文化と都市の公共政策 創造的産業と新しい都市政策の構想

  • 有斐閣 (2005年9月30日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (290ページ) / ISBN・EAN: 9784641162495

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  • これまで別々のものと考えられていた文化と経済について、20世紀後半の情報産業やコンテンツ産業の発展に伴い、一体的に考えていく必要があるとの認識が徐々に深まってきた。それと並行してこれらの産業が展開する空間を扱う都市政策も、文化政策への問題意識を高めてきている。そして1980年代以降、都市再生の文脈の中で、文化や創造性を育む都市のあり方が問わるようになってきている。

    本書ではそのような背景を受けて、創造的産業の振興策と都市や地域の再生政策の関係性について検討した筆者の論考を集めたものである。

    分析に当たっては、創造的産業を創造性が最も求められる非営利の活動と、それらの周囲にあるマネジメントや法律サービス、作品を試作する工房といった営利的な産業の結合と捉え、それらが展開する都市空間を作るための都市政策のあり方を検討している。

    創造性を生む都市空間の形成には、創造的な仕事に携わる多様な人々とそれを享受する人々、さらには関連する産業が相互作用するダイナミックな場、空間のデザインをコーディネーションする政策をデザインすることが必要である。そしてその取り組みには、市場や政府に加えて社会的セクターも含めた3つのセクターによる仕組みや、資金循環の仕組みも含まれていることが重要である。

    このような政策のあり方は、経済学と都市空間論の統合、公共政策におけるソーシャル・ガバナンス、スモール・ビジネスの振興策など多様な分野に展開していく議論になる。本書では特に、筆者の前著での関心領域でもある、創造性や公共性を現代の共同財として再生させるための方法論の探求という視点から論じた内容になっている。


    本書ではまず、文化行政に関する財政政策の分析を通じて、文化や創造性に関する政策のアプローチの変化を調べている。この分析では、以前は無関係と考えられてきた文化と経済が関係しているものとして捉えられ直してきたこと、そのため文化支出においても経済への波及効果がその一つの評価軸となってきたという変化があることが明らかにされている。

    さらには、文化の担い手がこれまでの公共を中心とした考えから民間セクターや市民、非営利組織へと拡大し、それらに対する支援も含めた政策パッケージが検討されるようになってきたことも大きな変化である。このような変化は、文化政策に関わる意思決定や運営に関するガバナンスの分権化をも促した。行政の多様なセクター間の連携や企業、コミュニティとの協働が必要とされてくるようになったのである。

    続いて筆者は、このように文化政策の性格が変化したことを踏まえ、政策決定システムのあるべき姿を財政システムと政策評価の2つの面から考察している。

    財政システムの観点からは、文化が人々の社会的生活を支え、ケイパビリティの拡張を通じて自由を促進するものであるということから、特にそのような役割を果たすことのできる文化や文化産業の発展を支援していく必要があるという点を指摘している。

    また、それに対応した文化政策の評価方法については、政策の実施主体が多様なセクターにわたることやその成果が公共財的な側面を持つことに留意し、芸術団体の側からの視点、納税者であると共に文化の享受者でもある市民に対するアカウンタビリティ等を備えた、総合的な評価プロセスが必要となる。


    続いて本書では、都市・地域の創造性を高める政策を財政の面から支える一つの可能性として、地域金融について触れている。具体的には地域通貨の導入と、コミュニティ・バンクなどの新たな地域金融システムのデザインが取り上げられている。

    まず地域通貨であるが、これはそのコミュニティの中で市場や政府よりも非営利セクターに関わるサービスなどの価値の交換を媒介する機能を持っている。このこと自体が地域の中での経済循環や非営利セクターの活性化を通じて地域の自立的な発展の契機をもたらすものではあるが、筆者はこのような地域の経済循環に対して、政府や公的セクターも地域全体のコーディネートといった形でこの動きを支援することが大切であるし、民間セクターに属する企業の集積があるということも、地域通貨による経済の循環が波及効果を発揮する上では重要な要素であるということも指摘している。

    地域通貨がこのように地域の中にある取り組みのシーズや共感を伴った価値交換を促進するものであるのは間違いないが、それだけではコミュニティの中にビジネスが立ち上がり、地域経済が自立して発展していくことはできない。自律したビジネスの展開を支えるのは、地域金融の役割である。筆者は地域金融に必要なこととして、民間セクター、公共セクター、非営利セクターの3つの層に対してきめ細かな金融サービスを提供しそれによって地域内の資金循環を作ることを挙げている。これは、地域により近い存在である地域金融機関の役割が発揮されるべき領域である。

    そして、金融サービスに加えて、地域に存在する小さな専門企業群のネットワークを繋ぎ、コミュニティにおける創造的な役割を果たすことも、地域金融に求められる大きな役割であるとしている。このような産業集積と金融の密接なつながりは、文化関連産業のような分野においては特に求められるであろう。


    最後に、これまでの文化や都市の創造性に関する分析を踏まえた上で、筆者は創造的都市に関する理論的なアプローチの枠組みを検討している。1980年代以降に活発に行われた創造的都市に関する議論に対して、筆者はさらに、創造的都市の試みは、社会的に不利な人々への資源配分や、実験的なものへの資源配分に光を当てる、新たな財政システムとして考えることができるのではないかという観点を提示している。

    このような新たな財政システムによる資源配分が行われれば、イノベーションの源泉となる文化インフラストラクチャーや地域内のアクターのクラスターによるネットワークを生み出すことにつながる。

    そして、これらのインフラストラクチャーや文化クラスターの機能を捉えるためには、空間論的側面が必要となる。文化の創造プロセスは循環的なものであり、創造の成果が文化・社会・経済の3つの価値の要素に転換され、それがさらに資源配分に関わる享受者との対話を通じて新たな創造を生み出す力となる。これらの循環が行われる場の質が、この循環がうまく機能するかどうかを左右する。筆者は、ヘルシンキのケーブル・ファクトリーの事例を使いながら、芸術家や市民、企業が相互作用を起こす空間の質とそのマネジメントのあり方について紹介している。

    最終的にはこのような循環の仕組みが生まれる場の形成と、そこで循環する人々のアイデアやサービスや資金の流れをいかに生み出すことができるかというのが、文化政策や創造都市に関する政策の成否につながると言える。筆者は、創造性をブリーディング(繁殖させる、育てる)する地域の資金循環や公共政策の仕組みという言葉で、この働きを表現している。この仕組みは共同財の性格を持っており、政策的な取り組みがなければ作り上げていくことはできない。

    そのような政策を推進し、財政、都市空間、経済といった各政策分野を文化の創造へとつなげていくことが、求められている。

  • 図書館2F閲覧室 709||G72

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著者プロフィール

摂南大学教授

「2019年 『文化経済学 理論と実際を学ぶ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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