もちろん「朴正煕の庇護下での台頭」とは評されているが。 -
東2法経図・6F開架:289/Mi43/258/K
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