- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784635049252
感想・レビュー・書評
-
東雅夫・編『文豪山怪奇譚 山の怪談名作選』ヤマケイ文庫。
近代から現代の文豪たちが山の怪異を描いたアンソロジー。12編を収録。
昔から山は怪談や怪異の舞台となり得る霊的な力をたたえた特異な場所であったことが窺える。多くの文豪たちが手を変え、品を変えて描く山の怪異とは……
火野葦平『千軒岳にて』。突然噴火した千軒岳に翻弄される河童たち。
田中貢太郎『山の怪』。猟師の半兵衛が山で体験した怪異。
岡本綺堂『くろん坊』。黒ん坊と冗談で交わした約束を破ったことで起きた悲劇。
宮沢賢治『河原坊(山脚の黎明)』。宮沢賢治らしい世界観の詩編。早池峯山の南にあたる登山口の異世界のような風景。
本堂平四郎『虚空に嘲るもの 秋葉長光』。夜間の登山を禁じられた御山で剣豪が出会った怪異。
菊池寛『百鬼夜行』。剣豪と百鬼夜行との闘いの結末は。
村山槐多『鉄の童子』。未完結作。放浪する主人公が山中に見付けた印度の小鐘。
平山蘆江『鈴鹿峠の雨』。鈴鹿峠で逢った男女は他人には見えず、生きた人間か死んでいるのか解らぬままに不安に駆られる私。
泉鏡花『薬草取』。謎の美女ヶ原は夢か幻か。
太宰治『魚服記』。本州の北端にある山脈を舞台にしたお伽噺のような物語。
中勘助『夢の日記から』。恐ろしい罪を犯した私は夜な夜な悪夢に苛まれる。
柳田國男『山人外伝資料(山男・山女・山丈・山姥・山童・山姫の話)』。柳田國男が描く山人の足跡。
定価770円
★★★★詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
トレッキングを楽しむ程度なので、いわゆる深山幽谷に分け入ったような経験はほとんどないが、山を見ていると、「常人の立ち入らないあの奥はどうなっているのだろうか、何か不思議なこと、畏ろしいことがありそう」といった思いが浮かぶ。
本書は、怪談や幻想系作品のアンソロジストとして名高い東雅夫氏が、「山怪」をテーマとして編集した一冊である。
一番のお気に入り作品は、やはり鏡花の『薬草取』。愛する人のために薬草を取りに向かう青年が、花を摘みに行く娘と道連れになった道中で語る、年少の時の哀しくも夢のような体験。
槐多『鉄の童子』は、未完ということもありよく分からなかった。山を下りて下界の村に降りた主人公はまるでツァラトゥストラを思わせるが、題名にもある童子とどのような関わりが生じるのか、これからというところで終わってしまっている、ただ、山の描写については槐多らしく大変力強い。
火野葦平『千軒岳にて』は、火山の噴火とそれに対する河童の反応を題材に、面白く仕上げている。
本堂平四郎、平山蘆江は名のみ知っていた作家で、初めて作品を読んだが、こうして初めて作家、作品にふれることのできるのも、アンソロジーのありがたさだ。
他にもこれはという作品が選ばれており、とても楽しめる。 -
この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。





