倒立する塔の殺人 (ミステリーYA!)

著者 :
  • 理論社
3.60
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感想 : 133
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  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784652086155

感想・レビュー・書評

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  • なんと官能的で美しい文章なんだろう。
    官能的であるけれど、
    情緒があり慎み深い文体が品性を失わず、
    センチメンタルな少女たちの幻想譚に命を吹き込む。

    皆川さんを読んだのは初めてだったけど、
    発表当時で75歳を過ぎていたというから驚きだし、
    戦時中の詳細な暮らしぶりと
    お嬢様たちの違和感のない描き方は皆川さんが戦争経験者で
    本当のお嬢様だったからこそのリアルさなのかな。


    戦時中のミッションスクール。
    図書館で偶然見つけた
    チョコレート色の模造皮と孔雀模様のマーブル紙で飾られた美しいノートには
    『倒立する塔の殺人』というタイトルだけ記されてあった。
    少女たちの間では小説の回し書きが流行していて、
    ノートに出会った者は続きを書き継がなければならない。
    それぞれの物語を綴っていく少女たちだったが、
    やがてひとりの少女の不可思議な死をきっかけに
    物語は驚愕の結末を迎える…。


    主要キャラは5人。

    土管型のずんどう体型で庶民的な家に生まれたため、
    クラスで変わり者と見なされ
    異分子を略したあだ名のイブと呼ばれる少女、阿部欣子(あべ・きんこ)。

    華奢な体格で力はないが、成績優秀で可愛く
    誰からも好意を持たれている14才のお嬢様、三輪小枝(みわ・さえだ)。

    空襲時なぜかチャペルにいたことにより亡くなった
    ミッションスクールに通う小枝の憧れの先輩、20才の上月葎子(こうづき・りつこ)。

    絵を描くことが趣味で西洋人形のような顔立ちをした
    葎子のルームメイト、七尾杏子(ななお・きょうこ)。

    ミッションスクールの生徒で
    いつもだらしない格好をしてることから
    ジダラック(自堕落)のあだ名で呼ばれている設楽久仁子(しだら・くにこ)。


    三輪小枝の依頼を受け、三人の少女たちで回し書きされた小説『倒立する塔の殺人』に隠された、
    上月葎子の死の真相に迫る阿部欣子。

    夢見がちなミッションスクールの少女たちの中で
    ひとり現実的で地に足のついたベー様こと阿部欣子のキャラがいいですね。

    そしてある意味、我が道を行く、
    聡明で早熟なジダラックの
    凛としたスタンスに個人的には共感でした。

    女子寮を取り巻く
    鋭い棘で武装した蔓薔薇。
    銀紙に包まれたチョコレートの
    涙が出そうな甘い味。
    防空壕にこだまする少女たちが歌う「美しく青きドナウ」。
    壁に掛けられたエル・グレコの「十字架を抱くキリスト」。
    音楽室から聞こえてくるショパンのポロネーズ第四番。
    軽やかにステップを踏みダンス
    を踊る、憧れの御姉様たち。
    少女がそらんじるアルチュール・ランボーの「酔いどれ船」、
    同性を思慕し合う女学院特有のS(シスター)という奇妙な関係。
    死に往く男たちの悲愴感に恋をし、
    毒が溶けた物語を養分としなければ生きていけない、
    儚くて残酷な少女たち。

    思春期特有の危うさや脆さ、
    異端者に対する残酷さと
    少女たちの聖域とも言える閉鎖的世界の
    なんと官能的で甘美なことか。

    現実世界と少女たちが書く物語とが絶妙に交錯して、
    何が現実で何が虚構なのか分からなくなる構成は見事だし、
    この複雑な作りが物語をより耽美で幻想的なものにしています。
    そして戦時中という、いつ命を落とすかもしれない不穏な時期を物語に選んだことによって、
    より少女たちの儚さを鮮烈に浮かび上がらせるのです。

    今回この小説を読んで
    「思慕」と「憎しみ」は紙一重なのだろうとあらためて思いました。


    それにしてもジダラック、
    本当にいい子じゃないか!(笑)
    もう少し早くに優しくしてあげても良かったのに…。
    そしてベー様と小枝とジダラックの物語をまだまだ読んでいたかったなぁ~( >_<)


    小川洋子が描く官能美に酔いしれる
    『寡黙な死骸 みだらな弔い』『薬指の標本』、

    お嬢様学校の異端者だけが集う「読書クラブ」と
    少女たちがノートを書き綴るという設定が
    本作とも共通する
    桜庭一樹の『青年のための読書クラブ』、

    聡明でいて残酷な少女たちの心理合戦が秀逸な
    友桐夏の『星を撃ち落とす』、

    少女たちの神隠し事件を追った
    ピーター・ウィアー監督の『ピクニック at ハンギング・ロック』、

    死に囚われた少女たちを幻想的に描いた
    ソフィア・コッポラのデビュー作『 ヴァージン・スーサイズ』など、
    少女たちの儚さや
    官能的な死の匂いを感じさせる映画や小説が好きなら、
    必ずハマる世界観の作品です。

    ビビビときたアナタは是非是非!
    (そして紹介してくれたkwosaさんに感謝!!)

    あっ、文庫版より、
    理論社のミステリーYA!シリーズ版の方が
    装帳やイラストがホント美しいのでオススメです。

    • 円軌道の外さん

      kwosaさん、お帰りなさ~い(笑)
      ここにもコメントありがとうございます!

      あはは(笑)
      レビューはだいたい読み終わってすぐ...

      kwosaさん、お帰りなさ~い(笑)
      ここにもコメントありがとうございます!

      あはは(笑)
      レビューはだいたい読み終わってすぐの状態で興奮して書いてるので、
      あとで冷静になって読み返すと
      恥ずかしいっスわ~( >_<)

      いや、皆川さん、ホンマスゴいっスね。
      kwosaさんの言うように
      世界観は好みでもあのお年だから会話とかちょっと古くさく感じたりして…
      なぁ~んて失礼ながら読む前は勝手に思ってたんですが(笑)
      まったくの杞憂だったし、
      古くさいどころか作者名言わなきゃ、若手作家が書いたのかと思うくらい新しくて瑞々しい感性を感じさせて、
      ホンマ嬉しいビックリでした(^^;)

      あっ、『開かせていただき光栄です』も
      かなりの傑作みたいですよね。

      しかし、『トマトゲーム』の帯の惹句めちゃ気になる書き方ですね(笑)
      文庫で出るんかな?

      あっ、この前図書館で服部まゆみの『この闇と光』探したんやけど、残念ながら貸し出し中やったんで
      せっかくやから文庫で買うかな~(笑)
      kwosaさんのその力の入ったオススメ具合やと
      絶対僕が気に入りそうな世界観やということやろし(笑)

      それにしてもkwosaさんの紹介にハズレはないし、
      皆川さんもホンマ感謝感謝っスよー(^^)
      ありがとうございました!



      2015/05/30
    • kwosaさん
      『トマトゲーム』はハヤカワ文庫みたいですよ。
      しかも過去の単行本と文庫でそれぞれ未収録だった一編をすべて収めた完全版らしいです。
      読みた...
      『トマトゲーム』はハヤカワ文庫みたいですよ。
      しかも過去の単行本と文庫でそれぞれ未収録だった一編をすべて収めた完全版らしいです。
      読みたいけどちょっと表紙が苦手なんですよねぇ。

      皆川博子さんには『聖女の島』って傑作もあるんですけど、これも人形系の表紙で家に置いとくのが怖いんですよ、僕。

      『聖女の島』表紙変えて復刊されないかな。
      素行不良の少女たちが軍艦島みたいな矯正施設で、監理する修道女たちとバトルを繰り広げるという凄い話を、あの格調高い文体でやってしまうんです。そして......
      ちょっと興味出てきません?
      2015/05/31
    • 円軌道の外さん

      kwosaさん、ここにもコメント返しありがとうございます!

      『トマトゲーム』はハヤカワ文庫ですか!
      情報感謝感激です(^^)
      ...

      kwosaさん、ここにもコメント返しありがとうございます!

      『トマトゲーム』はハヤカワ文庫ですか!
      情報感謝感激です(^^)

      めちゃくちゃ気になってきましたよ~(笑)
      表紙が苦手って、もしやラノベ風味なんですかね~?
      僕も 『ビブリア古書堂の事件手帖』や
      森見さんの『夜は短し歩けよ乙女』は読みたいんやけど、
      表紙のせいで、なかなかレジまで持っていけなかったなぁ~(笑)
      (本を普段読まない層にアピールするためか、最近やたらとラノベチックなイラストの表紙が目立つんやけど、本当の本好きはあの表紙のおかげで敬遠してしまうような気がします)

      なぁ~んて、書いたけど、
      違うんか~!(笑)
      人形系の表紙ですか~(^^;)
      つまり、幼い頃のトラウマか何かで気持ち悪いとか怖いってことなんですね。

      でも分かりますよ~(^^)
      気持ち悪い表紙と言えば、僕は80年代の角川文庫の横溝正史シリーズのおどろおどろしい表紙の絵柄が生理的にダメでした(汗)
      もう表紙に触れると呪われるから(笑)
      (勝手に思ってたんです)

      部屋で見かけたら常にビクビクしてました(笑)
      (中学時代同居してた叔父さんがよく読んでたのです笑)

      つか、 kwosaさん、
      あおり文上手いから(笑)
      『聖女の島』めちゃくちゃ読みたくなりましたよ!
      皆川版バトルロワイヤルみたいなんをイメージしたけど、
      ちょっと違うかな?(笑)
      壊れて落ちていく二人組みの設定もそうやけど、
      幽閉された力のない少女たちが戦う話も好きなんですよね~(笑)
      もう『次読むリスト』入りしたんで、
      近々探してみます!(^^)




      2015/06/11
  • 三浦しをんの『本屋さんで待ち合わせ』にて紹介されて、ずっと読んでみたかったこの本を、先日図書館でたまたま覗いたヤングコーナーで見つけて「ここにあったのか!」と早速借りてきました。
    実はちゃんと皆川博子さんの本を読むのは初めてで、勝手なイメージで小難しそうと思っていたし、読み始めると戦時中の話で驚いたが、もう物凄く引き込まれて一気に読んでしまった。戦時中のミッションスクールが舞台で、甘美な女子校の雰囲気と、真実と虚実の危うい感じがとても好みだった。
    皆川さん70代でこの作品…素晴らしい。

  • 一冊の本にリレー形式で書かれる手記と小説。少女達の失踪、ゴシックロマン、戦中、戦後の女学校を舞台とした百合小説。
    ミステリとしては、序盤なんだかわからない雰囲気なのだが、シンプルに謎が解けていき、刹那的に物語が進んでいくのはたまらない。唯一無二な作者だなぁ。

  • ラノベ感覚で読みはじめたら、なんか全然違って読みにくくて戸惑ってしまった。
    耽美で古典的な文調と、戦中のモンペ姿で軍需工場に駆り出され空襲で家族を失う彼女たちの現実が相まって、なんともいえない雰囲気でした。

    「倒立する塔の殺人」という回し書きの小説とそれに付随する手記で語られている部分と、日常を描いているところとだんだん混ざってきてすごい独特な空気感になってます。
    女子高っていう閉塞的な乙女空間は、いつの時代も美しくも残酷で、刹那的で強かだなぁ。

  • 皆川さんの作品のなかでは、読みやすかった。
    散らばっていた謎が後半すっきり解ける。
    特に意外性はなかった。

    少女特有の執着と残酷さは、共感できる。






    実在した教師の話が辺境図書館にうっすら載っていて、読んだ。

    戦時中は周囲に責められないように隠れていた教師。
    作中でも軽くしか出ないが、こんな大人がいるから、人間不信になっていく。




  • 正確に書くと星3.7。
    怖いわ!というのが読み終わって1番大きな感想だった。
    theミステリーという感じで、戦時中の少女たちがある小説を書いていくのと同時に、現実でも事件が……。構成はあまりない感じで面白かった。
    これはかなりの人が犯人を当てられないと思う。
    YAなのであんまり怖くないかと思って寝る前に読んだのは失敗だった。
    絶対YAじゃなくて普通の文芸にするべきだと思う。
    内容でも結構怖いが、とどめに最後の絵画。
    夜だったから余計に不気味だった。

  • エッあの皆川先生がYAレーベルで執筆!!?と大層驚いたそこのあなた。
    安心してください、いつもの皆川博子ですよ。
    ちゃんと戦時中の陰惨な日常風景あり、女学生の淡くドロドロした慕情あり、ほんのり同性愛描写あり、耽美かつ猟奇的ミステリあり。見事です。

  • 戦時中のミッションスクール。図書館の本の中にまぎれて、ひっそり置かれた美しいノート。蔓薔薇模様の囲みの中には、タイトルだけが記されている。『倒立する塔の殺人』。少女たちの間では、小説の回し書きが流行していた。ノートに出会った者は続きを書き継ぐ。手から手へと、物語はめぐり、想いもめぐる。やがてひとりの少女の不思議な死をきっかけに、物語は驚くべき結末を迎える…。物語が物語を生み、秘められた思惑が絡み合う。万華鏡のように美しい幻想的な物語。

  • 「これぞ流浪の人の群れ まなこ光り髪きよら」開いたページにあった『流浪の民』のサビ。もの悲しさと同時に情熱を秘めたこの歌は小説全体に漂う雰囲気そのものでした。戦争で家も家族もなくし、明日の命の保証さえないけれどそれぞれに自分の道を歩もうとする姿には強さを感じます。しかし敬語でおしゃべりするような少女たちの学院生活は「禁断の」という言葉を付けたくなるなんとも異質な世界。歪んだ愛が痛々しい。ミステリーYA? 私には純文学のように思えた。「イブであってイヴではない」べー様が魅力的でした。装丁が素敵。

  • 孔雀羽を模したマーブル模様のノートにそれぞれの少女が書き記した小説「倒立する塔の殺人」それは、ある少女の過去を糾弾するために用意されたものであった。海外文学に馴染みがないひとは少し頭がいたい。文章がスッと入らず、苦しかった。しかし、中盤より盛り上がり。最後の展開はあっと驚いた。事の始まりはとある二人の少女ではなかったのか。すっかり騙されてしまった。戦争の気配が濃く、全体的に暗い。少女たちの感情も嫉妬、恋慕などが渦巻いて、心にわだかまる。彼女達は無垢で残酷である。

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著者プロフィール

皆川博子(みながわ・ひろこ)
1930年旧朝鮮京城市生まれ。東京女子大学英文科中退。73年に「アルカディアの夏」で小説現代新人賞を受賞し、その後は、ミステリ、幻想小説、歴史小説、時代小説を主に創作を続ける。『壁 旅芝居殺人事件』で第38回日本推理作家協会賞を、『恋紅』で第95回直木賞を、『薔薇忌』で第3回柴田錬三郎賞を、『死の泉』で第32回吉川英治文学賞を、『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―』で第12回本格ミステリ大賞を受賞。2013年にはその功績を認められ、第16回日本ミステリー文学大賞に輝き、2015年には文化功労者に選出されるなど、第一線で活躍し続けている。

「2023年 『天涯図書館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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