ヒトラーの娘たち――ホロコーストに加担したドイツ女性

  • 明石書店
3.75
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750343747

作品紹介・あらすじ

ナチス・ドイツ占領下の東欧に入植した一般女性たちは、ホロコーストに直面したとき何を目撃し、何を為したのか。冷戦後に明らかになった膨大な資料や丹念な聞き取り調査から、個々の一般ドイツ女性をヒトラーが台頭していったドイツ社会史のなかで捉え直し、歴史の闇に新たな光を当てる。2013年全米図書賞ノンフィクション部門最終候補選出作。

感想・レビュー・書評

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  • ナチの高官たちが、家庭では良き夫、父親であったということは知っていたが、女性たちのホロコースト加担があったことは全く知らなかった。
    みな、特に残虐な性格だったわけでもなく、ごく普通に良い暮らしをしたいと望む若い女性たちだったことが恐ろしい。
    私がその時代のドイツに生まれていたら、彼女たちのようにならなかったとは言い切れない。

  • ドキュメントなので文体は控えめだが、かなりショッキングな内容である。戦争がどんな異常な状況を作り出すか、戦争に限らず集団心理が罪の意識にどんな影響を及ぼすか、考えさせられた。

  • 歴史
    ノンフィクション
    戦争

  • ★3.5
    ナチ党員には多くの女性が存在し、ナチを支持した彼女たちにも責任がある、と訴える1冊かと思った。が、間接的にではなく直接的に、ユダヤ人を死に追いやった女性たちが紹介されていて、その残酷さに唖然とする。そして、様々な証言があるにも関わらず、その女性たちが戦後に不起訴や無罪になったことに驚きを隠せない。確かに、不安定な時代で周りには暴力が溢れ、次第に感覚が麻痺していったのだろうと思う。ただ、だからと言って許されるものではない。環境と権力、強者と弱者の構図が用意された時、人は残忍になってしまうのか…。

  •  最初にタイトルを見たときに、ヒトラーに子供がいたっけと思ってしまったが、そうではなくてナチス体制下でナチスの一員として働いた女性のことを指していた。ユダヤ人の迫害、虐殺に関与した女性のことを調べて書いているのだが、女性は大勢で組織的に虐殺にかかわった人たちはあまり多くなく、割と個人的な立場からかかわった人が多かった。だから調べて書かれている内容も、個人個人のことが書かれていた。なかなか資料も少ないだろうに、綿密に調べて描かれていたが、あまり読みやすいものでも読んで楽しいものでもなかった。

  • 田舎からでてきて暮らしたい、新しい服や靴を買いたい。そういった日常での何気ない豊かさを望む気持ちが一般の多くの女性がホロコーストに巻き込まれていったという。そして、そこから逃れる術がなかったのだろうと思う。そのようにして、戦争に巻き込まれるのだと思った。

  • ナチス政権下でホロコーストに関わった女性たちについて。
    戦争や虐殺についてのジェンダー神話(女性は戦争や虐殺を本能的に忌避する等)について一石を投じるもので、条件と環境が整えば、女性も殺人者、戦争犯罪者になるということが史実をもとに説かれる。
    詳しい経歴や行動の具体的描写が多く、ページ数が多いが飽きずに最後まで読ませる。

  • ナチのユダヤ人虐殺に加担したドイツ女性といえば、「ベルゲン・ベルゼンの雌けだもの」と呼ばれたイルマ・グレーゼぐらいしか知られていない。鞭を振り回す兇暴な女看守のイメージであり、戦後はそれに「淫乱」という虚像が加えられ、低俗なポルノグラフィ(言うまでもなく男の、男による、男のための産物だ)のネタとして消費されてきた。
    本書はそれにとどまらない、ナチ社会の一員としてホロコーストの一端を担った女性たちの記録である。ちなみに著者は女性だが、ドイツ人ではない。

    たとえば、ユダヤ人やロマ等少数民族、ドイツ人でも障碍者やPTSDを発症して「使い物にならなくなった」兵士たちに、致死性の薬品を注射した看護師。
    ナチの高官が決定したジェノサイド作戦を口述筆記してタイプし、コピー機などない当時のこと、それを何部も複製して回覧に供した秘書や事務員。
    そうしてユダヤ人が追い立てられた後、その家屋を整頓し、家財を(ドイツ人の)難民に分配した者。
    これらの仕事(看護、秘書、補助的事務、家事の延長線上にある軽作業)に「ふさわしい」とされているのは、昔も今も女性である。なのに、こういった形で「有罪」であった女性たちの罪は、女性は社会に参加しておらずまた無垢で無力であったという「イメージ」によって見過ごされてきた、そう著者は指摘する。
    さらには、ナチ高官として権力をふるい、娯楽的に通りすがりのユダヤ人を手にかけていた者の、妻や恋人であった女性たち。罪人の公私に渡る「パートナー」であった彼女らは、もちろんこの「レクリエーション」においても例外ではなかった…。

    まあ、それはそうなんだろう。著者が調べ上げた事実関係や、ユダヤ人の財産をかすめ取るといった欲得ずくから犯行に加担し、戦後は口をぬぐっていた人々の恥ずべき厚顔さに対して、言うべきことは何もない。ただ。
    女性はいつだって、加害者であると同時に被害者でもある。ユダヤ人を虐待した彼女たちの夫や上司や父親は、ユダヤ人に加えて彼女たちをも虐待していた。その「二重の加害者」すらいまだ十分に断罪されてはいないというのに、一方では被害者であった女性たちの罪「のみ」をことさらに取り上げ、「男は後回し」にすることは、はたして適当なのだろうか——他のことではいつだって、「女は、男より後回し」であるというのに。

    まさしくドイツ的な几帳面さで膨大な文書を残したナチの資料に、責任者として女性の名前が記載されたものは皆無に等しい。それらを(秘書として、物理的に)作成していたのがことごとく女性であったことが、専門家として長年こういった資料を読み込んでいる人々にとってさえ盲点であったことが、第三帝国(に限らないが)における女性の地位を端的に物語る。
    男たちが作った国で、男たちが始め、女性たちに強制した戦争の罪を、「まず何よりも先に」女性たちが償わねばならないのだろうか…?

    2017/5/21〜5/23読了

  • ヒトラーの狂気の時代に、その一翼を担っていた女性たち。教師、看護師、秘書。
    ジェンダー問題と微妙に関わる、でもそことも微妙に違う、時代を考慮してもこんなにもエスカレートするナチスの狂気。読んでいても辛い。

  • ヒムラーは敵を破壊し、アーリア系の血統を広めることで、ドイツ民族を保護し増強させるという二重の責務を負っていた。ナチ運動はヨーロッパの歴史を新たな方向、すなわちドイツによる派遣の時代へと導くことを追求していた。その中心をなす反ユダヤ主敵世界観は、ユダヤ人の人種的、政治的影響力からの解放を意味した。危機の時代にユダヤ人をスケープゴートにすることは、当然ドイツ人がおもいついたことではないが、ナチのイデオロギーの特徴はこのような他者の重要性だった。

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著者プロフィール

クレアモント・マッケナ・カレッジ歴史学部教授(John K. Roth Chair)、ミュンヘン大学リサーチ・アソシエイト。アメリカ合衆国ホロコースト記念博物館の学術コンサルタントも務め、20年にわたりホロコーストに関する資料調査とフィールド調査を行っている。家族とともに米国・カリフォルニアのロサンゼルスとドイツのミュンヘンに居住。

「2016年 『ヒトラーの娘たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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