アンダークラス化する若者たち――生活保障をどう立て直すか

制作 : 宮本 みち子  佐藤 洋作  宮本 太郎 
  • 明石書店
3.25
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750351520

作品紹介・あらすじ

アンダークラスに落ち込む若者たちの実態を明らかにし、若者施策の前提となっている「親頼み」のメカニズムと限界をえぐりだし、アンダークラス化を防止するためにどのような社会編成が必要なのかを明らかにする。

感想・レビュー・書評

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  • 若者たちに生活保障を充実させ、社会を持続的なものにするというのは全く同意。
    ただこうしたサポート側・支援側の議論を読んでいると、あえてサポートを受けたくないという若者達について、どのように理論で介入を正当化するというのは難しいなと思った。

    例えば未成年であればパターナリズム的な行政による介入は正当化される。
    ただ、成年がセルフネグレクトのような状況に陥った段階で本人が介入を否定するとき、介入はどのような議論で正当化されるのか。リバタリアニズム的立場からすると、介入の根拠は真剣に考える必要があると思った。

  • 3.6/70
    『本書は、不安定な生活基盤、希薄な社会関係のなかで大人になり、アンダークラスに落ち込む若者の実態を明らかにする。そして、若者施策の前提となっている「親頼み」のメカニズムと限界をえぐりだし、アンダークラス化を防止するためにどのような社会編成が必要なのか、若者の現在から将来までの生活保障の必要性を提起する。』(「明石書店」サイトより)

    『アンダークラス化する若者たち』
    編著:宮本 みち子,、佐藤 洋作、宮本 太郎
    出版社 ‏: ‎明石書店
    単行本 : ‎320ページ
    発売日 ‏: ‎2021/3

  • 2022.24

    ・家族頼みでは救われない若者たちがいる。
    ・地域密着型の社会的投資が必要。

  • 日本の場合は高卒あるいは大卒後に企業への就職がほぼ約束されていた背景もあって、いわゆる福祉の枠組みの中で就労支援を行うことが行政の取り組みとして弱かった。時代は変わって非正規労働が増え、経団連でさえ新卒一括採用を否定するようになった以上、教育から労働への移行期にいる若者たちを支える行政上の仕組みが機能しないといけない。という話が興味深かった。できるかどうかは度外視して、課題感としては十分納得できた。

  • 第1章 若者問題とは何か

    第2章 若者世界の分断と高校教育の変容
    ――社会的階層移動から社会的格差の再生産へ

    第3章 リスクを抱えた若者のキャリア形成支援
    ――10代後半の若者を中心に

      コラム1 福祉サービスの器からあふれて、サポステに流入する若者たち

      コラム2 コロナ禍の中で若者に何が起こったのか

    第4章 若者施策としての就労支援

    第5章 アンダークラスを支える
    ――弱者の技法としての静岡方式

    第6章 社会的連帯経済と若者支援

    第7章 若者支援と中間的な働く場づくりの可能性
    ――K2インターナショナルグループの取り組みから

    第8章 家族扶養・正規雇用の相対化から見える若者への社会保障
    ――横浜市における新型コロナ禍前後の取り組みを事例に
    第9章 日本の若者政策における「若者問題」
    ――就労支援と複合的な困難の位相

    コラム3 ソウル市における青年ガバナンスの発動と「青年手当」
    第10章 困難を有する若者支援の法制度と自治体法政策
    ――相談・救済・多機関連携

    第11章 若者支援の政策理念
    ――地域密着型の社会的投資へ

    おわりに――若者の生活保障の展望 (佐藤洋作)

  • 問題が起きていることはわかるが、若者生活支援に慎重に慎重に若者の生活保護費を支給を提案している。そのためにいろんなデータを提供していて文献資料だけで紙面の1/4を占めるのではないだろうか。

  • アンダークラスとは、不安定な雇用、際立つ低賃金、結婚・家族形成の困難という特徴を持つ一群であり、従来の労働者階級とも異質なひとつの下層階級を構成する社会階層である。
    (引用)アンダークラス化する若者たち ー生活保障をどう立て直すか、編著者:宮本みち子・佐藤洋作・宮本太郎、発行所:株式会社明石書店、2021年、15

    我が国は、少子高齢化が叫ばれて久しい。内閣府の「少子化対策白書」による「令和2年度 少子化の状況及び少子化への対処施策の概況」によれば、2019年の出生数は、86万5,234人となり、過去最小(「86万ショック」)となった。また、同年の合計特殊出生率は、1.36と、前年より0.06ポイント低下している。さらに、2021年6月4日、厚生労働省が発表した2020年の人口動態統計調査によると、合計特殊出生率は1.34と、前年より0.02ポイント低下したことが明らかとなった。少子化対策白書では、少子化対策による重点課題として、まず真っ先に待機児童解消などの「子育て支援施策の一層の充実」を掲げる。次に、若者の雇用安定など「結婚・出産の希望が実現できる環境の整備」としている。

    少子化の根本的な原因はどこにあるのか。男性の育児参加や待機児童をなくすことも勿論、大切なことであろう。また、昨今の新型コロナウイルス感染拡大の影響により、結婚が疎遠がちになりつつあることも拍車をかけているのだろう。しかし、最大の要因は、多くの若者たちが将来に希望を持てず、家庭や子どもを持つことを諦めてしまっているのではないかと思う。それは、私が2009年に「子ども・若者育成推進法」が成立した背景に興味を持っているからだ。
    「なぜ、国は、子ども・若者の支援に力を入れるのか。」
    「いま、子どもや若者たちに何が起きているのか。」
    その真意を確かめるべく、私は、「アンダークラス化する若者たち(明石書店、2021年)」を読み始めた。

    まず、「アンダークラス」という言葉が存在することに驚いた。アンダークラスとは、生活水準が下級階層であることを指す。子供の貧困が増大している背景には、家族の崩壊、親の長期の失業、一人親(特に母子家庭)の増加などがある。その結果、不登校や高校中退といった早期の学習機会が奪われ、就労に至らないケースが増加する。我が国では、雇用によって成り立っていた若者の生活が保障できなくなっている。それとあわせて、国家による古い生活保障制度が若者たちを排除することが浮かび上がってくる。
    本書では、アンダークラス化が進む若者たちに、様々な観点から厳しい現実を突きつける。
    では、現代を生きる若者たちに”救いの手”はあるのだろうか。悲観論が続くが、その中においても私が本書で見出した”希望”を3点述べたい。

    1点目は、「つなぐ」ということだ。
    「コミュニティー・オーガナイジング」という言葉がある。若者支援は、行政、民間事業所、地域、家庭などが関わってくる。その際、縦割り行政では、制度のはざまで生きる子どもたちに、支援の手が及ばない。まず、地域社会の資源を結集した「コミュニティ・オーガナイジング」というアプローチにより、各支援者を「つなぐ」ことが必要だと感じた。そのために、私はまず、子どもの抱えている”異常”は、学校で把握するなどの対策も必要ではと感じじている。そして、学校で把握した要支援の子どもたちは、福祉へと引き継がれる体制づくりが急務である。

    また、若者を切れ目なく支援機関につなげる回路も必要だということを理解した。学校からの情報がサポステなどの若者支援機関に届くことは少ないため、来所者の捕捉率は低いという。その中で、高知県の「若者はばたけネット」に希望を見出した。高知県では、中学卒業時及び高校中退時の進路未定者をサポステにつなげ、就学や就労に向けた支援を行うことでひきこもりやニートにならないように予防している。各機関が連携をし、情報を「つなぐ」ことで、若者支援に対して強力なものになる。

    2点目は、「生活保障を立て直す」ことだ。
    我が国の社会保障制度は、一定期間の拠出履歴を前提とした失業保険に基づく社会保険が中心であることが前提となる。社会保険であることから、非正規雇用などの雇用歴が不安定になりがちな若者にとって、失業給付からの脱落に直結してしまう。そのほか、最後のセーフティネットと言われる生活保護においても、審査基準が厳しいと言われている。これらの古い社会保障制度からの脱却が問われる。本書の最後で、宮本太郎氏は、「若者にベーシックアセット」を提唱している。アセットとは、ひとかたまりの有益な資源であり、資源として重要になるのは、支援サービス、現金給付、そして帰属先のコミュニティであるとしている(本書、292)。本書では、ベーシックアセットについて詳述されていないが、宮本太郎氏は、「貧困・介護・育児の政治 ベーシックアセットの福祉国家へ(朝日選書、2021年)」を上梓されている。今後、読んで理解を深めたいと思った。

    3点目は、まだ私たちの周りに「奉仕する心」、「福祉の心」を持ったかたがいることだ。
    まず、各自治体では、再優先課題として、子ども・若者支援対策に取り組むべきではなかろうか。少子化の時代、一人ひとりの貴重な子ども・若者たちが希望を持てるまちづくりを進める必要があると感じた。
    その上で、本書では、「静岡方式」が取り上げられている。静岡の取り組みは、国家、企業、家族でない第四の拠り所として「地域」を位置づけ、これを足がかりにして、若者のライフチャンスを高めようという取り組みである(本書、130)。静岡の事例を見ると、支援される側には、多様なサポーター(ボランティア)が登場する。NPO法人青少年就労支援ネットワーク静岡の取り組みは、地域全般の雇用のありようを変え、地域の「包摂力」をあげることに成功している。この地域の「包摂力」をあげることは、今後のまちづくりにおける根幹となるべき要素ではないだろうか。そのまちには、多様なサポーターたちの「奉仕する心」や「福祉の心」によって支えられていることが必須条件となる。そして、幸いにも、私達の周りには、特に国が危機的な状況(例えば大規模震災時など)に襲われたときに感じるのだが、そのような方が多く存在する。

    アンダークラスの若者たちは、何も好んで、そうなった訳ではない。多くは、大人の理由によることも多い。
    「人間」は「人間」でしか助けられない。
    そのため、いま、私たちは、それぞれ”今いる場所”で、アンダークラス化する若者たちに寄り添い、結びつき、支援をしていく責務があるのだと感じた。それがひいては、少子化を克服する一つの処方箋にもなるし、自分たちのまちを持続可能なものにしていくことだろうと思った。

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著者プロフィール

放送大学名誉教授・千葉大学名誉教授。専門は生活保障論、若者政策論、家族社会学。東京教育大学文学部卒業(経済学専攻、社会学専攻)。お茶の水女子大学家政学研究科修士課程修了。社会学博士。こども政策の推進に係る有識者会議構成員、社会保障審議会委員、中央教育審議会委員、労働政策審議会委員等を歴任。著作に『ポスト青年期の親子戦略――大人になる意味と形の変容』(勁草書房、2004年)、『若者が無縁化する』(筑摩書房、2012年)、『すべての若者が生きられる未来を』(編著、岩波書店、2015年)、『下層化する女性たち』(編著、勁草書房、2015年)、『アンダークラス化する若者たち――生活保障をどう立て直すか』(編著、明石書店、2021年)など。

「2023年 『若者の権利と若者政策』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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