- Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
- / ISBN・EAN: 9784642057783
感想・レビュー・書評
-
「忠臣という幻想」という副題ですが、いまどき南朝を忠臣の集団だと考えている人はいるのか!?という感じなのですが(笑)、課題の立て方といい、各章の見出しといい(○○対△△など)、用語や背景の説明レベルといい、安直な現代状況との連結といい、これはビキナーズ向け図書だなあと思っていたら、実際の記述は割と論点が集中・整理されていてなかなか面白かったです。(笑)南北朝動乱の流れは目まぐるしく、敵味方が入り乱れ、そしてそれが日本全国に分散して発生したりしているので、なかなか総合的に理解することが難しいのですが、本書ではさすがにきっちりとまとめられていました。
著者の記述にもありましたが、自分も佐藤進一の『南北朝の動乱』を読んで南北朝時代の変遷に魅せられたクチでして(笑)、政治とパワーバランスとオセロゲームのような成り行き(もういくつもほかに色が必要ですが)がとても面白く、戦前のような「忠臣」だの「逆賊」だのと「歴史教育」や「歴史認識」の素材だけで使われるにはもったいなさ過ぎるほど、私利私欲あり、権謀術数あり、原理主義路線あり、「敵の敵は味方」など節操のないマキャベリズム的な動きありと、登場人物全ての躍動感というか、生き生きとした人間臭さが爆発しているのが大きな魅力です。(笑)
後醍醐や後村上などの原理主義路線に加え、特に後醍醐の手段の節操の無さや、私利私欲ぶりにはみんな困っただろうなあと思うと可笑しくて仕方ないですが(笑)、その後醍醐を慕い続けた足利尊氏が、国家の行く末とか面倒で決着のつかないような課題に取り組む気などさらさらなく、テキトーな人間と著者が評していたのにも笑ってしまいました。武家に不利な寺社保護政策を打ち出した直義に何で直義党のような勢力が構築できたのかずっと疑問でしたが、著者は生真面目な直義の政治方針への可能性としていましたね。
また著者は、南北朝動乱の根本課題として恩賞の遅配や実効性の無さを挙げていましたが、著者の研究課題であったその対策としての管領執行システムの概要と成立過程の概説はとても興味深かったです。
南朝も北朝も決して一枚岩でないどころか、それぞれ一体いくつの岩があるんや?という動乱状況ですが(笑)、本書の主題である南朝側の「岩」をいくつも挙げ混沌とした南朝史の一面を人物で捉えた初心者本としてはなかなか良かったと思います。あまりにも混沌な状況なので、いまだに自分もあれ?これって何でこうなって結局どうなったんだっけ?とまた本書を振り返らなければならないですが・・・。(笑)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
表面上は南朝の間断のない内紛・抗争や非「道徳」性を取り上げ、皇国史観以来の「南朝=忠臣」幻想を打ち砕いているが、実は手の込んだ建武政権・後醍醐天皇再評価論である。恩賞宛行における施行状の発給システムが建武政権と室町幕府で継続していることを根拠として建武新政を再評価し、足利尊氏こそ後醍醐天皇の政治的後継者であったとするが、「建武政権は時代の先端を行きすぎた権力であり、周囲に理解されない先駆者の悲劇を味わった」(p.174)という政権の失敗を「周囲」に求める評価は、本書が批判対象とする皇国史観の平泉澄のものと変わりなく、極めて危険な考え方である。
一般に知られていない、あるいは忘却されていた史実を再発掘して固定された南北朝時代像を克服しようとする意欲は認めるが、いくら一般向けとはいえあまりにくだけた語り口や、性急に現代の政治状況に類似性を見出して「教訓」(文字通りそういう1章を設けている)を導く方法も正直不愉快だった。「歴史学とは高度な知的娯楽」(p.212)と断言してしまう歴史学研究者が京都大学のようなアカデミズムの中心から出現したことは、はっきり言って歴史学の将来に不安を抱かせる。 -
「南朝に留まれば、とりあえず忠臣?」について、建武政権から南北朝期、鎌倉時代の両統迭立に遡りながら解説している。足利荘が大覚寺統の八条院領とは知らなかったし、親王が多彩で暴れている時代は他に見ない、皇統の不安定さに特色がある。根幹には恩賞充行の実効性があり、建武は武士に優しく利益に配慮した改革政権だったが果たしきれず。室町幕府体制は、執事執行状(建武政権の雑訴決断所牒に伴う国司・守護の強制執行機能を手本)を基軸とし、鎌倉幕府からの画期で成った。忠臣は足元の諸事情を見据え南朝を選択したのだろう(2014年)
-
残っている資料が少ないと言われている南朝でも、これだけの内紛があったという事は、実際にはさらに色々あったんだろう。
北朝もかなりカオスな状況だったけど、南朝も変わらない。
だからこそ、ある意味ズルズルと南北朝の対立が続いたのだろう。
でも人の生き死にを除けば、現代の政治経済でもあまり変わらないかもしれない。
人の世はいつも同じだな。 -
本書のテーマの一つである南朝忠臣史観の克服については自分自身あまりその史観は持ってなかったため、純粋に南朝の歴史書として読んだ感がある。この時代の皇位を巡る対立構造の複雑さも改めてよく分かる内容でした。
-
歴史本で「真実」というのは死亡フラグなのだが、真実というか、史実を忠実に読み解きながら、従来語られていた「南朝」という存在のグダグダさと滅茶苦茶さをわかりやすく解説されており、何故ここまで無茶苦茶であったのかという視点の中での問題点を明らかにしているところが非常に面白かった。
-
平泉澄が「少年日本史」で記した、「吉野の君臣の忠烈、日月と光を争う」とした皇国史観に疑義をとなえる。
だけど南朝も北朝もなくて、どっちも自らの権益のために動いていただけ。建武の新政の理想を最も受け継いだのは、実は尊氏かもっていうのが、この著者らしいところかな。