開発生産性のディレンマ デジタル化時代のイノベーション・パターン

  • 有斐閣 (2012年2月24日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (378ページ) / ISBN・EAN: 9784641163874

作品紹介・あらすじ

ソフト産業にも製品のイノベーション・パターンがあるのか? 革新的イノベーションが滞るのはなぜか? 効率的に新製品を作ろうとする活動が真に新しい製品を生み出し難くするというパラドキシカルな現象を明らかにし,ゲームソフト産業のイノベーションの姿を浮き彫りにする。

感想・レビュー・書評

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  • 2012 6/8パワー・ブラウジング。指導教員の先生から貸していただいた。
    筑波大学で隔週開講中の授業、第一線研究者 教員プレゼンバトル(https://sites.google.com/site/tsukubagrad/fpb2012)の第3回(5/18)でご発表されていた、生稲先生の著書。

    日本の家庭用・据え置きゲーム産業(1983-1998)を題材に、革新的なイノベーションがなぜ滞ることがあるのか、なかでも製品やサービスそのもののイノベーション(プロダクト・イノベーション)の範疇で、革新的なものが減り、漸進的なものが多く発生するようになる要因を明らかにしていく本。
    ここでいうゲームソフトのイノベーションとは「プラットフォームに依存することなく、新奇性と高い完成度を有することによって、ゲームソフト産業の刷新、成長、維持を実現した現象」(p.42)としている。

    著者は既往研究をひと通りまとめた後、まず分析対象時期のゲームソフトについてシリーズの始まり/継続作品の数、新規ジャンルの発生等とプラットフォーム(ハード)の変化等の要因を分析していき、ゲームソフトのイノベーションがごく初期の段階に集中していることを明らかにする。その時点で「ゲームとはこういうもの」というイメージの元がだいたい出て、移行は継続作品によって固まって行く(他にはPS発売時期にも新規ジャンルが出てきたりしている)。

    さらにその要因として、開発ノウハウが蓄積されていくことにより、それを活用し開発生産性を向上させることの方が、製品機能の拡充(革新的イノベーションにつながる)よりもパフォーマンスを高めるのでは、という仮説を立て、企業に対する質問紙調査と1997-1999年の売上データから「既存製品との類似性を優先し」「内部開発中心の開発活動を採用した」企業の方が高い成果を上げていることを実証する。
    このように開発ノウハウの蓄積による開発生産性の向上が製品機能拡充と両立しない、という現象が本書でいう「開発生産性のディレンマ」である。

    しかし企業単位で見れば有効な開発生産性優先の戦略は、業界全体としては創造的なイノベーションを停滞させ、ユーザに対する産業の魅力度を削ぐ・・・というのが「ゲーム離れ」へ、と論が展開していく(ちなみに内容が豊富なので触れられ切れていないがユーザとの関わりについての議論もあるし、企業での開発に関する事例研究等も)。


    本書のエッセンスのかなりの部分は上述の授業での15分間のプレゼンに盛り込まれていて、あらためて凄いプレゼンだったなあ、と思ったり。
    また、p.281から語られる「蓄積のパラダイム」(知識の蓄積量には最適点があって、知識を多く持ちすぎることで過剰な効率化が進み、ユーザにとって価値のある行動を企業が避けてしまうのでは)は、図書館情報学、ひいては知識や情報を扱う学問全体に対する示唆として非常に興味深い。
    いつかまた精読を要するかも。

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著者プロフィール

中央大学教授

「2025年 『経営情報論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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