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本 ・本 (214ページ) / ISBN・EAN: 9784652001622
感想・レビュー・書評
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小学校6年生の教科書にも採用されている表題作「川とノリオ」をはじめとする短編集。狩猟法をテーマとした「ツグミ」を除くと、どの短編も、原爆や戦争の記憶がテーマとなっている。
教科書で掲載されている「川とノリオ」が、戦争をテーマとした小説として一番好きだったこともあって読んだ。他の作品も、好きだった。
広島への原爆投下を題材にした「川とノリオ」。アメリカによる原水爆実験による第五福竜丸をはじめとする漁船員被曝から書かれた「トビウオのぼうやは病気です」と「キノコの町」。どちらにも共通しているのは、視点人物になっている登場人物たちが、幼いがゆえに、人ではないがゆえに、何が起こったのかを理解できないことだ。
ノリオのところには、ある日突然、「かあちゃん」が帰ってこなくなる。幼いノリオには、その意味は理解できず、ただ、突如、「かあちゃん」の手の温もりと、川に流された物が消えてしまった経験だけがある。
「トビウオのぼうやは病気です」も同じで、トビウオの家族は、自分の「ぼうや」がどうして「病気」になってしまったのかがわからない。あるのは、突如として、苦しむこととなった「ぼうや」と、海に浮かぶたくさんの魚たちの死骸だけだった。
その意味を知ることもなく、ただ、悲しい経験だけがある。そういった物語が訴える力は大きいように思う。
他の作品と比べて、異質だったのは、「休火山」とそれに続く「王さまヒツジの頭は二つ」だったように思う。休火山である「サモーイ」は、火山であるがゆえに、望まず多くの自然や動物たちを傷つける運命にある。「サモーイ」は、物語の最後、噴火することをなんとか堪えようとするが、結局、大爆発を起こしてしまったことが、次の「王さまヒツジの頭は二つ」で明かされる。その噴火は、ヤギとヒツジの間に、大きな戦争を引き起こしてしまう。
人を傷つけること運命づけられるのは、どんな気持ちだろうか。本人の望むと望まないとにかかわらず、人を傷つける才能だけが与えられた火山の悲しさがある。
どの作品も、戦争という意味ではなく、肌に触れる感覚を通して、何かが失われる悲しみが描かれているのだと思う。様々な人に、読んでもらいたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
6年生国語の教科書の作品。短編を通して読むと、作者が表そうとしているものがより分かってきた。大人になって読むと、感じ方がかなり違う。
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長男の教科書に載っていたので、夏休みの感想文候補…として注文。
川とノリオが表題作として収録されてる他にも、5.6編の短編が収録されています。今日、サラッと読んでみて、印象に残ったのが回転木馬と枯れ木…でした。
印象に残った…というか、色々疑問点があるんですよね。それは描かれてる年、日時はいつなのか…てこと。主人公は美術館にピカソ展を見に行くも、チケットの誤植?のせいか既に前日に展示会は終了していた。たまたま出会った少年少女と楽しくも哀しい体験をするわけですが…。この体験は3月10日の日付が起こした幻想?
去年、6年生だった長男もこの春に中学生になり、今は夏休み前の7月。たまたま知り合いの方に川とノリオの説明をしたので、再読。そして回転木馬の話を再読。去年、やや不可解だった日付のレトリック。主人公のぼくが美術館を訪ね損ねたのは3月10日。奇しくもこの日は東京大空襲の日であった。観るつもりだったのはピカソ展。上野、ピカソ展、戦後…で検索したところ、上野の近代美術館で1964年にピカソ展があったようです。作者のいぬいとみこさんは、実際に開催されたピカソ展を書いたのか、架空の展覧会だったのかは分かりませんが…。設定としては戦後10年〜30年後の3月10日だったのだと思う。(回転木馬の初出誌は1977年)おそらくは戦争を知らない世代の主人公が、上野公園内の遊具のある場所でひとときの眠りの間に出会った少年少女…お金を渡したひげの浮浪者は夢か現か…。ひげの男性は後にも重要なポイントで登場する。
少年少女は誰だったのだろう…お雛様?それとも桃の節句をお祝いした幼い女の子とその兄なんだろうか。
著者プロフィール
いぬいとみこの作品





