- Amazon.co.jp ・本 (664ページ)
- / ISBN・EAN: 9784750334943
作品紹介・あらすじ
経済の分配・公正と貧困・飢餓の研究でノーベル経済学賞を受賞した著者が、不公正・不平等が蔓延する時代に、どうすれば正義を促進し、不正義をおさえられるかという問いを徹底的に追究する。ロールズの正義論を踏まえて、センの正義に関する議論を網羅した集大成。
感想・レビュー・書評
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ー 実現に焦点を合わせる観点は、完璧な正義を追求するのではなく、世の中の明らかな不正義を防ぐことの重要性も理解しやすくする。マツヤニヤーヤの例がはっきりさせているように、正義の課題は、単に完璧に公正な社会を達成する(あるいは達成することを夢見る)ことではなく、(マツヤニヤーヤの恐ろしい状態を避けるといった)明らかにひどい不正義を防ぐことにある。例えば、一八世紀から一九世紀にかけて人々が奴隷制廃止を訴えたとき、人々は、奴隷制の廃止によってこの世の中が完璧に公正な社会になるという幻想を持って努力したわけではなかった。むしろ、奴隷のいる社会は全く不正義な社会であるというのが彼らの主張であった(すでに取り上げた著作家の中では、アダム・スミス、コンドルセ、メアリー・ウルストンクラフトは、この視点を提示することに深く関わってきた)。奴隷制の廃止を最優先課題としたのは、奴隷制は耐え難い不正義であるという判断であり、そのために、完璧に公正な社会がどのようなものであるかに関する合意を追究する必要はない。 奴隷制の廃止に導くアメリカの南北戦争はアメリカにおける正義にとって大きな成功であったと考える者は、(完璧に公正な社会とその他という対比しかない) 先験的制度尊重主義の観点からは、奴隷制の廃止による正義の促進に関してほとんど何も言えないという事実を受け入れるだろう。 ー
「先験的制度尊重主義」の「正義論」が決して悪いわけではない。ただし、その議論の過程で放っておかれているままの、世界に溢れている不正義を見過ごすことは出来ない。これが、センの思想の根幹にある。
正義は「正義論」を待たない。不正義を正す行為に「正義論」の完成は必要ない。不正義を正すために必要な正義は何か、というのがセンの問いなんだと思う。
ロールズの正義論は、その理想的な完成形として、とても正義に適った理論だと思う。正義の理論は、ロールズの正義論であるべきだと私も考える。ただし、この正義論はあくまで理想的な理論であり、我々がこの世界で実際に制度設計を行う方法論としては、世界があまりにも強固に不平等と不正義で構成されすぎている。
センの正義に関する考え方は、「正義論」といった完成された、整理・分類された理論ではない。なのでセンの正義論は〜である、と簡単に言えるものではない。それは、比較論的なものであり、目の前にある、不正義、不平等、不自由、不幸、不便、不満との向き合い方に関する考えた方なんだと思う。
そして真に問うべきなのは、この不正義であり、この不正義を無くす為に行為することこそが、正義のある場所であり、どこにもない「正義論」を振りかざす場所が正義のある場所では決してないのだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
◆10/30オンライン企画「経済乱世を生きる」で紹介されています。
https://www.youtube.com/watch?v=CAwIOji3lf4
本の詳細
https://www.akashi.co.jp/book/b96103.html -
【書評】週刊読書人2012年3月16日(福間聡)。
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原題:The Idea of Justice (2009)
著者:Amartya Kumar Sen(1933-)
訳者: 池本 幸生
【書誌情報】
価格 本体3,800円+税
ISBN 9784750334943
判型・頁数 4-6・684頁
出版年月日 2011/11/25
経済の分配・公正と貧困・飢餓の研究でノーベル経済学賞を受賞した著者が、不公正・不平等が蔓延する時代に、どうすれば正義を促進し、不正義をおさえられるかという問いを徹底的に追究する。ロールズの正義論を踏まえて、センの正義に関する議論を網羅した集大成。
http://www.akashi.co.jp/book/b96103.html
※冒頭にローマ数字による頁表記なしこの目次では勝手に補った。
【目次】
目次 [iii-ix]
凡例 [x]
序文 [001-017]
どのような種類の理論か?
民主主義、グローバルな正義
ヨーロッパ啓蒙運動と我々の世界的遺産
理性の場所
謝辞(アマルティア・セン) [019-030]
序章 正義へのアプローチ 031
推論と正義
啓蒙運動と基本的な相違
出発点
唯一の先験的合意の実現可能性
三人の子供と一本の笛――例証
比較に基づく枠組みか、それとも先験的枠組みか
達成、生活、ケイパビリティ
インド法における古典的区別
過程と責任の重要性
先験的制度尊重主義とグローバルな無視
第I部 正義の要求
第1章 理性と客観性 069
啓蒙主義的伝統に対する批判
アクバルと理性の必要性
倫理的客観性と理性的精査
アダム・スミスと公平な観察者
理性の及ぶ範囲
理性、感情、啓蒙運動
第2章 ロールズとその後 099
公正としての正義――ロールズのアプローチ
公正から正義へ
ロールズの正義の原理の応用
ロールズのアプローチから得られる積極的な教訓
効果的に解決できる問題
新たな検討を要する問題
ユスティティアとユスティティアム
第3章 制度と個人 129
制度選択の依存的な性質
契約論的理由による行動の規制
権力とそれに対抗する必要
基礎としての制度
第4章 声と社会的選択 145
一つのアプローチとしての社会的選択理論
社会的選択理論の射程
先験主義と比較主義との距離
先験的アプローチは十分か
先験的アプローチは必要か
比較は先験性を特定できるか
推論の枠組みとしての社会的選択
制度改革と行動変化の相互依存
第5章 不偏性と客観性 179
不偏性、理解、客観性
混乱、言語、コミュニケーション
公共的理性と客観性
異なる領域における不偏性
第6章 閉鎖的不偏性と開放的不偏性 193
原初状態と契約論の限界
国内の市民と国外の他者
スミスとロールズ
ロールズのスミス解釈
「原初状態」の限界
排他的無視とグローバルな正義
包摂的矛盾と対象グループの可塑性
閉鎖的不偏性と偏狭主義
第II部 推論の形
第7章 立場、妥当性、幻想 235
観察と知識の立場性
立場性の明快さと幻想
客観的な幻想と立場による客観性
健康、病気、場所による変化
性別による差別と立場に基づく幻想
立場性と正義論
立場に基づく限界の克服
誰が我々の隣人か
第8章 合理性と他者 261
合理的選択と実際の選択
合理的選択 vs. いわゆる「合理的選択理論」
主流派経済学の偏狭さ
利己心、共感、コミットメント
コミットメントと目標
第9章 不偏的理由の複数性 289
他者が理性的に拒否できないもの
非拒否性の複数性
協力の相互利益
契約論的推論とその範囲
力と義務
第10章 実現、帰結、行為主体性 307
アルジュナの議論
最終的結果と包括的結果
帰結と実現
実現と行為主体性
第III部 正義の材料
第11章 暮らし、自由、ケイパビリティ 327
自由の評価
自由――機会と過程
ケイパビリティ・アプローチ
なぜ達成を越えて機会に進むべきなのか
通約不可能性の懸念
評価と公共的推論
ケイパビリティ、個人、コミュニティ
持続可能な発展と環境
第12章 ケイパビリティと資源 365
貧困とケイパビリティの欠如
障害、資源、ケイパビリティ
ロールズの基本財
ロールズ理論からの離脱
ドウォーキンの資源の平等論
第13章 幸福、福祉、ケイパビリティ 387
幸福、ケイパビリティ、責任
経済学と幸福
幸福の範囲と限界
幸福の証拠的関心
功利主義と厚生経済学
情報的限界と不可能性
幸福、福祉、優位性
健康――認識と計測
福祉と自由
第14章 平等と自由 417
平等、不遍性、本質
ケイパビリティ、平等、その他の関心
ケイパビリティと個人の自由
自由の多面性
ケイパビリティ、依存、干渉
パレート的リベラルの不可能性
社会的選択 vs. ゲーム形式
第IV部 公共的推論と民主主義
第15章 公共的理性としての民主主義 455
民主主義の内容
限られた民主主義の伝統?
民主主義のグローバルな起源
中東は例外か?
報道とマスメディアの役割
第16章 民主主義の実践 479
飢饉防止と公共的推論
民主主義と発展
人間の安全保障と政治権力
民主主義と政策の選択
少数者の権利と包摂的優先順位
第17章 人権とグローバルな義務 503
人権とは何か
倫理学と法
立法のルートを超えて
自由としての権利
自由の機会の側面と過程の側面
完全義務と不完全義務
自由と利害
経済的社会的権利の妥当性
精査、実行可能性、利用
第18章 正義と世界 547
激怒と理性
正義が行なわれるのを見ること
理由の複数性
不偏的理由と部分順位
部分的決定の及ぶ範囲
比較の枠組み
正義と開放的不偏性
正義の要件としての非偏狭性
正義、民主主義、グローバルな理性
社会契約と社会的選択
差異と共通点
訳者解説 [587-615]
訳者あとがき(二〇一一年八月 また新しい首相が熟議もなく決まった日に 池本幸生) [616-623]
原注 [624-658]
事項索引 [660-663]
人名索引 [664-666] -
また読む
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大崎Lib
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立場の違いのところが気になった。
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ココにあります。予約も→ http://bit.ly/1UsmPYz
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オレはこの本を読んで、意味がよく分からなかった。
しかし、アルマティア・センは、アダム・スミスが経済学をモラル・サイエンスだと捉えた、その考え方を、現代の経済学において継承している点で、注目に値する。
アダム・スミスの、各人の利己心を有効に活かすことが市場の活性化、経済社会全体の活性化になる、という考えを継承している。
彼の妻エマ・ジョージナ・ロスチャイルドは、第3代ロスチャイルド男爵ヴィクタ-の娘。経済史学者であり、アダム・スミスの専門家だ。
アルマティ・センは無神論者だ。
Wikipediaから
アマルティア・センの研究は、飢饉、人間開発理論、厚生経済学、貧困のメカニズム、男女の不平等、および政治的自由主義などである。
経済学は、
「人はいかに生きるべきか」
「人間にとっての善」
という倫理学と工学の2つの大きく異なる起源から派生しているとされている。
センは、前者を「モチベーションの倫理的な考え方」と呼び、後者を「それを達成するための手段」としている。
センは、現状の経済学を批判するが経済学のもつ分析力については否定していないし敬意を払っている。
彼がとる分析手法は経済学の一般的なテクニックに根ざしている。 -
「青木昌彦の経済学入門」に触発されて図書館から借りたもの。読み終えることができるかなぁ。