啓蒙の世紀と文明観 (世界史リブレット 88)

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  • 山川出版社
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  • Amazon.co.jp ・本 (90ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784634348806

作品紹介・あらすじ

新しい知と「科学」の冒険へと繰り出した十八世紀ヨーロッパの啓蒙主義は、一国の歴史のなかではなく、ヨーロッパという一つのコスモスの思潮として考えなければならない。そうであるならば、「啓蒙のヨーロッパ」は、自分たちの「外の世界」をどのようにとらえていたのだろうか。非ヨーロッパ世界を照らし出す啓蒙の光を軸に、植民地主義や帝国主義の源泉ともなった当時の文明観を批判的に論じたい。

感想・レビュー・書評

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  • 17,18世紀の啓蒙思想時代のヨーロッパの考え方、人種や科学について解説されたもの。
    90ページと短く読みやすかった。
    キリスト教を盲信していた人々を目覚めさせる啓蒙主義は良いものというイメージだったが、自分たちが啓蒙された人であり、それ以外の人を未開人とみなし、奴隷や植民地を正当化するものだったと見ることができるというのはなるほどと思った。
    途中で書かれているガリバー旅行記とロビンソン・クルーソーの対比も面白かった!ガリバー旅行記の著者スウィフトは、植民地的な考え方を嫌い、ガリバーは訪れる土地土地の文化に敬意を払っていたのに対し、ロビンソンは各土地の人へ新たな知識を吹き込み、自分が開拓者としてその土地を植民地支配してしまう。スウィフトについてもう少し調べてみたいと思った。

  • 人種の書籍読んでいくうちに派生して読みたくなった関連本。
    科学を前提とした啓蒙主義がどのように生まれたのか、序盤では特にそれまでのキリスト教史観からどうやって科学を前提とした世界観が生まれてきたのかについて書いてて、とっても面白かった。

    啓蒙主義については「未開と言われる他民族や白人以外の人種、女性を「他者」として対象化し、自由や平等という枠組みから弾き出していく論拠を提供した」という一文が、とても端的に表している。

    一方で、改めて啓蒙の思想というのは善意によって(のように見える)為されることであり、それが結果的に主体の優位性を再構築するという、非常に厄介な特徴を持っている。
    それは現代において無くなったかと言われれば、依然として存在していて、日々の生活の中でよく目を凝らして、自己点検をし続けないといけない。
    そういう気づきをもらえた貴重な1冊だった。

  • 小品ながら多くの論点を含んだ一冊。身分制の解体とともに性差が強調されるようになった、との指摘は重い。

  • ヨーロッパの歴史において、18世紀は教育と知識が普及し、古い非合理な制度が見直された啓蒙の時代だった。

    ギルド的な構造を持つ伝統的な大学や教会、修道院に代わって、ロンドンの王立協会やパリの科学アカデミーなどが新たな知の中枢組織となっていく。

    各地の探検旅行によって収集された動植物、道具や衣類などは、1753年に設立された大英博物館など、公共の博物館や大学博物館の展示ケースに収められた。

    フランスでは1751年から百科事典が刊行され、知識が誰にでも等しく共有されるようになった。1805年以降の40年間に出版された書物の数は、それ以前の40年間に比べて10倍以上になった。

    啓蒙の世紀の基礎である理性と批判の精神は、身分や宗教、性別などの社会的束縛から、個々人を解放すべきであるという思想を生みだした。農奴が解放され、特権階層や手工業ギルドへの変革が試みられ、ユダヤ教徒の境遇も省みられた。

    啓蒙主義という大義名分の下に、ヨーロッパの白人男性知識人たちは、自分たちにとっての他者である非ヨーロッパ人や女性を啓蒙すべき対象ととらえて差別の論理を作り出していった。

  • ポストコロニアリズムの視点から啓蒙概念を語る良書。

    当時、女性および未開地の人々は、白人男性によって保護され、進歩に向かって導かれるべきであるとされた。
    女性は弱く華奢であり頭が小さい、黒人の頭蓋骨はサルのに似ている、といったことが"生物学的に"証明され、それに比べて、白人男性が強く文化的に優位にあるということが、当時最新の科学の知見であった。
    Americaという名詞が、アメリゴ・ヴェスプッチの名から取られたにもかかわらず女性名詞になっているというのは、まったく象徴的な事例である。「処女地」という言い方もそう。
    教師・啓蒙者としての白人男性、従属者としての女性・未開人。そういうイデオロギーが啓蒙概念につきまとっている。

  • 啓蒙時代に何が行われていたのか。光の世紀だと思っていたら、とんだ大間違いだ。理性・科学が、人類の平等に転がるか、差別の正当化に向かうかは紙一重だった。進歩という概念も相当怪しい。歴史に学ばなければ、また、私たちは誤るだろう。ヨーロッパ、白人、男性中心を脱中心化しなければ。啓蒙時代に生まれた人権概念もより普遍化する歴史であることをたえず意識せねば。

  • 啓蒙主義の展開を批判的視点から眺めた一冊。小品だが非常によくかけている本だ。プロットが明確である上に、エピソードがこの時代を象徴するような印象的なものが適切に集められているため、読んでいて飽きさせない。

  • 「啓蒙の世紀」と呼ばれる18世紀のヨーロッパと「外の世界」との関係を、当時の啓蒙思想から概観した1冊。もっとヨーロッパの啓蒙をまとめたものかと思っていたら、どちらかと言えば、植民地との関係を描いたものであったのに、少し期待が外れた。内容の要約としては、ヨーロッパの啓蒙思想が、当時のキリスト教的伝統の価値観から、理性を重んじるものへと変化していくが、それは、白人男性の優位を向上させるために利用されるものが多かったという感じ。まぁ大事だけどね、こういう感じで啓蒙の世紀をまとめてしまっていいのか?とは思ったけど。リブレットの内容としても、もうちょっとヨーロッパ内の方を論じて欲しかった。

  • 啓蒙主義の闇の部分というか、「理性的」「科学的」な思想によって抑圧された他者=女性、未開人に焦点を絞った本。知識のために読んだけれど、特に新しい発見はない、正味90ページに満たない本であるから論は深められようはずもないか。同時期に発表されたイギリス冒険小説の『ロビンソン・クルーソー』と『ガリヴァー旅行記』が植民地(未開地)に対するまなざしにおいて好対照である点があぁたしかに、というくらい。

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著者プロフィール

早稲田大学法学学術院教授。専攻はドイツ史、西洋史、ジェンダー史。著書に『啓蒙の世紀と文明観』(山川出版社)、共編著に『ジェンダー研究/教育の深化のために』(彩流社)、共著に『世界史のなかの女性たち』(勉誠出版)など。

「2017年 『なぜジェンダー教育を大学でおこなうのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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