大元帥と皇族軍人 大正・昭和編 (歴史文化ライブラリー 429)

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  • 吉川弘文館
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784642058292

作品紹介・あらすじ

相次ぐ戦勝で絶頂期に達した明治国家は、その後どのように変貌し、敗戦による陸海軍崩壊に至ったのか。天皇と皇族軍人の同調と不和の構図を追いつつ、日露戦後よりアジア・太平洋戦争終結にいたる、天皇を大元帥とした軍事システムの全盛から崩壊までを描き出す。世界の軍事的緊張のなか、再軍備を余儀なくされている現代日本社会に警鐘を鳴らす。

感想・レビュー・書評

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  • 前編は読んでいない。
    今回の「大正・昭和編」を読む限りは、全体的にひどく冗長でまとまりがなく、本編のテーマからは脱線すると思われる華族の凋落のような記述も長々とあるので、何を焦点にあてているのかがぼやけてしまっている。
    そもそも本書のテーマと、昭和天皇の子どもの頃の日常生活をずっと記述していく必要性や、各皇族の動向や暮らしぶり、華族の動向など、一体なんの関係があるのか?
    最後のエピローグにいたり、ようやく著者のいいたいところがまとめられていると思われ、延々と続いた「箇条書き」もおぼろげながら理解できるような始末であった。(率直にいってエピローグを簡潔に膨らませる記述で良かったのではないだろうか)
    また、タイトルからすると、皇族軍人が大元帥である天皇とどのような関わりをもったのかというのが本来のテーマであるので、(前編にはもしたらあるのかもしれないが)少なくともその前提として、各皇族=宮家と天皇家との系図なり、家系上の関係説明はもっと欲しいところだ。さらに掲載写真の説明やその人物の軍階級が記されないことがあるなど、不親切な部分もところどころあり、もう少し校正にも力を入れて欲しかった。
    逆に興味深かったのは、明治維新以前の皇族は京都の公家のイメージ通りの文化的生活(?)を送っていたのが、明治以後は、天皇=大元帥と位置づけられることの影響で、皇族男子もその藩屏として多くが軍に入り、それなりの教育・訓練を受けて軍の指導者としての地位を占めていたことである。その極め付けが、1931年(昭和六年)に陸軍参謀総長になった陸軍大将・閑院宮載仁と、翌年に海軍軍令部長になった海軍大将・伏見宮博恭の両巨頭体制であるだろう。但し、本来は天皇家をサポートする立場であるはずが、政治的に活性化した軍の代弁者として昭和天皇に対することが増えてきたともいい、自らの職分を逸脱した進言には不機嫌になったという昭和天皇にとっては次第に不愉快な存在になっていったということである。(二・二六事件では閑院宮載仁は参謀総長だったにも関わらず逃げ回っていたとのこと)
    こうした「キングの側」につかない皇族軍人は、昭和天皇にとってはストレス要因でしかなく、結局、太平洋戦争前に両者ともに交代することになるのだが、君主の立場を自覚するあまり、皇族の誰とも相談せずに一身に政治的課題に向き合った昭和天皇は皇族の中で孤立していたともいえ、弟である高松宮宣仁などは何の相談もしない兄・天皇に対し不満を感じていたとのことである。(終戦間際に高松宮が天皇に担がれそうになった理由でもある)
    『昭和天皇実録』の内容からみる昭和天皇の認識や考え方はそれなりに面白く、アジア・太平洋戦争においても細かい部分まで戦況を把握していて様々な指示や賞賛を行っていたことや、日中戦争当初は戦争不拡大を指示しながらも、日清・日露戦争で得た既得権益は手放したくなく、また平和交渉に向けての戦力均衡のための兵力増派や移住民を守ることを軍に楯にされるや、ずるずると戦争拡大を追認していく様などはとても興味深い。日中戦争もそうであったが、太平洋戦争でも最後まで一撃勝利後の和平交渉にこだわっており、強烈な君主意識を垣間見ることもできる。
    本書の記述に話を戻すと、昭和の各出来事に対する天皇と皇族軍人の関わり方の記述は、そもそも扱っていないか、顛末が尻切れトンボで終わっているところも多かったので、こちらの方に焦点を絞った方がより面白くなったのではないだろうか。残念。

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著者プロフィール

1952年東京都生まれ。静岡福祉大学名誉教授。立教大大学院文学研究科博士課程後期単位取得退学。国立国会図書館海外事情調査課非常勤職員、静岡福祉大社会福祉学部教授などを経て、現職。専門は日本近現代史。主な著書に『皇族 天皇家の近現代史』(中央公論新社)、『肖像で見る 歴代天皇125代』(角川新書)など多数。

「2019年 『幕末 志士の作法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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