日米関係史 (有斐閣ブックス 103)

著者 :
制作 : 五百旗頭 真 
  • 有斐閣
3.64
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本棚登録 : 93
感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784641183575

作品紹介・あらすじ

ペリー来航から今日にいたる150余年の日米関係には、挫折や破局もあったが、それを超えての立派な前進と業績もあった。20世紀のうちに「最も重要な2国間関係」とすら語られるようになった日米関係は、21世紀にどのような航路をたどるであろうか。それは、両国のみならず、アジア・太平洋地域と世界全体の境遇をも大きく左右するであろう。各章とも、日本外交、アメリカ外交の研究者が共同執筆し、草稿を研究会合宿において突き合わせ、噛み合わせ、議論し、新草稿を生み出すという作業を重ねて、本書は生まれた。さらに編者が全体を通して調整することによってできあがった、150余年に及ぶ日米関係を省察する決定版通史。

感想・レビュー・書評

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  • アメリカに翻弄された日本史

  • 日米関係の通史を、第一線の学者が熱をこめて執筆。歴史の文脈の中で、日米関係を考えるヒントになる。はしがきからおもしろい。

    九州大学
    ニックネーム:すず

  • アメリカ政府は吉田の退陣には冷静であったが、中国とソ連の関係改善に積極的な鳩山の就任には懸念を隠さなかった。
    岸は国連重視の姿勢を撃ち脱し、また反共アジアの盟主としての地位を築こうとした。
    ニクソンはキッシンジャーを安全保障問題担当大統領補佐官に任命し、国防省ではなく彼に沖縄返還問題をも担当させた。

    ブッシュ父にとってビジョンの欠如が外交の問題だったとすれば。クリントンの1期目は経験不足と無関心、2期目には優先順位の欠如が問題だったが、クリントンはアメリカの景気が上昇だったので救われた。

    ブッシュ外交の同盟重視は日米関係の蛇行に悩んできた日本にとっては奇貨だった。

  • ペリー提督による日本開国から9.11後の日米外交を通史的にまとめた概説書。課題図書でしたが楽しく読めました。全体的にものすごくよくまとまっている印象。
     批判的な評価よりは、いかに日米外交が「成功してきたか」を評価している。それ故、逆説的に外交官個人の能力に如何に日米関係が左右し、また頼られてきたかが浮き彫りにされており、いかにも不安定な印象を得た。日米関係は今まで漠然ともっとしっかりした基盤から成るものだと思っていた。おそらくは初等教育で受けた戦後日本のアメリカによる占領支配の歴史であったり、米軍基地の存在であったりだが、その占領支配の歴史も、米軍基地の存在も、幾度とない危うい外交の結果だったことに驚いた。その最初の日米関係の危機がペリー提督の時代からすでに始まっていたことを知ったのは、本書を開いて最初の衝撃だった。「日本か中国か」というアメリカの東アジア政策におけるジレンマと、またペリー提督の強硬な姿勢により日本を無理に開国させたというのも、政権が代わったもと大統領の信任を得ずに独断で行ったことと知り、彼がもしピアス大統領の命令を聞いていたら日本の開国は遅れていたのだろうと思うと、ここでも外交官個人の判断が今の日本をもたらしていると思うと感慨深い。
     日露戦争を経て、ヨーロッパ列強に並ぼうと「帝国主義」に傾倒するも、ヨーロッパ各国間ではもうすでにその思想が古くなっていたのに気付けなかった日本、という図はやるせなく感じた。このときに中国ナショナリズムを日本に向けてしまった、という歴史的遺恨がここに生まれたというのも印象深い。
     日本の軍部が独自の判断で開戦へ流れたことも興味深いが、ローズヴェルト大統領が開戦を望んでいたというのも気になった。第二次世界大戦開戦時には、日本は軍部を統制することができず、アメリカは大統領が開戦を望んでいた、という両者の外交官のトップの力がこうも直接的に働いているのかと思った。
     天皇の二度の「聖断」により終戦を向かえ、その後アメリカの委任統治下になったのはとても幸運だったように思われた。戦時は盟友であったソ連が共産化し、アメリカの対ソ政策の一環としてケナン構想が日本に持ち込まれたことにより賠償を免れ、日本の民主主義的経済発展がなされたことは大きいように思う。また170頁に記載のあるようにマッカーサー元帥が「非軍事化と民主化という初期の占領政策の2目標」を貫徹してくれたことも日本の軍事化防止に大きく貢献している。アメリカは早々に日本の非軍事化及び憲法9条について誤りであったと判断し、現代でも日本の軍備増強を求めている。私個人としても憲法9条を押しつけたアメリカ自身がこうも簡単に政策転換し軍備増強を求めてくるのは無責任に思える。が、集団安全保障の概念に憲法9条はどうしても馴染まないのが実情である。国際貢献のためには改正が必須である。理解を求めるには9条を尊ぶ現在の教育では難しいように思う。マッカーサーの政策のつけが今回ってきているのだとしたら皮肉だと感じた。また307頁のコラムは本書を読み進む中で徐々に意識させられてきたものだが、憲法9条の形骸化が明記されており衝撃的だった。同時にアメリカが設けた9条が、日米関係においては枷となってしまっているというのが大変残念に思われた。
     本書において、冷戦は、日本の発展に有利に働いたもののように映る。180頁、トルーマン政権時、東アジアにおける自由主義世界の重要な地点とアメリカにみなされたことにより日本の経済成長はより応援され、その中で「適切な」軍事を担うべきとされる。その中で日本が軍事増強に躊躇することにアメリカは苛立つことになるが、「アメリカが長期的な視野で日本を同盟国として育てていく道」の確立としては成功だったように思う。
     ニクソン大統領のくだりでは、日本の親米率が二年連続18%など、トップ一人の人柄だけで国と国という大きな関係がここまで揺らいでしまうものなのか、という印象を得た。それでもニクソン大統領の政策により冷え込む日米関係の下であっても、外交交渉に携わる外交官達のおかげで日米関係は危機的状況を潜り抜けることができた。こういう力は積み重ねてきた日米の関係というのがやはりものを言ったのだろうかと推測したい。
     253頁の「東海村での核燃料の再処理施設稼働問題」の項は現在の福島原発問題もあって興味深かった。エネルギーを渇望し、IAEAの視察も進んで受け入れる当時の日本政府の姿勢は健気に映る。しかし、我々国民はもちろんだが、技術者、専門家でさえ「核処理」については無知であることを思い知らされた今振り返ると、原子力発電を導入しているどの国にも言えることだが、危機管理の観点が甘かったと言わざるを得ない。他外国諸国では原発から脱し再生可能エネルギーに移っている。現在、日本内部の風評被害や放射能汚染も問題であるが、外部からの日本を危険と見なす目も広がっている。再び同じリスクを背負うという選択が果たして外交にどのような影響を及ぼすのか、今後も気になる。
     258頁以下に書かれている日本の脱アメリカ、親アジア化はニクソン大統領の影響もあったものであろう。「1970年代を通して日米関係は成熟した」というのは危機により日本も成長したことかと思われる。若干皮肉めいた結果かもしれないが、アメリカに寄り掛かりっ放しであった日本が独自の外交を打ち出せた転換点であろう。
     日本経済のバブル崩壊後、現在にも続いている「日本を軽視したり(ジャパン・パッシング)、無視したり(ジャパン・ナッシング)するアメリカの態度」が問題となった、とあるが、これを若干にしろ持ち直させるきっかけとなったのが冷戦終了に伴う中国の海への進出であることも皮肉めいている。アメリカはアジアの拠点として日本は戦略的に重要なパートナーであると位置づけるが、結局日米関係がここまで親密であるのは、ソ連もといロシアや、中国などの脅威に近しい要所としての扱いなのである。冷戦時の経過等を本書で追ううち何度もそのことを意識させられた。もちろん、アメリカの理想的な統治や、長期的な視線には感謝の念を憶えたし、アメリカ以外の他のどの国が日本を統治しても今のような経済大国にはなれなかったであろうと思われた。しかしアメリカは所詮日本の地理的位置を最も重要視しているのだと思うと暗い気持ちになった。
     未来に向け、日本人でしっかりとした対外政策を打ち出し、相手のタイミングを読める首相、外交官の活躍を望みたい。

  •  五百旗頭真を筆頭にして、総勢18名の日本外交史、アメリカ外交史の専門家による日米関係150年間の通史である。

    【構成】
    第1章 日米の遭遇と世界史への登場
         (簑原俊洋、五百旗頭薫)
    第2章 日露戦争と日米対等の時代
         (寺本康俊、簑原)
    第3章 第一次世界大戦と日米関係の再調整
         (簑原、高原秀介、村井良太)
    第4章 ワシントン体制
         (服部龍二、簑原)
    第5章 日本の戦争とアメリカの不承認
         (久保文明、服部龍二、服部聡)
    まとめ1 戦前期の日米関係-破局への道
         (五百旗頭真)
    第6章 日米戦争と日本占領
         (柴山太、楠綾子)
    第7章 パクス・アメリカーナの中の戦後日本
         (佐々木卓也、中西寛)
    第8章 日米協調の果実
         (五百旗頭真、佐々木)
    第9章 危機の中の日米関係
         (添谷芳秀、R.D.エルドリッヂ)
    第10章 新自由主義の時代
         (田中明彦、田所昌幸)
    第11章 冷戦後、9.11以後の日本とアメリカ
         (村田晃嗣)
    まとめ2 戦後期の日米関係-対抗と摩擦を超えて
         (五百旗頭真)


     先日レビューを掲載した細谷千博編『日米関係通史』が、9名の研究者の論文集であったのに対して、本書は第一人者から若手研究者を18名も集めて文字通りの「通史」を描こうとしている。
     もちろん個々の章について、より深い内容を求めようとすれば、いくらでも求められるだろうが、本書の目的は事実関係を詳細に追うことではない。本書の特筆すべき点は、「近代外交史」や「戦後外交」と銘打ちながらその実は、個々の事象を扱った論文のつなぎあわせに過ぎなかった日米の外交関係を、一貫した整合性を保持しながら概観しようとする努力が払われている点にある。

     戦前・戦後を問わず首尾一貫せずに主体性の無い日本外交には、数多くの批判が寄せられ、外交を論じるにあたってはある種の「政府批判」が込められている場合が多い。しかし、本書は(それをやや保守的と感じる人もあると思うが)そのような批判ではなく、日米両政府が築き上げてきた外交成果がいかに成功したのかという点を強調する。

     端的に言えば「なぜ戦前は破局を迎え、戦後は友好関係を築き得たのか?」この単純にして難解な問いの答えを、18名の共同執筆で出そうとするこのプロジェクトの意気込みは十分に伝わるし、特に戦前については神戸大学の簑原教授が中心になって明解なビジョンが設定されている。

     このような形で日米関係の通史がまとめられたこと自体が希有なことであるし、内容は完全に満足いくものでないにせよ、現時点でそして少なくとも今後10年で最も充実した日米外交史の概説書であると言えるだろう。

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著者プロフィール

熊本県立大学理事長・ひょうご震災記念21世紀研究機構理事長・神戸大学名誉教授

「2014年 『戦後日本外交史〔第3版補訂版〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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