あしたの幸福

著者 :
  • 理論社
4.14
  • (25)
  • (35)
  • (13)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 275
感想 : 27
  • Amazon.co.jp ・本 (287ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784652204177

作品紹介・あらすじ

父の死を受け、親戚の家に世話になりたくない雨音は、ふりきった選択をする。それは幼い頃に家を出た産みの母に保護者になってもらうこと。「利用」「生きる術」とわりきり、自分の居場所を守ろうとする彼女がさわる幸せとは?

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 父とふたりだけで暮らしていた中学2年生の雨音は、突然の事故で父を亡くしたあと、伯母の家でも施設でもなく、今まで通りの暮らしをしたいと思っていた。そんなとき、幼少期に父と離婚した実の母から「私と一緒に住みますか?」との提案があり、雨音はそれを受け入れることにする。国吉と名乗ったその人は、極端に人間関係に不器用で、母らしくもなく、直接的な物言いしかできなかったが、料理人をしているだけあって、料理はうまかった。父と婚約していた帆波が線香を上げに訪問してきたとき、父の子を妊娠しているから、雨音たちの家に同居したいと申し出る。帆波がそうしたいのならと雨音が承知して、前妻とその娘と婚約者との奇妙な同居生活が始まった。

    無意識に周囲に距離を置いていた少女が、父の死によって、父やその婚約者だけでなく産みの母からも愛を受けていたことに気づき、もっと理解していきたいと思い始める物語。






    ******* ここからはネタバレ 

    いいお話のようなんですけど、この物語ならではの特異性に支えられている部分がかなり大きいと感じました。

    まず、父の前妻と婚約者が、多感な中学2年生の少女と一緒に生活するというシチュエーションに驚きます。
    まあ、肝心の父親が他界しているからこそ、前妻の国吉が一風変わったキャラクターだからこそできることだと思います。前夫の子どもを妊娠中の女との同居なんて、一般的にはしたくないことでしょうから。

    そして、この父娘もすごいです。
    父娘の父子家庭の場合、同性の親子のときよりもはるかに結びつきは固くなります。娘はある意味父の妻のような存在となることも少なくないので、後妻が受け入れられるのは相当難しいです。
    さらに、もし愛情に飢えていた場合は、その不足分を新たな親に一気に求める傾向があるので、甘えや気を引くための反抗、本当に親と信じていいのかといった試し行為が見られることも多いです。
    この物語の主人公雨音は、父親からしっかり愛を受けていたんだなと思うと同時に、父子家庭の父親が、娘と協力しているとはいえ、仕事と家事を”きちんと”両立し、不足なく愛を注ぎ、さらに自分自身も恋愛する時間とエネルギーがあることに驚きました。
    また、雨音のオトナな考え方やふるまいが中学2年生らしくないと感じられてしまいます。
    高校2年生ぐらいだったらありえるかなぁと思うんですけど。

    さらに、帆波のわがままさ。
    同じ男を愛した女がすでに血の繋がった娘と生活を共にしているのに、そこに割り入っていくとは。
    しかも、春に出産が控えているとのこと。働けないばかりか家にいてもお世話になる存在ですよね。
    いろんなことを気にしない国吉はいいとしても、新生児と一緒に広くない家に暮らすのは本当にたいへんだと思います。出ていってほしいと思っても、同居を了承した以上そうは言えない葛藤もあって、けっこう苦しい思いをするのではないかと今から心配してしまいます。

    それに、春には雨音も受験生ですよね。プレッシャーの中、新生児に注がれる愛を、平然と見ていられるのでしょうか。


    まあ、こんな危うい無責任感がいっぱいの物語ですが、これら登場人物の特異性に救われて、読後感は悪くないです。

    特に、国吉さんがいいですね。慮ることのできない杓子定規の人ですが、そのために周囲はいらない気遣いから開放されて楽になっているようです。
    辛い渦中にいる人たちに、どれだけの距離感を持って寄り添っていったらいいのか、このお話は考えさせてくれます。

    ただこの3人の同居生活があまりにも理想にすぎるので、現実的に親子や養親子の問題に苦しんでいる人には参考にならないでしょう。単純に読み物としてならおすすめできます。

    文章は平易ですが、状況理解ができたほうが楽しめると思います。しっかりした高学年以上の読書をオススメします。

  • それぞれの立場や思いを考えると辛いけれど、お互い一緒にいることで保たれている。辛いときに一緒にいられる人って、そのあともずっと一緒にいられる、未来につながる人かもしれない。

  • いとうみくさんの本は
    小学校高学年の女子にファンが多く、
    図書室にもかなりあるが、これは図書館の
    ヤングアダルトコーナーに置かれていた。
    他人から見ると、ありえない3人の同居、
    抜け落ちた家族の穴を埋めるように、
    どんどんしっくりとなっていく。
    いい人ばかりじゃないところが、好きだった。

  • よかったと薦められて読んでみたら、一気読み。うまくいえないんだけど、ほんとによかった。
    周りからみたら普通でないのかもしれない、かわいそうと思われているのかもしれない。でもそんなの他人が決めることじゃない。雨音と国吉さんとのやり取りも、帆波さんも、廉太郎も、好きだなぁと思った。何が幸せかなんてわからないけど、読んでてあったかい気持ちになった。チェッカーベリーの花言葉、素敵なタイトル。

  • 父が交通事故で亡くなった。
    幼い頃、母は離婚し、父と私を置いて家を出た。
    父には1ヶ月後に結婚を控えた女性がいたが、彼女も一緒に事故に遭い今は入院している。
    おいでと言ってくれる叔母がいるが、引き取る余裕なんてないのはわかっている。
    何よりも、この家に居たい。


    中学生の雨音はどうにも身動きが取れなくなったところを、実の母・国吉さんと暮らすことになる。幼馴染みの蓮太郎のさり気ない気づかいに息をつき、父の彼女だった穂波さんとも新しい関係を結びなおしていく。



    〇ずれたりすれ違っているところもあっても、よい家族なのだなあと思う。国吉さんはADHD の自分を律して、穂波さんはちゃっかり大らかに、雨音ちゃんは真面目に少しずつ柔らかな世界と自分を見つけられるのではないか。
    連太郎くんは、これから学生の時代をしっかり味わって欲しいな。

  • 父をなくした雨音は、父の元妻である国吉さんと暮らすことになる。この人のユニークさがすばらしい。なんでもきっちり決めないと動けないなど一般的には問題があるとされることはあるけど、それでもいいのだ、と思う。新しい家族のかたちを感じさせる。

  • 父子家庭の雨音、中2の夏休みに突然父が死ぬ。1人になった雨音は昔出て行った母と住むことになる。そこに父の再婚相手だった帆波が妊娠もあって三人で住むことになる。実の母の不器用な性格が人間関係の距離感を狂わせ、逆にぎこちなさを修復していく。三人の個性豊かな女性たちの暮らしがとても良い感じだった。
    父はいなくなってしまったけれど、きっとこの先もやっていける、そんな未来を信じる事ができる、そんな素敵な物語。

  • お父さんを突然失くした雨音。
    そこに出現した産みの母「国吉さん」。
    その後一緒に住むことになる父の婚約者帆波さん。
    雨音の親友唯も廉太郎も中2なのに十分大人の考えを身につけている。
    にしても産みの母国吉さんは、絵に描いたような発達障害。けれどもこの先雨音と暮らすことで、生きることが楽になっていくんじゃないかな。
    ついでに父も結構発達障害入っていると思う。相手の気持ちを忖度できないあたり。
    それに比べて、雨音は定型発達ゆえに気を回し過ぎるところがけなげ。
    ついでに、廉太郎のヤングケアラーっぷりにも胸をつかれる。

  • 母を知らず、父とふたり家族の外崎雨音(とざき あまね)、中学2年生

    父が事故であっけなく死んでしまい、父と暮らしていたマンションに住み続けたいと願っていると

    「お困りでしたら、わたしと住みますか?」

    電話してきたのは国吉さん、雨音の実の母だった

    雨音と国吉さんの風変わりな共同生活に、父の婚約者がくわわって……

    《家族? 友達? 恋人?・・・どんな名もつかない間柄がつむぐ糸の行方は》──帯のコピー

    『朔と新』で野間児童文芸賞を受賞した いとうみく の受賞後YA第一作、2021年2月刊

    《人と人との物理的な距離に対する考え方が一変している今、心の「間合い」を描いた物語。》──編集者コメント

    肉親をなくした少女のアンビバレントな心、彼女を思う周囲の人々の関わり方、“欠陥人間”とのコミュニケーションなど描写に深みがあり、人物像がくっきりと浮かび上がってくる

    また
    ・いろんな声や笑い声に混じって、パコンパコンとすのこの上に上履きを落とす音が響いている。
    ・男子数人が上履きの下に雑巾を置いて、長い廊下をスケートのように滑っていた。
    などディテールの描写にリアリティがあり、読みごたえのある作品にしあがっいる

  • なかなかいいお話だった。図書館で本と目が合って、気になって、ぐるっと一回りしたあとやっぱり気になって借りてきた本。
    父親と二人暮らしだった中2の外崎雨音。父親が突然の事故死。これだけ聞くと重苦しそうな話のように思える。でも、顔も知らなかった母親と、父と結婚予定だった婚約者と一緒に暮らすようになる。これが意外とうまくいく。「よかったな。ちゃんと外崎のこと大事に思ってくれる人たちがいて」同じこと考えてたよ、廉太郎くん!
    お父さんの死が、雨音に新しい出会いを運んできてくれたんだなあって感じながら読んだ。
    父親の死、発達障害、ヤングケアラー、中学生の恋、色々と盛り込まれているけど押し付けがましくない、さらさらと読める素敵な文章だった。

全27件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

神奈川県生まれ。『糸子の体重計』で日本児童文学者協会新人賞(2013年)、『空へ』で日本児童文芸家協会賞(2015年)、『羊の告解』でうつのみやこども賞(2019年)『朔と新』で野間児童文芸賞(2020年)、『きみひろくん』でひろすけ童話賞(2021年)、『あしたの幸福』で河合隼雄物語賞(2022年)、『つくしちゃんとおねえちゃん』で産経児童出版文化賞(2022年)を受賞。そのほか、『かあちゃん取扱説明書』『二日月』『チキン!』『カーネーション』『ぼくんちのねこのはなし』『よそんちの子』など、話題作を多数発表している。全国児童文学同人誌連絡会「季節風」同人。

「2022年 『バンピー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

いとうみくの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×