飛鳥・藤原の歴史と遺産 上 宮都の建設と生活

  • 吉川弘文館 (2025年1月28日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (232ページ) / ISBN・EAN: 9784642084703

作品紹介・あらすじ

天皇や皇子の宮殿、蘇我氏の邸宅、寺院など、新たな発掘成果で人びとを絶えず魅了する飛鳥・藤原の地。宮殿の造営、都市の生活や景観、天皇の権威を示す儀礼、渡来人の技術導入を詳述し、万葉歌の情景にもふれ、今も姿をとどめる数々の史跡へと誘う。東アジア史の中で「日本国」の誕生と文明化の過程を跡づけ、世界に誇れる遺跡群の価値を発信する。

感想・レビュー・書評

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  • 飛鳥・藤原地域を「地下の遺構が文献の沈黙を補完・修正し、国家形成の過程を詳細に語る資産」と位置づける考古学に基づく通史。本書の特色は、「なぜ人々は古墳を作るのをやめたのか」「都で人々はどう排泄していたのか」といった、制度史だけでは見えない飛鳥のリアリティを発掘成果から復元する点にある。天智・天武がめざした「文明国家」の形が、地面を掘り起こすことで生々しく立ち上がってくる。

    本書は、飛鳥・藤原時代を、隋唐の先進制度・技術を受容し、伝統と融合させて「日本化」した「古代の文明開化」と定義する。「文明化」による社会変革として、巨大古墳や副葬品を「非文明の愚俗」と断じ、死生観・美意識の切断を政治改革と並行させた。大化の薄葬令は「旧い愚俗」との断絶と価値観の転換を宣言する改革語彙として位置づけられる。

    前方後円墳から八角形墳(天皇陵)への変容は、権力絶対化の物証とされる。八角形墳は天皇特有の墳墓で、中国の道教的政治思想に基づき、権力の絶対化を象徴する。

    宮殿構造と権力の視覚化として、住居と政治の未分化な状態から、朝堂院・大極殿・官衙が一体配置された藤原宮へ。建築配置そのものが政治理念を表す変容が描かれる。乙巳の変後の難波宮は、内裏・朝堂院が整った「本格的宮殿の原型」を提示したとされる。

    斉明朝については、漏刻(水時計)の設置は「時の支配」を意味し、官人層の勤務管理(朝参時刻制)を可能にする統治インフラであったとする。斉明朝の技術的・政治的画期として、この時代を「都づくりの画期」として再評価する。

    水落遺跡の漏刻台は、地中梁工法による堅固な基礎で、1階に時計装置、2階に鐘鼓を備えた楼状建物として復元される。時報運用の具体的イメージを提供する。漏刻とは水時計で、授時頒暦(時を与える)という天子の大権を具現化した装置とされる。

    「狂心ノ渠(たぶれごころのみぞ)」は、斉明朝に掘削された運河で、物流・水利の先進性ゆえに、旧来の価値観を持つ人々から「狂心」と非難されたとされる。新事業が社会摩擦を伴うことを示す事例として興味深い。

    「京」の広域性と連続性として、天武朝の「京」は既に後の藤原京域を含む広域に及び、「新益京」はその前史としての条坊地割を継承して完成されたとする。新益京とは藤原京の呼称で、飛鳥の都が西北へ「拡大した都」を意味する。

    都市問題の発生と対応として、人口集中による汚物・悪臭・疫病が深刻化し、共同水洗便所や医療・呪禁制度が行政として整備された。藤原宮の共同便所は大溝(運河)上に建てられた細長い建物で、籌木(拭い木)が集中出土し、官人の衛生管理の実態を示す。

    物流の定量については、瓦370枚を運ぶのに人47人が必要(一人約40kg負担)で、車一両は人の約10倍の積載量という試算が提示される。造寺・造宮の「人手換算」をそのまま場面に落とせる具体的データとして有用。

    元旦朝賀などの国家儀礼については、幢幡(どうばん)と呼ばれる七本の旗が立てられた。これは陰陽五行・道教的宇宙観を示し、高松塚・キトラ壁画の図像と一致する。儀礼空間に色彩・配置・所作の密度が生じる様子が描かれる。

    天智期関連では、中大兄皇子(天智)による漏刻初造が斉明6年(660)とされ、「時の支配者」として、官人層に時刻を通知し朝参・退朝を秩序づける、律令官僚制の前史として位置づけられる。川原寺建立は天智期で、母・斉明の追福のため川原宮跡に建立。唐尺・唐様式瓦を初採用した「唐風化」の起点とされる。冠位二十六階の制定は天智3年で、官位の細分化=官人層の増大と、それに伴う官衙の宮外への拡張・京の形成に直結する。

    注意点として、藤原京の規模と計画性については、現在主流の「十条十坊(東西5.3km)」説に対し、地形的制約や飛鳥中枢部(山田道以南)での道路未検出、地名(林坊等)の残存を根拠に、造都の不徹底さや「前史(天武朝の京)の継承」を強調する立場を取っている。著者は「飛鳥・藤原」の世界遺産登録を推進する立場であり、評価基準としての「価値の証明」に論理の重きを置いている点に留意が必要。

    吉川弘文館の専門研究書だが、図版、地図、復原模型写真が多く、万葉歌との対応もあるため視覚的に理解しやすい初学者向け。「瓦の重さ」「便所の構造」「時報の音」など、生活感と国家設計の両面から解像度を上げる材料が豊富。創作の舞台設定において、単なる知識を「実感」に変えてくれる一冊。

  • 【本学OPACへのリンク☟】

    https://opac123.tsuda.ac.jp/opac/volume/732021

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著者プロフィール

1941年東京都生まれ。東京教育大学文学研究科修士課程修了。’68年
奈良国立文化財研究所に入り、平城宮・京の発掘調査に従事。’70〜
’90年まで、飛鳥・藤原京の発掘調査・研究に携わる。’90〜2007年ま
で東京学芸大学教授、’11年まで同特任教授。現在、東京学芸大学名誉
教授。
主要著書『飛鳥・藤原の都を掘る』(吉川弘文館 1993)、『藤原京』
(中央公論新社 2003)、『飛鳥幻の寺—大官大寺の謎』(角川書店
2005)、『飛鳥から藤原京へ』(共著、吉川弘文館 2010)、『古代
の漏刻と時刻制度―東アジアと日本』(吉川弘文館 2020)。

「2020年 『大安寺 国家筆頭大寺へのあゆみ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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