回想 私の手塚治虫 『週刊漫画サンデー』初代編集長が明かす、大人向け手塚マンガの裏舞台

  • 山川出版社 (2016年12月19日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (376ページ) / ISBN・EAN: 9784634151109

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  •  『週刊漫画サンデー』は、『少年サンデー』の小学館とは関係ない、実業之日本社から出ていたマンガ誌(すでに休刊)。いわゆる「マンサン」である。
     その創刊編集長であった著者が、同誌に多くの作品を発表した手塚治虫との思い出を綴ったもの。

     著者は、本書の最終編集段階にあった昨年11月、90歳で亡くなったという。
     そのような経緯を知るとケチもつけにくいのだが、あまり面白くなかった。

     いや、けっして悪い本ではないのだ。
     しかし、手塚治虫の逝去から30年近くを経て、ありとあらゆる「手塚本」が汗牛充棟のいま、その中で上位に位置するようなものではないと思う。

     「手塚本」がごまんとある(身もフタもないことを言えば、「手塚本」以外のマンガ家本は売れない)からには、よほど斬新な切り口で迫らないかぎり、屋上屋を架すだけになってしまう。
     本書の新しい切り口は何かといえば、手塚の「大人マンガ」への挑戦に的を絞っていることだ。

     「大人マンガ」といってもよくわからないだろう。
     これはかつて、少年マンガ・青年マンガ・劇画などという区分が未分化だった時代、マンガ一般が「児童マンガ」と呼ばれていたことから、それに対する呼称として生まれた言葉。子ども向けではない風刺マンガなどを総称して「大人マンガ」と呼んだのだ。

     「児童マンガ」の世界に王者として君臨していた手塚治虫が、昭和40年代、「大人マンガ」の世界で初めて本格的なストーリーマンガに挑戦したその舞台が『漫画サンデー』であり、著者はその挑戦を間近に見つめた伴走者であった。
     『漫画サンデー』から生まれた手塚の「大人マンガ」としては、『人間ども集まれ!』、『上を下へのジレッタ』、『一輝まんだら』(未完)などがある。

     その時期の舞台裏が綴られているという点で、本書はマンガ史の貴重な資料と言える。
     とくに、手塚もその一員となった「漫画集団」(大人マンガの作者が中心となったマンガ家団体)とのかかわりが詳細にたどられている点は、他の「手塚本」には見られない独自性と言える。

     ただ、本書には次のような瑕疵があると思った。

     第一に、「漫画集団」内の大物マンガ家であった横山隆一、馬場のぼる、小島功らについて、必要以上にくわしく書きすぎ。「これでは『手塚本』ではなく、漫画集団の本だ」と思ってしまった。

     第二に、本書後半は手塚のアニメへの挑戦と「虫プロ」の興亡についての記述がメインとなるが、そのような構成にする必然性がまったく見えない。

     虫プロ時代については、『虫プロ興亡記』(山本暎一)などの優れた書物がすでにあるし、著者はそのへんのことを直接見聞きしたわけではないから、既成の本の引用と再構成によるしかない。要は、おもな「手塚本」をすでに読んでいる者にとっては“知ってる話”ばかりなのだ。

     著者自身の手塚との思い出だけでは一冊にならなかったのなら、後半は『漫画サンデー』以外に載った手塚の大人向けストーリーマンガ(『陽だまりの樹』や『アドルフに告ぐ』など)の紹介・分析に充てるべきだった。
     そうすれば、「大人向けマンガの描き手としての手塚治虫」について、体系的に論じた本になり得ただろう。

     なお、最終章「小林一三の恩恵」は、阪急電鉄創業者にして宝塚歌劇の生みの親である小林一三が、手塚の作品世界にいかに大きな影響を与えたかが論じられており、読み応えがある。
     しかしこれとて、桜井哲夫が『手塚治虫――時代と切り結ぶ表現者』(講談社現代新書/1990年)の「宝塚という不思議な空間」の章ですでにくわしく論じていることであり、著者の独創とは言えない。

  • 週刊漫画サンデーの創刊編集長による、手塚治虫やその周辺についての話。なんと著者は、この本の最後の段階で亡くなってしまったらしい。
    それにしても、細かいことまでよく覚えてるなと驚いた。飲みの席ででた旅行に誘うメンバーの名前を覚えていて、さらに結局行けなかった人と行ったメンバー意外に実際に行ったメンバーまで書いてあった。何でそんなこと覚えてるんだ。
    ただ、どうせ宝塚歌劇について書くんだったら、リボンの騎士は宝塚歌劇に影響を受けているということも書けばいいのに。
    それにしても、ネットがない時代でも、マンネリだとかいう読者の声が届いてノイローゼになることがあったんだなと。読者の手紙は直接、作者の元にでも届いてたんだろうか。
    後、多才な手塚治虫だけど経営に対しては才能がなかったことがよく分かった。残念ながら、経営陣にも才能が無かったらしい。
    ただ、よくアニメーターが安月給なのは手塚治虫のせいというのをよく聞くけど、むしろこの本を読んでいたら他の製作会社よりもアニメーターは高給にしてたっぽい。ただし、放送料を安くしてしまったんだとか。この辺が手塚治虫のせいといわれる所以かな。
    そういえば、手塚治虫の祖父が関西大学の創設者の一人(手塚太郎)ということを初めて知った。セレブ一家だったんだろうなぁ。
    それにしても、バイオリンやピアノも弾けるとか本当に多才すぎる。

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