最重度・重複障害児かなこちゃんの暮らし

  • 明石書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (195ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750322742

作品紹介・あらすじ

普通学級で過ごす重度障害児のかなこちゃん。学校生活における彼女の存在自体が,健常児に「障害とは何か」「障害者にどのように接すれば良いのか」を学ばせる。幼少時代から高校生の現在までの写真とエッセイ,インタビューで綴る,障害児と共に育つということ。

感想・レビュー・書評

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  • 4月上旬、We173号で話を聞いた李国本修慈さん(くにやん)が、北村さん宅へ伺うというので、なぜか私もついていく。

    かなこさんのことは、この本や、ほかにも記事になったものを読んだり、たまにはブログものぞいたりして、少しは知っていた。でも、会うのは初めてだった。北村さん宅へおじゃまして、まずかなこさんの顔を見て挨拶、それからこの春に卒業した関大での聴講生ライフをゼミ仲間が撮った「伝える。」の映像を見せてもらったり、アルバムを見せてもらったり。

    その晩の宴会には、母上の恵子さんが「育ての母」とも呼ぶ何人かのヘルパーさんも来られ、かなこさんの兄も食卓にあらわれ、宴半ばにはかなこさんの父上も仕事から帰ってこられた。

    ビールを飲み、旺盛な食欲をみせるかなこさん。その宴会のさなかに、くにやんが、恵子さんにインタビュー。としごろの娘が、親の手から離れて生きていくのはあたりまえだというのは、"重い障害"がなければ、ごくふつうのことかもしれないが、かなこさんには"重い障害"がある。親が大事に大事に抱えこんでもおかしくないし、"重い障害"のある人は、親きょうだいが抱えられなくなったら、施設入所というのがこれまでよくある道だった。

    けれど、恵子さんは、かなこさんが大学に通っていた間も、最初の数回だけ「挨拶」したほかは、ほとんどタッチせず、ずっとかなこさんに任せてきた。娘がかわいくてしかたがないという態度がありありとしている父上も、としごろの娘とのあいだに線を引いていると感じた。

    そんな北村さん宅から帰ってきて、復習のように『かなこちゃんの暮らし』を読む。

    かなこさんを地域の小学校へ行かせたいという希望は叶わず、小学校の1年は奈良の養護学校へ、そして北村さん一家は、大阪市の平野区へ越してくる。2年のはじめから、かなこさんはすぐ近くの平野西小学校へ通うことになった。恵子さんは「あまりに簡単に入学がOKされたので、ちょっと拍子抜けする思い」だったという。

    当時、平野西小の先生だった中谷さんと酒井さんは、こんなことを記している。
    ▼お母さんが、平野西に転校できて良かったことはいっぱいあるけれど、そのひとつに、家に友だちがたくさん遊びに来てくれること(その第1号が青やん)、スーパーや道で子どもたちやお母さんたちから、「かなちゃんのお母さん」と声をかけられ、いろいろ子どものことを当たり前に話せることだと言われている。(p.63)

    その恵子さんの思いや、かなこさんと子どもらの関わりをうけとめながら、先生たちはこうも書く。
    ▼私たちの見えない所で、「重度」と言われる障がいのある子どもたちは、いろいろと排除されている。かなこと暮らし、地域につながりを広げていくなかで見えてきた「差別」の実態は厳しい。(p.69)

    うしろのページには、かなこさんが平野西に入ったときの障害児担当であった酒井先生の文章も入っている。「かなこさんはしゃべれないけれども本当にいろいろと微妙な、私たちのことも友だちのことも分かっているんだ」と気付かされてきたこと、それだけじゃなくて、「かなこは分かってる」と口では言いながら、かなこさんの気持ちをないがしろにしてしまったというご自身の体験が、率直に書いてある。すごいな、この人と思い、そんな酒井先生を「あんた何してんねん」と言える同僚の先生がおったことも、すごいなと思った。

    小学校の頃の子どもたちの作文や、小学校から中学校まで一緒だった友だち、中学校で一緒だった友だちが、かなこと分かれた高校生活を送ってるなかで書いた文章も入っていて、小学校、中学校、高校での写真もたくさんあって、そういうのを見ながら、地域の学校で一緒に生きるということは、やっぱり大きいなと思った。"重い障害のある子"ではなくて、友だちの中で"かなこ"だったことが、よくわかる。

    巻末で、恵子さんがこう書いている。
    ▼佳那子が生まれたときは、こんな生活が出来るとは夢にも想っていませんでした。「何も解らない。何も出来ない。いつまで生きられるか解らない」と言われた娘が、自分で人生を選び、生きています。「子どもは子どもの中で育つ」と言われます。まさにそうだと想います。大阪に来て地域の学校で共に学び、高校まで…。(p.183)

    そして、大学生活を終えて、かなこさんのこれから。かなこさんが、"恵まれた、特別な"存在ではなく、あたりまえに"かなこ"として生きていける社会、自分もそういう社会の一員でありたいと、ほんとに思う。

    (4/11了)

  • 障害を持つ人が地域で暮らすことについて考えさせられた。
    そこには私たちが想像する以上に大変なこともいっぱいあるとは思うが、それ以上にたくさんの希望を見れた一冊だった。

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著者プロフィール

1975年、和歌山県に生まれる。
18歳で福祉作業所勤務。同時期、伝説のプロボクサー、アンチェイン梶と共にローカルFM局のDJとして活躍。
20歳で写真家牧田清に憧れ、カメラマンを志し、サンスタジオ助手を経てフリーに。
作品は大阪市営地下鉄平野駅通路、「リバティおおさか」(大阪人権博物館)に常設展示。
現在、NPO法人団体の契約カメラマンとして、障害児の撮影に励む。

「2006年 『最重度・重複障害児かなこちゃんの暮らし』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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