在野研究ビギナーズ――勝手にはじめる研究生活

著者 :
制作 : 荒木 優太 
  • 明石書店
3.61
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感想 : 65
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  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750348858

作品紹介・あらすじ

「在野研究者」とは、大学に属さない、民間の研究者のことだ。だれでもいつでも、学問はできる。現役で活躍するさまざまな在野研究者たちによる研究方法・生活を紹介する、実践的実例集。

感想・レビュー・書評

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  • 「研究者」というと、大学や研究機関に所属し、自分の研究分野に関連する学会や学術雑誌で研究成果を発表する人というイメージだろうか。
    もちろん、そうした研究者は多いが、本書で扱うのは、いわゆる「在野」の研究者である。つまり、「職業」としての研究ではない、どこにも「所属」しない研究である。
    編著者を含めて、さまざまな分野で、己の興味の対象を探求する総勢18名。
    さて彼らがどのように今の研究スタイルにたどり着き、どのように研究を推し進め、どのように発表の場を持っているのか、研究者自身の執筆により、または対談形式でその姿に迫る。

    大学などの「在朝」研究者に比較して、「在野」の研究者のハンディとなるのは、研究に充てる時間また費用であろう。しかし一方で、カリキュラムやしがらみに捕らわれることなく、己の興味の向くままに、突き詰めて1つのことに取り組みことができるのが利点である。
    「在野」の性質上、大掛かりな研究設備や機械が必要な分野には関与しにくい。したがって、本書で取り上げられる研究者は多くは人文系であるのは無理のないところだろう(例外は博物学的な生物研究者。この分野は古くから在野研究者の多いところでもある)。

    現代ではインターネットの発展で、在野でも多くの資料に触れることが可能となってきている。非常に恵まれているともいえるが、それだけにどこに目を付け、どのように展開していくのか、「切り口」が大切になってくるともいえよう。
    政治学、AI、視覚文化、活字史、妖怪、哲学。さまざまな研究者の姿から見えてくるのは、在野といえども閉じこもるのではなく、他の研究者とつながり、視野を広げていくことの大切さである。
    在野としての自由度をどのように最大限に使っていくのか、キーはそのあたりにあるのかもしれない。

    個人的には、青空文庫に関与し、また翻訳研究者でもある大久保ゆう氏の話をとてもおもしろく読んだ。

    「研究」というと堅苦しいが、趣味の延長のように始まる「研究」があってもよいのではないか。もちろん、それを追究し、何らかのレベルに到達するのは難しいことなのではあるが。
    多くの「在野」研究者の姿から、興味を惹かれる研究分野、あるいは研究スタイルが見つかりそうな、刺激に満ちた1冊である。

  • 大学などの研究機関に属さず、在野で研究をつづける各分野の研究者15人が、自らの研究生活について綴った文章を集めたもの。

    私は、一般の「知的生活の技術」本を読むような気持ちで、「ライター仕事に役立つノウハウが書かれているかも」と考えて手を伸ばした。
    が、その点ではやや肩透かし。そういうタイプの本ではないのだ。

    ただし、一部には参考になる点もあった。
    とくに、「市井の人物の聞き取り調査」をおもな研究手法としている内田真木による第8章は、人物ノンフィクションを書こうと思っているライターにとっては参考になると思う。

    また、私はライターだから「あまり参考にならなかった」と思ったが、研究者を目指す人、とくに在野で研究をつづけようと思っている人にとっては有意義な実用書になるだろう。

    私にとっての実用性はとりあえず脇に置くとして、本書は読み物として大変面白い本だった。

    第一に、在野研究という、私がよく知らない分野について知る面白さ。

    第二に、各寄稿者が生活と研究の両立に悪戦苦闘している様子などが赤裸々に綴られる、〝ホンネの文章〟のみが放つリアリティの輝き。

    第三に、「研究とは何か?」「学問とは何か?」という、根源的な問いが通奏低音として流れているゆえの、重い読み応え。

    以上三つがすべての寄稿に感じられ、全体としてとても切実な印象の本であった。
    言い換えれば、仕事の片手間に書いた本というより、各執筆者が「書かずにはいられないこと」を書いている……という感じなのだ。

    とくに、編者でもある荒木優太の文章がとてもよい。
    「早朝の清掃労働のパート」をして最低生活費を稼ぎながら研究をつづけているという荒木は、本書全体に流れるスピリットの体現者という印象だ。

    《実家に住んでいるので金欠になったとしても簡単に死ぬことはないだろう。非正規雇用に従事していたり、社会人になって実家住みをつづけていると、かなりの確率で人々に馬鹿にされるが、馬鹿にされることを恐れて研究者などできない。使えるものはなんでも使う。見栄を張っている余裕がどこにあるというのか。馬鹿にされる、上等である。》(荒木優太「貧しい出版私史」)172ページ

    とはいえ、荒木の在野研究のありようは一類型にすぎず、全編がこういうタッチであるわけではない。

    著者の一人が在野研究を(マンガなどの)同人作家になぞらえていたが、私が本書全体から受けた印象も「同人作家みたいだなァ」というものであった。

    コミケ等を舞台に創作活動をつづける同人作家は、プロのマンガ家・作家を目指しているとは限らない。
    じっさい、商業マンガ誌の編集者が同人作家に「うちでデビューしないか?」と誘っても、「プロになる気はないので」とあっさり断ってしまう人が少なくないと聞く。

    同人作家はプロ予備軍・プロの二軍ではない。それとは似て非なる別の世界なのである。そして、彼ら彼女らはプロではないかもしれないが、アマチュアとも言い切れない。

    それと同様に、在野研究者たちも「大学に就職できなかった人たち」というより、大学教員とは〝別カテゴリー〟なのだと思う。

    少子化などにつれて、大学教員になることが今後ますます狭き門になっていくであろういま、研究者としてのオルタナティブを提示する本書は、時宜を得た刊行といえよう。

  • うわ〜、これは良い!

    オタクやマニアは在野研究者なんです!
    部屋に閉じこもった在野の研究者達、決起せよ〜!

    山本哲士のインタビューだけ、読んでられなかった。お前らダメ、俺すごい、大学ダメ、おれが師事した人や環境はすごい、の自慢しかない。 そうでっか。壁相手に一人で喋っとけ~!このインタビュー、不要だと思う。

    以下、メモ:

    ・在野研究とは何かとと問われれば「自分の好きなもの」たちに近づいていくための一本の道だ。

    ・在野研究を後押ししてくれるのは、「好き」という感情。誰の役に立たなくても、自分の気持ちを満たすことができる。

    ・水木しげるさんの幸福論より「幸福への七か条」

    1:成功や栄誉や勝ち負けを目的に、ことを行ってはいけない。
    2:「しないではいられないこと」をし続けなさい。
    3:他人との比較ではない、あくまで自分の楽しさを追求すべし。
    4:「好き」の力を信じる。
    5:才能と収入は別、努力は人を裏切ると心得よ。
    6:怠け者になりなさい。
    7:目に見えない世界を信じる。

    ・何を持って「研究」と言えるのか? → 「専門家集団の中で、未知の史実的事実に肉薄していく行為」

    ・個人においては、「研究」とは知りたいこと、考えたいことを追求し、人生をより実りあるものへと洗練させてくことが研究生活の目的。

    ・拘束時間を短縮できると、勉強・執筆の時間を一日4時間ほど確保できる。

    ・私にとって、研究とは本を順番に読まない技術の体系だ。

    ・たいていのことは「うるせえ、ばーか」で捨てておけば良い。

    ・再現のない在野研究への没入に対して、紙によるアウトプットは研究を終わらせる/始めさせる強制力として機能する。

    ・成果を「物」にして流通させることは、自分の研究のアピールであると同時に、ものがもっている力を借りて「終わった」ということを感じさせる効用がある。

    ・似たような時代の似たような文章を読み漁り、書き継いでいると飽きが来る。気分転換に違う趣向のものを混ぜて、新鮮な気分で本業にもどる。繰り返していると、付随して専門外の雑文もかけるようになってくる。

    ・丸山眞男は自分の作物を「本店(専門的論文)」と、「夜店()」と分けた。結果として夜店のほうが支持された。

    ・クソみたいな人生に、ちょっといいことがあってもいいじゃないか。

    ・人間関係に恵まれず、社会的評価の高い仕事で認められることも望めず、人生が早くも終わっている人間にとっては「書く」ことは希望になる。

    ・自分の書いたものを読み直して「良いものを書いたな」と思う。これを書き残せたのだからもう死んでもいいかなと感じる。クソみたいな人生のなかで、ほんの少しの幸せを感じたってバチは当たらない。

    ・私は、私自身よりも「私が書いたテキスト」のほうが好きだ。テキストなら、私を超えていける。人間が消えて、テキストが残る。

    ・書きたいものがたくさんある。好きなものがたくさんあることは良いことだ。

    ・研究者たちのなかで「この場にいてよいのだろうか」と考えるより、「自分の無知はどのように活用できるだろうか」という問を立てるほうがいい。

    ・研究のための支援としての「研究会運営」
     ・学位論文構想検討会
      ・定期的に、論文執筆準備作業の進捗報告をおこない、進捗課程におけるアドバイスをえることで、研究水準の上昇を狙う。
      ・表向きには上記の効用が期待できるが、裏の効用として「締切」という明確な縛りを意識する機会となる。

     ・データセッション
      ・資料断片を持ち寄る
      ・多くの場合、自分が知らない資料を共同で「観て」、「その資料から想像を交えずに言えることはなにか」に焦点を絞って議論を行う。
      ・発言を「目の前の資料に関係付ける」という縛りを与えるだけ。

    ・継続性こそが研究の命。積み上げや成果物がなければ学会は続かない。

    ・下手でも出したほうが良い。発表したほうがいい。お披露目会をしたほうが良い。「あ、しまった、間違った」って恥ずかしくなることもあるけど、芸事にはそれはつきもの。

  • ドチャクソ面白かった オススメです

  • 前作『これからのエリック・ホッファーのために』2016が過去の在野研究者を取り上げたのに対し、本書は「今現在活躍している人」を扱う。

    ●総論として

    在野の研究生活に一般解はない。
    個々人の生活はそれぞれ異なる条件を与えられ、使えるリソースもてんでばらばらだ。偶然性に左右される。
    その上でなお在野での学問を志すのならば、各人、使える技法を自分用にチューンナップせねばならない。


    ■工藤郁子 趣味としての研究

    “稼いだお金で学術書を思うさま買っては積み、ときどき読む。
    有給休暇を取って学会に行き、たまに口頭発表をする。
    まれに論文を書くが、別にアカデミックポストを狙っているわけではない。研究の楽しさを満喫し、自分を満足させることを主目的として、やっている。

    ■3人目 伊藤未明 「40歳から「週末学者」になる」

    体調を崩し最初の会社を35歳で退職
    しばらく実家でぶらぶらしたのち、

    修士号を一年で取れることもあり、イギリスのノッティンガム大学に留学

    その後、学者になろうと京大の博士課程
    このとき39歳

    “研究者としての生活にとって会社の仕事は生活費と本を買う金を稼ぐ以上の意味はないものと考えている。

    ●逆卷しとね

    本を読めることは幸せだ。それだけでいい。けれども少しの元気があれば、その幸せを人と共有してみるといい。

    ■8人目 内田真木
    高校教師のかたわら、聞き取り調査
    有島武郎

    「研究ノート」
    見開きにあらかじめ1ヶ月分の日付を記入
    二行で1日分
    読んだものを簡単に記録
    何もしない日は案外少ない。昼休み30分の積み重ね。

  • 大学や研究機関に属さない色々な分野の研究者の方々が、自身の研究の動機・内容・スタイルなどを綴った本です。
    研究とは何か広く考えるきっかけにもなるし、様々な分野の研究の特徴を知ることができるし(在野の研究者の方ゆえの事情が加味されてはいると思うけど)、職業としてでなくても研究を続けている方々だからこそなのか研究対象への熱意があふれてるし、いろんな意味で面白かった。
    在野の研究者の方の困難の1つとして文献へのアクセスが挙げられていたが、オープンアクセスにより少しそれが緩和されたとも複数の方が書かれていた。
    みなさん、苦労されてるのは、仕事との両立(物理的にも精神的にも)というかんじはしたが、適度なところで意識的に折り合いをつけつつ楽しんで研究されてるように思った。

  • 本当によくこれだけ集めましたね。
    研究と飯の種を分けること「も」できるでしょうけど、実際には難しいのでしょう。

  • 大学人ですけれど十分面白い内容というか初心に立ち返らせてくれる内容でした。これから大学に進む人も卒業した人もまさに卒論に取り組もうとしている人も、一読することをお勧めいたします。研究は面白がってやる、ことが大切です。

  • 読み進む程に、自分はもう生きていてはいけないのだなあという気持ちが高まり、一旦読書を中断した。暫く経ってから読書を再開したのだが、気持ちは変わらない。

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著者プロフィール

1987年東京生まれ。在野研究者(専門は有島武郎)。明治大学文学部文学科日本文学専攻博士前期課程修了。2015年、第59回群像新人評論優秀賞を受賞。著書に『これからのエリック・ホッファーのために――在野研究者の生と心得』(東京書籍)ほか、『貧しい出版者』(フィルムアート社)、『仮説的偶然文学論』(月曜社)、『無責任の新体系』(晶文社)など。

「2019年 『在野研究ビギナーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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