二・二六事件と青年将校 (敗者の日本史 19)

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  • 吉川弘文館
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784642064651

感想・レビュー・書評

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  • 1936年に陸軍皇道派青年将校によって引き起こされた二・二六事件について、背景、詳細な経緯、その後への影響を論じた概説書。現在市販されている本の中では、本書が事件の全貌をもっとも明快に伝えていると思う。

    事件後の軍法会議についても紙幅が割かれていて、大逆事件以上に人権無視の裁判であったというのが筆者による評価である。巻末の文献ガイドでは、1冊ずつに著者からのコメントも付けられていて、参考になった。

  •  高橋正衛『二・二六事件』(中公新書)との比較だが、青年将校たちの甘い天皇観は共通する。他方、本書の方が新しい資料があるためか経緯が詳細だ。青年将校たちには天皇主義と、北一輝に影響された改造主義の両義性があったとする。また、真崎甚三郎個人の役割を過大評価せず、「直接的な意味での事件の背後的存在ではなかった」「クーデターなどは寝耳に水」としている。更に、事件当日、木戸幸一内大臣秘書官長の助言により天皇が暫定政権確立を何度も拒否したことを、反乱失敗に繋がったと高く評価している。
     巻末で著者は6点の論点を提示する。1.政治への影響(以後、萎縮効果により軍の政治への影響が増大)。2.軍の派閥対立(以後の皇道派・満州派・旧統制派、中でも「事件後の陸軍は統制派が支配」との言説には著者は明確に反論)。3.社会的影響(社会の平準化の発想は革新官僚や一部軍人、ひいては戦後改革や新憲法まで繋がる)。4.政軍関係論(選挙権すら認めない軍人の政治参加禁止が却って軍事クーデターの1つの要因となる)。5.天皇型政治文化(クーデターであっても天皇の「御聖断」を挟む必要があること)。6.青年将校運動の両義性(天皇主義と改造主義)。

  •  2・26事件の全体像に関する歴史学の研究書としては、北博昭『二・二六事件全検証』(朝日新聞社、2003年)や須崎慎一『二・二六事件―青年将校の意識と心理―』(吉川弘文館、2003年)などが既にあるが、軍法会議資料から事件前後の動きを再現することを目指したこれらに対して、本書は1918年の老壮会の設立から書き起こしているように、大正デモクラシー期の「改造」運動から「昭和維新」運動への流れの分析に紙幅を割き、事件前後の動きにとどまらず長いスパンで2・26に至る「原因」を捉えようとしている点に特色がある。前2著や著者の旧著『二・二六事件とその時代』(筑摩書房、2006年)以後に新たに判明した事実も加えており、現時点での2・26事件の研究の集大成かつ入門書といえよう。

  • 軍縮期に軍人としての生き方に懐疑心を抱いたり、自らの存在を根源から覆すもののなかに生きることによって亢進化された危機意識が、昭和恐慌期の悲惨な下層階級に遭遇したことにより限界を突破したのが青年将校の昭和維新であり、二・二六事件だったのである。青年将校たちは、政治参加を全く禁じられていたため、軍人のみに可能で最も効果も絶大なクーデターに走った面も強い、という解釈を施している。

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著者プロフィール

1948年生まれ。帝京大学文学部長・大学院文学研究科長。東京財団政策研究所主席研究員。専門は日本近現代史、歴史社会学。著書『昭和戦前期の政党政治』『天皇・コロナ・ポピュリズム』(以上、ちくま新書)、『昭和史講義』『昭和史講義2』『昭和史講義3』『昭和史講義【軍人篇】』『昭和史講義【戦前文化人篇】』『昭和史講義【戦後篇】上・下』『明治史講義【人物篇】』『大正史講義』『大正史講義【文化篇】』(以上編著、ちくま新書)、『戦前日本のポピュリズム』(中公新書)、『近衛文麿』(岩波現代文庫)、『満州事変はなぜ起きたのか』(中公選書)、『帝都復興の時代』(中公文庫)、『石橋湛山』(中公叢書)、『二・二六事件と青年将校』(吉川弘文館)など。

「2022年 『昭和史講義【戦後文化篇】(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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