ハプスブルク帝国 (世界史リブレット 30)

  • 山川出版社 (1996年1月1日発売)
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本 ・本 (96ページ) / ISBN・EAN: 9784634343009

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  • 図書館で借りた。
    オーストリア。現在はヨーロッパにある共和制の小国だが、ほんの100年前は世界トップクラスの列強だった。そのオーストリアを治めていた王家がハプスブルク家だ。ハプスブルク家がスペインやオランダなどの王座に就いたこともある由緒正しき家柄だ。
    その100年前に第一次世界大戦で敗れ、オーストリア=ハンガリー帝国が解体された。当時は民族自決権と称し、イチ民族イチ国家を目指すのが国際的な流れであった。しかし時は流れ、民族自決が転じて差別を生み、民族浄化を促してしまった歴史の反省から、現代では多くの民族が従い統一されたこのハプスブルク帝国が見直された…。
    そんな”歴史の見え方”も記載されており、学びがあった。

    個人的に面白い発見があった。日本語で「オーストリア」と「オーストラリア」は似ていて、オーストラリアは「アウストラロピテクス」同様、”南の”から来ている、というのは知っていた。それに加え、オーストリアはドイツ語での"東の"を意味するエスター(要は英語のEastだろう)から来てるというのは知らなかった。どちらも方角だったのだ。

  • 第一次世界大戦とともに崩壊したハプスブルク帝国。その落日を記述している。

    要約すると以下のとおり。
    ・ナポレオン戦争以降燎原の火のごとく広がった国民による自由と普通選挙権の希求、民族自決意識の誕生軍事近代化のための国民国家化の要請。
    ・他民族国家であるハプスブルク帝国は、国内のバランス調整、分離独立の抑え込みに苦心。
    ・その過程でオーストリア=ハンガリー帝国に移行し、巧みな選挙制度構築による民族への議会の議席配分や利益配分で一時的安定を確保。
    ・しかしオスマン帝国やロシアとの駆け引きのなか、バルカン半島の民族紛争に否応なく引きずりこまれ、WW1に突入。敗戦により帝国は解体。チェコの議員は『われわれは、裏切り者で、よそ者で、不埒なハプスブルクとの鎖を断ち切った。われわれは自由を手に入れた。この自由をわれわれはもう手放さない』と演説。帝国内各地で兵士や市民が、兵士の制服からハプスブルクの紋章を剥ぎ取る等した。
    ・ところが80年後の東欧社会主義体制崩壊後に、ハンガリーの議員たちとの会談のためブダペシュトを訪れたオット・ハプスブルク(帝国崩壊時の最後の皇帝カールの子)は大歓迎を受けた。欧米の政治家もジャーナリストもハプスブルク帝国を民族や国家の枠を超えた組織のモデルとして積極的に評価するようになった。とりわけ第一次世界大戦の引き金のサラエボ事件の舞台であるボスニアヘルツェゴビナ内戦は、民族自決が民族浄化に転化する可能性を現実に示すことになった。民族自決権によって否定されたハプスブルク帝国が再評価される所以だ。

    以上の皮肉な歴史のダイナミズムを、僕たちはどう受け止め、解釈するべきだろうか。

    自由、民族自決、民主化、資本主義。今日それらは日本を含む先進諸国の間でとても重要な概念として考えられ、ともすれば「絶対的に正しいもの」と錯覚しがちだ。実際、僕たち庶民はその恩恵に浴している。だが、ハプスブルク帝国の解体と再評価は、それらの政治システムや価値観は時代の流れのなかで有利にも不利にも働き、絶対的な正解はないということを示しているのだと僕は考える。
    現に今、資本主義や民主主義、そして権威主義、国家との軋轢が問題点となっている。その中で、自分たちのあり方も常に相対化して考え、模索し続けるのが大切ではないかと、僕は考える。

  • ハプスブルク家の支配下にあった東欧国家をメインに19~20世紀初頭のヨーロッパ史を概観できる。

    故郷は群馬(図書館職員)

    所蔵情報:
    品川図書館 209/Se22/30

  • 民族自決とハプスブルク家支配。

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著者プロフィール

1952年生まれ。東京大学大学院社会学研究科修了。現在、神戸大学大学院人文学研究科教授。専攻は、ハプスブルク史、オーストリア近現代史、民族政策。著作に『ハプスブルクの実験---多文化共存を目指して』(中公新書、1995/増補改訂版、春風社、2007)、『ハプスブルク帝国』(山川出版社、1996)、『青野原俘虜収容所の世界----第一次世界大戦とオーストリア捕虜兵』(山川出版社、2007)、『大学で学ぶ西洋史〔近現代〕』(共著、ミネルヴァ書房、2011)、『Global Austria. Austria's Place in Europe and the World』(共著、Univ of New Orleans Press、2011)、(『捕虜』として姫路・青野原を生きる---1914-1919 箱庭の国際社会』(共著、神戸新聞総合出版センター、2011)、など。

「2013年 『捕虜が働くとき』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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