みずはつめたい: 辻征夫詩集 (詩と歩こう)

  • 理論社
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  • Amazon.co.jp ・本 (118ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784652038437

感想・レビュー・書評

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  • 辻征夫さんの詩集ですね。
    辻征夫(1939~2000)が亡くなられてから編まれた詩集です。
    2004年7月発行。
    選者・著者は水内喜久雄さん(1951年生まれ)作家、詩編の編集等をされています。
    可愛らしいイラストも添えられていて、作者は大滝まみさん(1963年生まれ)イラストレーターの方です。
    辻征夫さんの詩は、受け入れやすく、端的な表現で、メルヘン的でもあり、ロマンにあふれています。どきりとする言葉がさりげなく籠められています。
    学生の方でも親しみやすく、最初に手にする詩集には善いかもしれませんね。

      雲

     男の子っての
     どうして雲が好きなのかしらね
     おばさん 小さな女の子だったけど
     こんなおばさんになってもまだ
     わからないわ どうしてなの?
     雲ってね おばさん
     未来とか とおい国とか まだ出会わないひととか
     なんだかそういうものを感じさせるんだ
     だから雲を見ながら
     夢を見ているのさ男の子はー
     それじゃ小さな雲だったら
     小さな夢なの?
     大きな大きな黒雲だったらどうなのよ
     嵐が来るかも知れないのにー

     どうしても わかってくれない
     白い ふっくらした
     雲みたいなぼくのおばさん

      
       立ちどまる

     立ちどまる
     ことが好きに
     なった

     どこか
     そのへんに
     立って動かず
     たとえば朝
     八時五十数分の
     瞬時の世界を感じている

     眼を閉じると
     見えない星
     ドセイも
     ちかづいてくる

    親近感がすごく持てる詩人さんです。
    水内喜久雄さんのエッセイも辻征夫さんの人柄をよく紹介されています。
    優しさに浸りたいたい、ゆったりしたい時に読みたい詩集ですね。

  • ブク友さんにコメントをもらい、もうちょっとだけ辻征夫さんの詩を知りたくなった。
    雨が好きな私はやはり『雨』のタイトルを真っ先に見つけた。

             雨                 

      耳たぶにときたま
      妖精がきてぶらさがる
      虻みたいなものだが 声は静かだ
      「いまなにをしているの?」
      街に降る雨を見ている
      テレビは付けっぱなしだが
      それはわざとしていることだ
      だれもいない空間に
      放映を続けるテレビ
      好きなんだそういうものが
      (それでなにをしているの)
      雨をみている
      雨って
      ひとつぶひとつぶを見ようとすると
      せわしなくて疲れるものだ
      雨の向こうに
      工場とか
      突堤の先の
      あれはなんだろう
      流木だかひとだかわからない
      たとえばああいうものを見ながら雨のぜんたいを
      見ているのがいちばんいい
      そういうものなんだ 雨は
      (むずかしいにね ずいぶん)
      何気ないことはなんだってむずかしいさ
      虻にはわからないだろうけど
      (妖精よ あなたの雨の ひとつぶくらいのわたしですけれど)

    少しづつページを繰っているのだが、昨日読んだ『蟻の涙』に心惹かれた。”雀の涙”ってきいたことあるけれど、”蟻の涙”とは! 辞書によると類表現に”蚊の涙”というのがあった。それより”蟻の涙”の方がずっと素敵。

           蟻の涙

    どこかとおくにいるだれでもいいだれかではなく
    かずおおくの若いひとたちのなかの
    任意のひとりでもなく
    この世界にひとりしかいない
    いまこのページを読んでいる
    あなたがいちばんききたい言葉はなんだろうか

    人間と呼ばれる数十億のなかの
    あなたが知らないどこかのだれかではなく
    いまこの詩を書きはじめて題名のわきに
    漢字三字の名を記したぼくは
    たとえばこういう言葉をききたいと思う
    きみがどんなに悪人であり俗物であっても

    きみのなかに残っているにちがいない
    ちいさな無垢をわたしは信ずる
    それがたとえ蟻の涙ほどのちいささであっても
    それがあるかぎりきみはあるとき
    たちあがることができる
    世界はきみが荒れすさんでいるときも
    君を信じている

    身体が不調続きの日々、不覚にも涙が零れそうになった。

    • あおいそらさん
      君を信じてるーー私も涙が出ました。どうぞお体大切に!
      君を信じてるーー私も涙が出ました。どうぞお体大切に!
      2022/11/03
    • しずくさん
      そらさん、エールコメントをありがとうございました。
      昨日はお天気も良く思いきって山登りへ~。サクサクと落ち葉を踏んで歩く音や、風が心地よか...
      そらさん、エールコメントをありがとうございました。
      昨日はお天気も良く思いきって山登りへ~。サクサクと落ち葉を踏んで歩く音や、風が心地よかったです。
      想像以上に紅葉が随分下りてきていました。
      そらさんもキャンプに行かれたでしょうか? 
      お友達やご家族で、それともソロキャンプを楽しまれるのかしら?



      2022/11/04
    • あおいそらさん
      いえいえ、もっぱら温泉派です。今年は秋らしい秋のようで、嬉しいですね。最近、青い空に流れるようなすじ雲やうろこ雲が綺麗で、見とれてしまいます...
      いえいえ、もっぱら温泉派です。今年は秋らしい秋のようで、嬉しいですね。最近、青い空に流れるようなすじ雲やうろこ雲が綺麗で、見とれてしまいます。昨日は本屋さんを歩いて、読みたい本にも見とれてしまいました〜。
      2022/11/06
  • なんか。いいなと思った、ひさしぶしの詩人さん。もう、お亡くなりになっているんですね。ちょっと気に入った感じなので、ぽつぽつと他の詩集も読んでいってみようと思いました。

  • あたたかい、と思った。

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著者プロフィール

1939~2000。詩人。


「2015年 『混声合唱とピアノのための 未確認飛行物体』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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