変容する近代東アジアの国際秩序 (世界史リブレット 41)

  • 山川出版社 (1997年1月1日発売)
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本 ・本 (96ページ) / ISBN・EAN: 9784634344105

感想・レビュー・書評

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  •  ほぼ19世紀の中国の対外関係の通史という感じで読みやすい。まず、林則徐のアヘン貿易厳禁を、北京・中央からの視点であり、カントン社会の海外貿易依存を十分に理解していなかったためだとする指摘。中央・地方関係の一環として捉えるのが新鮮だった。
     また、南京条約で中華世界が一気に変わったわけではないことが分かる。最恵国待遇は皇帝の恩恵的配慮としての「一視同仁」。領事裁判権は「化外」への扱い。実際は敗北であっても、中国では夷狄への羈縻として伝統的世界観の中で理解されたということだ。朝鮮でも「衝撃」とは考えられていない。むしろ琉球経由で情報を得た日本の方が欧米への危機意識を高めている。
     しかしその後、19世紀を通じて東アジアの秩序は少しずつ変容していく。清は、朝貢国であるヴェトナム、ビルマ、琉球に対してはそれぞれ仏英日との両属関係で着地させようとするが、実質それらを失う。新疆や朝鮮には干渉を強める。著者はこれらの努力が全て無駄だったとしているわけでもなく、特に朝鮮との宗属関係再編はこの地域に相対的安定をもたらしたと評価する。しかし結局は日清戦争の敗北で「列国並列之勢」(康有為)の世界へ変化してしまった。

  • なぜ現代中国国内ではいまだにチベット問題を始め、様々な地域で民族独立問題が起こっているのか?
    著者はこの問題に対し、前近代中国の中華世界から近代世界に組み込まれていく過程に原因があるとして、本書の課題を設定している。

    18世紀までの東アジアは、中国を中心とした「さまざまな国家・民族がそれぞれの独自性を保持しながらたがいの多様な存在を認めつつ共存する、ゆるやかな開かれた階層的秩序」で成り立った中華世界が基本であった。

    そこに18世紀末より欧米列強の接近に伴い中華世界が変容していくことになる。本書では、欧米列強が基本とした近代世界と中国を中心とした中華世界は必ずしも対立するものではないと主張する。
    というのも、欧米列強と中国との間で行われアヘン戦争やアロー戦争により結ばれた、近代世界的な条約(南京条約や天津条約)について中国清朝は中華世界的な考えで理解したという。
    清朝はその後も列強との対峙において中華世界的な考え方で対応していくが、次第に領土支配(「植民地主義」)を推し進める近代世界との衝突の中で、中国は近代世界的な国民国家を目指していくことになる。

    最初の課題について、中華世界における支配はあくまで緩やかなもので(「版図」や「朝貢」)で、地方の独自性を認めたものだった。これが近代世界的な国家に移行していく過程で、従来の地方が「辺境」として国家に組み込まれていき集権的な支配をおよぼしていくことになる。筆者は、この前近代までの独自性が現在の民族独立問題の原因であると考えられている。

    これは日本における「琉球」(沖縄)の問題も似た事例であろう。沖縄問題を考える際に一助とされたい一冊である。

  • 昨年度の「東洋史概論」の課題のために選んだ一冊。
    東アジア独自の地域秩序であった「中華世界」が、構造論理の異なるヨーロッパの「近代世界」とどう対峙していったのかが描かれる。
    特に日朝修好条規については、「日本史」の視点だけでは理解できない解釈の仕方を示してくれるので非常に興味深い。
    今の中国に当時のような寛容さはあるのか……。

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