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本 ・本 (96ページ) / ISBN・EAN: 9784634347205
感想・レビュー・書評
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東南アジアの港市国家にて語られた建国神話と、それが表す地域秩序を解説した書。諸外国という「外部」と内陸後背地という「内部」の狭間にあった港市国家が如何なる地域秩序を生み出していったか、またそれを表明する為に如何なる神話を編み出していったのかを詳説する。
本書は、パサイやマラッカなど東南アジア地域にて栄えた「港市国家」の建国神話を通して、当該地域において成立した地域秩序の形を紹介したものである。東西の大国を繋ぐ海上交易路の要点として、また自らも貴重な交易品の輸出地としてあった港市国家は、交易相手である「外部」の大国と輸出品原産地である「内部」の後背地の間に存在していた。国家の由来を説く建国神話においてその関係性は如実に示されており、港市国家が「外部」と「内部」をどう捉えたか、その中で己をどういう存在としたのかが様々な伝承の形を取って表れているのである。超自然的な生まれや力(=内部の自然を制する力)、外国王家との血脈(=外部の大国との結びつき)、国王自らの改宗(=世界・地域秩序としての宗教との繋がり)等の諸々の神話は、港市国家が生み出した地域秩序を反映したものであり、またそれを他者に説くものとして生み出されたのである。
本書は神話をメインとして語るというよりかは、それを足掛かりとして社会システムを語った本である。紹介される各々の建国神話は歴史的事象と重ねられて解説されているので、純粋に東南アジアの建国神話の筋を知りたいという人には少し期待が外れるかもしれない。ただ、「アンコール・ワット(レコーン・ロアン)を築いたアユタヤ建国王」、「パジャジャラン王家の血脈を引くと語られたオランダ東インド会社総督(オランダ人)」など、政治的・社会的情勢を反映した神話・伝説が数多く紹介されており、神話というものが現実をどう反映して語られたか、神話を通して語り手が他者をどのように把握したかということについては面白い実例を提供してくれる。詳細をみるコメント0件をすべて表示
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